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2020年4月に司書になり、今はある大学図書館で勤務しています。 さらに京都芸術大学で…

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2020年4月に司書になり、今はある大学図書館で勤務しています。 さらに京都芸術大学で学芸員過程と芸術学を勉強していいます。 現在文芸誌専門の感想文連載「文芸誌の旅」連載中。

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飯田未和『姥捨』「mon」Vol.17 (付・小説同人誌monについて(追記))

 さまざまな家族のあり方をはじめ、個人の倫理観や生活の価値観が、国家によって規定されてしまって、その規定のされ方も、偏った理由であるけれども、国家にとってかなり逼迫性を伴っていることでもあるので、多くの人々がそのことに異を唱える事ができないという社会。こうした中での、市井の人々の姿が描かれている。  また、このようなある意味理不尽な制度であっても、なおそれらを積極的に活用したり、それに乗っかる形で、自らの生き方の正当性を与えようとする悲劇的な人々も描かれている。  その理

    • 金石範『満月の下の赤い海』「すばる」2020年7月号

       大阪で生まれたものの、ルーツは済州島あった。しかしほんの少し済州島にしかいることができなかった。そして渡日後、入れ替わるように四・三事件が起きた。以降金石範は事件にたいして、単なる糾弾だけでなく、贖罪の気持ちもあり、「鴉の死」「火山島」など、この事件をモチーフにした作品を書き続けてきた。  事件は時代とともに風化したり、逆にそこにいた人々とは違った意味合いが、歴史として残ってしまうことにある。  さらにこうした事件を語るということ自体が困難である。恐ろしい記憶、ゆえにその殆

      • 高坂正澄『穴』「mon」Vol.16 (付・小説同人誌monについて)

        【あらすじ】  主人公、鍋田久夫は大阪・大東市で、大手金属加工企業の下請けとして、主に特殊なネジを製造している会社を経営している。起業したのは父であったが、その父が仕事中に交通事故で亡くし、26歳で会社を任されることになった。幼少時にすでに母も亡くし、兄弟もなく天涯孤独となった。しかし29歳の時に商工会幹部の紹介で光子と見合し結婚した。ところがある日、実家のある野崎観音へ行くと行ったまま蒸発してしまう。  26年がたったある日、趣味の廃村探訪のため、三重松阪・飯高町波瀬の月出

        • まだ遠い「サッカーのある日常」

          さっきサッカーを見たあと、やられかたにショックな事もあって、寝ちゃったが、さっき起きてニュース見て驚いた。 長谷川監督の事実上の抗議があった。 「昨日の夜に熱を出した選手がいて、遠征に同行した。その時点で全員PCRをやって陰性なら安心して選手はプレーできるが、安心を担保できない中で試合をやらせるというのは、これからちょっと考えてもらいたいと思い、あえてこういう話をしました」 今のところこのことについて、Jリーグのコメントがない。 この前、名古屋で疑いが出たとき中止なった

        飯田未和『姥捨』「mon」Vol.17 (付・小説同人誌monについて(追記))

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          第163回 芥川龍之介賞発表を受けて

          昨日第163回芥川龍之介賞が発表されました。 まだ選考委員の選評や受賞者のコメントを あえて読んでいないのですが、 今回は受賞作が決まったことを受けての所感を書かせてください。 (文藝春秋誌上などで選評を読んでから、またあらためて考察したいと思っています) ノミネート5作品をは、どれもが素晴らしいと思いました。 どの作品も本当に個性があって素敵だと思いました。 すべて作品の主人公に、思い入れがあります。 わたしの中では、最後に未来に向かって広がっていくような 救いがあっ

          第163回 芥川龍之介賞発表を受けて

          森岡篤史『炎天街』「文學界」2020年6月号

          2020年上半期同人雑誌優秀作  罪について考えるときに、いろいろなアプローチがあると思うが、次のような考え方もひとつある思う。  生まれながらの悪人はいないだろう。生まれたばかりの赤ちゃんを見たときに、たとえその子の親が極悪人であったとしても、その子が必ず悪人になるだろうとは考えられないだろう。しかしそうした赤ちゃんたちが成長する過程で、悪人になっていき、その行為を判断するときに重要なものさしとして、その動機が本人の自由意志に基づくものか、それとも不可抗力によるものかとい

