早口で捲し立てるだけの文章

夏の訪れを感じるような汗ばむ陽気。通院のため朝から出かけていた僕は、リモート勤務のために帰宅しようとしていた、そんな時のことだ。

玄関前で鍵を出そうとしてふと気づく。今背負っているの普段とは違うリュックだった、昨晩荷物の入れ替えを行ったが、いつもフロントポケットに入れているキーケースを移し替えた記憶が頭の中にすっからかんだってことに。

ネイビーの、僕のセンスとは似ても似つかわん夫珍しくバチクソイケイケセンスを発揮した、誕生日プレゼントのポーターのキーケース、あれはきっとこの玄関扉の向こう側にある。

朝は夫と一緒に出かけて、僕はゴミを出す係で、鍵を閉めたのは夫だった。だから今の今まで気づかなかったわけであって、ああもう何だって今日はうまくいかない日?

ひとまず不動産屋に電話して、そうしたらいつのまにか課金していたらしいサポート会社に電話せよと言われ、電話番号をメモする紙なんて持ってないし、ドラえもんみたいにカバンの中をひっくり返して、いつも持ち歩いている関数電卓が目に入った。めちゃくちゃ役に立った、なぜなら電話番号なんて数字の羅列だから。ていうかお前、電話番号もメモできるんだ。

サポート会社に電話して事情を伝えると、「じゃあお友達が鍵を持たれてるんですね」と言われて、脊髄反射よりも速く「友達じゃなくて一緒に住んでる人です」と訂正を入れてしまった。後で気づいたが夫は契約時に僕とに続柄を友人としているのだった、ごめん電話口のお姉さん。

あの時パートナーだと言えなかったのは僕の拭いきれない違和感で、あの時友達だと頷けなかったのは僕の譲りきれない意地だった。同居人、それが僕と夫を繋ぎ止める間柄の名称である。

お姉さん曰くすぐに来るらしい、いつになるか分からない折り返し連絡を待ちながらとりあえず会社に連絡して、自分の間抜けさに眩暈を覚えながら玄関前に座り込めば、スマホが家のWi-Fiを拾ってくれた。スマホでギリギリできる仕事をこなしつつ、待っている間に財布を開く。何か色々やってみて無理だったらその場で三千円かかるっていうから。

持っている現金は数百円、さっきの通院で現金は使い切っていた。普段から現金を持ち歩かない悪い癖が出た、五万回くらい同じこと繰り返しているのに何だって僕は財布の中身に興味がない。家の中にも現金はない。絶望しながら折り返しの電話に出たらやっぱり現金しかダメらしい、「作業中にATMに…」と僕が言いかけたら「まあ、お金がかかるかは分からないですから、まずは確認させてください」とおじさんの声。おーまいごっど、ありがとう。

到着した人の良さそうなおじさんは、ほんの数分で鍵を開けてくれた。「お金要らないですよ、終わりましたから」と僕にデジタルサインを求めて、それからすぐに去っていった。おじさんありがとう、あなたのおかげで救われた。おかげでリモート勤務の開始もそんなに遅れずに済んだ。

もうすぐ大人八年目、最近学生に間違われることが二回あった二十代後半戦、もうとっくに折り返してる。

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haru
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