見出し画像

丹波焼の郷・立杭を訪ねて#1

2月のはじめ、兵庫県の丹波篠山・立杭へ。

山に囲まれた集落への入り口は2つ。人口は500人ほどで、うち100人は「丹波焼」にまつわる仕事をしているのだそう。町のなかには50を越える窯元があり、その多くが家族で代々受け継がれ、続いている。そんなストーリーに惹かれ、知人を頼りに訪ねることを決めた。

一つ前の滞在先であった京都から立杭に向かう。電車で約1時間半の道のりのお供は、司馬遼太郎の「街道をゆく」第四巻。知人に、丹波篠山を舞台にした本のおすすめを聞いた時に教えてもらったものだ。司馬遼太郎らは、一日がかり、山越えをして向かった道中の話を、椅子にすわり揺られながら読書をして過ごす自分はずいぶんお気楽だなと思う(そのせいなのか、電車を一駅乗り過ごした)。

兵庫県に入り、三田のあたりでトンネルをくぐると、電車は山と山の間を走っていた。葉っぱが落ちて枝姿になった木々たちが続き、このまま自然に囲まれた感じが続くと思いきや、駅に近づくと街がひらけて少し拍子抜けする。電車の向こうに都会を感じながら、そのまま、待ち合わせの相野駅へ。

駅に着き、迎えてくれた知人の車に乗せてもらって、立杭に連れられる。外の景色を眺めてしばらくすると、山並みがずーっと続くようになった。普段は背中に山があれど、視線の先は開けているから、山を抜けたら、また山が見えることが新鮮だった。

続く山並みが印象的

到着した先は、立杭の窯元の一つである「昇陽窯」。店舗・ギャラリー・工房に、ゲストの宿泊場所が併設されていて、今回お世話になることに。昇陽窯三代目の大上裕樹さんが「こんにちはー!」と、関西のイントネーションのあいさつでで明るく出迎えてくれた。その後ろから、ひょいと妻・彩子さんも現れる。

裕樹さんは、昇陽窯三代目。陶作を学ぶために進学した石川県の芸術大学で彩子さんと出会い、二人で立杭に帰ってきた。アパレルデザインを学んでいた彩子さんは、ギャラリーの空間デザインやSNSを担当する傍ら、最近はアクセサリーなどの陶作もされているそう。裕樹さん、彩子さんが私と同じ靴を履いていることに気づき、ちょっと和んだ。

マットな釉薬の小瓶 / 花瓶
吹き抜けの2階からギャラリーを望む景色が好きだった

丹波篠山に行く一番のきっかけになったのは「陶泊」というプロジェクトだった。丹波焼をつくる職人さんの自宅や工場に宿泊してその手仕事にふれ、郷の空気や文化まで味わえるようにと考えられたものである。

普段から器が好きだから、純水に興味は惹かれたけれど、調べるうちに、丹波焼はつくり手と使う人の距離が近い環境でつくられてきた歴史があると知って、その距離感ってどんな感じ?だからこそ育まれた関係性や文化があるのかな?とそそられた。ただ、今回は陶泊のプログラム体験ではなく、今回は個人の訪問。

到着して間もなく、知人、窯元の大上裕樹さん・彩子さんご夫妻と一緒に夜ご飯を食べに「みやま」さんへ。大上ご夫婦との初対面、ではなく、初めての知らない土地や空気に少し緊張していた。飲み物と食べ物でそれを和らげながら、おしゃべりをする。とはいえ、私の滞在があまりに短く、丹波焼への理解も浅く、ここで暮らす世間話を少し聞くぐらいにとどまってしまったのだけど。丹波焼は「これぞ丹波焼」という型がないことや、大上さんが一度地元を離れて戻ってきた経緯、あとは仲間との楽しい予定の話などなど、あれこれ話を聞かせてもらった。

料理が運ばれてくるたび、料理の説明に加えて、器を作った作家さんと窯元の説明を聞く初めての体験もした。裕樹さんが「〇〇窯さん、最近こんなの作ってないですよね?」というと、「10年くらい前のものです」とお店の方が答えているのを聞きながら、同じ窯元でも作家さんでも、作風は変化するのか、と勝手に納得してしまったけど、実際どうなのだろう。聞けばよかった。

みんなと分かれ、就寝。


朝起きると、ぱらぱらと降る雨が葉っぱにあたり、パサパサと音を立てていた。

宿泊部屋のある2階から1階に降りる。そこは工場で、焼かれる前の器が並んでいた。なるほど、器をそばに暮らすって、こういうことかと、陶泊のプログラムを思い出す。ふいに目にする光景がいつもと違う、私にとっては非日常。だけど、丹波焼をつくる人々にとって、これは日常なんだなと思う。

素焼きをした器がいくつも重なっていた

丹波焼も、窯元さんも、ここにある暮らしもまだわからないことだらけ。また訪ねて、今度はもっと話を聞いて、一つひとつの器と暮らしにふれてみたい。

■陶工の営みに触れる旅『陶泊』

■昇陽窯


昇陽窯ギャラリーにて
つやりと輝くプラチナの装飾に目を惹かれる
立杭の窯元の器が集まる「丹波伝統工芸公園 陶の郷(すえのさと)」にも連れて行ってもらった
地元の小学生たちは、学校の授業で
陶芸体験にくるのが定番で、これは準備の様子。
器を見てから
窯元さんたちが次々と出てくる動画を眺めた。
二日目のランチは「SAKURAI」さんにて
みやまさん同様、
お料理の説明と一緒に器のお話も聞きながら

デザートのクレープは深いお皿に少しうずまるように
ほんのりあったかい生地に
たっぷりのリンゴジャムと粉砂糖
くるりくるりと、あっという間に食べてしまった

最後まで読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます^^サポートでいただいたお金では、新しい経験や美味しいものに使い、良いものは周りの人ともシェアしたいと思います!