2020/10/25読書メモ
『人が人を裁くという』小坂井敏晶⑤
十分に訓練された捜査官は、被疑者の嘘を見分ける能力に長けており、犯人と確信した者だけを取り調べるので、嘘の自供を引き出す危険はないと取り調べ用の教科書は解説する。しかしこれは過信だ。実証研究によると、嘘を正確に見抜く能力は人間に備わっていない。訓練をいくら積んでも無理なのである。
大学生と警察官を対象にした実験によると、訓練の結果、人の言動に疑いを抱く傾向は強くなるが、判断力は向上しない。しかしそれでも、自分の判断が正しいという思い込みは強くなることがわかる。
(例え家族や親しい友人であっても、自分以外の人間の心の中なんて正確には分からないよね。逆に親しい関係ほど、相手のことが分かると思う傾向が強くなると思うので、それは単なる思い込みだと認識し、手を抜かずにちゃんとコミュニケーションを取らねばならないだろう。)
ある方向に行動を起こすと、同じような行動を続ける傾向が人間にはある。否認の物語を一度でも展開させると、その後で自白に転じさせるのは困難だ。逆に、いったん自白を始めれば、後は堰を切ったように他の事実も白状しやすい。
(日常生活でも、ちょっとした嘘をついてしまうと、ずっとそれを続けなければいけないことがあると思うので、最初が肝心だなあ。)
孤立の効果。厳しい取調べを受け続ける被疑者にとって、家族など大切な人から見放されるのはとても辛い。外からの支えがあるかないかが、虚偽の自白に堕ちるかどうかを分け隔てると言っても過言ではない。
土田・日石・ピース缶爆弾事件の被疑者は、検事の言葉に翻弄され、無実の主張を諦めていた。その態度を決定的に崩したのが、父親から受け取った一通の手紙だった。
「お前は勇気を出して、本当のことを述べよ。父母もおばあちゃんも、いくら費用がかかろうと、年月がかかろうと、徹底的にお前を守り続ける決意をした。一時の安易な気持ちを捨てて、真実に立ち向かう勇気を持て。」
(犯罪の被疑者に限らず、人が前向きに生きられるかどうかは、孤立していないこと。人間の生きる目的は、仲間と飲んで食って歌ってワイワイ楽しく生きること、と言った人がいたが、集団で何か事をなすというのは、生物としての人間の特徴だろう。社会的な生物である人間の強みであり、弱みでもある。)
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