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【Low Budget】(1979)The Kinks パンク・ニューウェイブ時代に放った最大のヒット作

70年代のキンクスは不遇でした。1964年のデビュー以来、定期的に続いたシングルヒットも途絶え、新しい音楽の潮流に乗ることもなく、レイ・デイヴィスはひたすら我が道を行くのみ…。
レイの頭の中だけで紡がれるストーリーを軸に分かりづらい作風を邁進して、いわば「安っぽいロック歌劇」の作品群で人気もセールスも最悪なのでした。弟のデイヴ・デイヴィスに言わせれば、当時は只々レイの趣味に付き合うだけだったとか…。

そんなキンクスが息を吹き返したのが70年代後半です。久々にギターリフで攻めまくるロックンロールに回帰して、バンドは商業的なピークを迎えることになります。
パンク・ニューウェイブの時代にキンクス?? でも聴いてみれば納得。切れ味見事なキンクスのヒット作です。

本作はキンクスの通算19作目となるアルバム。全米チャート11位を記録した彼等のキャリアハイとなった作品です。
ジャケットがイイですよね。赤ずくめの女性の足元、路上には煙草の吸い殻と白くTHE KINKS のペイント。ディスコとパンクの時代を鮮やかに捉えた構図です。

キンクス再ブレイクの裏には、当時巻き起こった彼等への再評価が大きかったようです。
パンク、ニューウェイブ、ディスコのブーム到来で、60年代のベテランが皆オールドウェイブと押しやられる中、ジャム、プリテンダーズ、ヴァン・ヘイレンといった新しい世代がキンクスをカバー。にわかに脚光を浴びることとなり、暗黒の時代からは考えられない想定外の追い風が吹いたのでした。
中でもド肝を抜かれたのがヴァン・ヘイレンによるハードロックバージョンの"You Really Got Me" 。後追い世代の私でもこれは圧巻でしたね〜。

キンクスも77年にアリスタ・レコードへ移籍してからはシンプルなロックを志向します。米国を中心に草の根的なライブ活動を展開したことも功を奏してセールスも復調。彼等の方向性と時代がマッチしたんですね。
当時の音楽シーンへの殴り込みとも取れるような本作は、パンク、ディスコ、ハードロック、ニューウェイブを念頭に痛快な楽曲が並びます。【Low Budget】− 低予算というタイトルは、録音に僅か1週間、通常の1/3の予算で仕上げたというのが理由で、サウンド同様に仕事もスピーディだったようです。

アリスタ・レコードの米国盤


Side-A
② "Catch Me Now I'm Falling"
ピアノをバックにレイ・デイヴィスがしっとり歌うパートに続いて、突如ハードなギターリフ。ん?どこかで聴いたことが…。
何とまさかの"Jumpin' Jack Flash"です。でもちょっとパロディっぽいのが笑えます。金儲けに巧みなストーンズを皮肉ってるみたいでキンクスらしい笑。レイの長年のライバルとはストーンズだったのでしょう。
しかし曲の展開は秀逸で、本作のベストトラックと言える出来栄えです。ギターソロの後のサックスがいい味を醸します。


③ "Pressure"
ド頭のチャック・ベリー風なギターはレイ・デイヴィス。曲は全力疾走のパンクロック。レイのボーカルも結構がなり気味ですね。若々しく直情型のロックが本作の魅力です。


⑤ "(Wish I Could Fly Like) Superman"
これまた驚き、キンクスのディスコナンバー。多くのロッカーがディスコへと足を踏み入れたのに触発されたのかもしれません。
でもサウンドは本格派。ドナ・サマー"Hot Stuff"とキッス"I Was Made For Lovin' You"を足したような感じでしょうか!?  ミラーボールが似合いそうなダンサブルな仕上がりです。
レイ・デイヴィスのことですから、ディスコブームを揶揄してるのでしょう。全米41位と中途半端なヒットもキンクスらしい。


Side-B
③ "Little Bit of Emotion" 4:51
米国への憧憬はレイ・デイヴィスの中に常に感じますが、本作ではよりストレートに表現していると思います。このアコースティックバラードなどはホントに素晴らしい。


⑥ "Moving Pictures" 3:47
アルバム最後はまたまた毛色の違うタイプ。当時流行りのニューウェイブっぽい無機質な歌と音で、キンクスとは思えない曲調です。トーキング・ヘッズっぽい感じもします。60年代から活動するベテランのこの身の軽やかさ、なかなか真似出来ません。


パンクもニューウェイブも、ディスコだって何のその。果敢に斬り込んでいくキンクス、これはこれでカッコイイです。いつ、どこでどんな風が吹くかは分かりません。本作はデビュー15年のベテランが放った快作と言えますね。

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