          森岡篤史『炎天街』「文學界」2020年6月号

          石原燃『赤い砂を蹴る』「文學界」2020年6月号【追記あり】

           この作品は時系列が錯綜しているが、この錯綜が千夏の心理状態そのものを示しているのでこれは必要な構成なのだろう。  千夏と母の友人芽衣子がブラジルを訪ねるところが主系列だが、かなり多くの頻度で弟の大輝と母恭子の臨終のところを中心に過去に立ち戻る。これらを繰り返しながら、千夏と芽衣子の過去に対する態度の違いが次第に鮮明になりつつ最後を迎える。  父親の不在が共通項でありながら、それに基づく過去の災難を受け入れるにあたって、千夏はそれをはねよけようとし、芽衣子は寛容でそれらを切り

          石原燃『赤い砂を蹴る』「文學界」2020年6月号【追記あり】

          遠野遥『破局』「文藝」2020年夏号

           正直主人公、陽介の性欲に関する記述が多くて、最初はどうも違和感が先行してしまって、だいぶ戸惑ってしまった。  さてこの小説を通読すれば、主人公の自信過剰なところが崩れ去っていく作品なのはすぐに気づくけれども、最後の方の唐突な感じがする、灯の告白からの急展開も、読み返してみれば十分最初から練り上げられているつ痛感した。  陽介がなんとなく下に見ていた友人の膝との対比でを通じて明らかになるのは、陽介の自信過剰なところの中核が、肉体的なところを通り過ぎて、その肉体がもつ欲望自体を

          遠野遥『破局』「文藝」2020年夏号

          三木三奈『アキちゃん』「文學界」2020年5月号

          まず読み始めてから、いったい主人公「ミッカー」は何歳の時点からこの物語を振り返っているのだろうかと、ずっと頭から離れなかった。 (それは最後、本当に一番最後に明らかになる) とうのもこの「突き指もしたことがない」主人公の救いようのない自己中心的な共感性のなさのようなものを、いつの時点で振り返り反省するのだろうかと思って読みすすめていたからだ。 ところが途中でアキちゃんの名前と秘密がはっきりして、「あっと」この小説の主題が一見はっきりすしたような気になる。 この段階で、まずは

          三木三奈『アキちゃん』「文學界」2020年5月号

          岡本学 「アウア・エイジ(Our Age)」群像2020年2月号

          昔バイトしてた、飯田橋にある名画座での もうすっかり終わってしまった苦い思い出が 記憶の中に風化しそうになっていた思い出が 多くが謎のまま取り残されていた。 しかしふとした偶然の重なりがあって、 しかもそこには曖昧にしてはならない 何かがあるはずだという 直感にしたがって走り出す。 まるで本格的なミステリー小説ように 断片を集めてながらの謎解きがはじまって もう読むことが止まらなくなる。 やがてこの謎が、この過去の事実に迫るだけなく それを通じて人生の神秘の謎を解くよう

          岡本学 「アウア・エイジ(Our Age)」群像2020年2月号

          高山羽根子『首里の馬』「新潮」2020年3月号

           この小説は果たして主人公の未名子について、徹底的にエゴイストであることを描いくことが目的なのだろうかと一読して思ってしまった。  美名子は自分は誰にも迷惑をかけずに好きなことをしているだけなのに、そのことを悪く言う人がいるのは許せないという思いがある。しかし未名子も他人の振る舞いに対して、いちいち腹をたてていることがあったりする。だから自分のことを悪く言う人は許さないが、自分は人のことを批判してもいい、というふうに描かれているので、結果未名子は自覚のないエゴイストのように描

          高山羽根子『首里の馬』「新潮」2020年3月号