【There's the Rub(永遠の不安)】(1974)Wishbone Ash L.ワイズフィールド参加の新境地
1970年代に英国の元祖ツインリードギターのバンドとして活躍したウィッシュボーン・アッシュ。今も人気が高いのは名作【百眼の巨人アーガス】などを発表したアンディ・パウエル、テッド・ターナーがツインリードだった初期の頃です。
その後テッドからローリー・ワイズフィールドに交代すると、アメリカナイズされた音へ変貌していき、かつてのブリティッシュロック・ファンの不評を買って人気も落ちてしまうのですが、実を言うと私はこの時期のウィッシュボーン・アッシュが大好きなんです。あまり知られていない時期ですが、なかなか興味深い作品を出しているんですよね。
本作【永遠の不安】はそんな彼らの通算6作目。ローリー加入の1作目です。それまで濃厚だったブリティッシュ色から一転、アメリカを意識した明るいトーンでソリッドなサウンドを聴かせています。
この時期の彼らの作品群の中でも出色の出来栄えで、私は1番大好きなウィッシュボーン・アッシュの作品です。
2枚組ライブの前作【ライブ・デイト】(73年)を最後に、オリジナルメンバーのテッド・ターナーが脱退。その後釜となったローリー・ワイズフィールドは、当時HOMEという英国バンドに在籍していました。
このHOME、計3枚のアルバムを残しており、アル・スチュワートのバックもやっていたそうです。興味あって聴いてみた所、ローリーの小気味よいギターフレーズと哀感ある牧歌メロディを聴かせる英国版カントリーロックといった感じなかなか美味でした。
米国進出を考えていたアッシュにとってローリーはうってつけの人材だったのでしょう。
さて本作【永遠の不安】は新ラインアップ、初の米国録音。場所はクラプトンの諸作でも有名なマイアミのクライテリア・スタジオ。プロデューサーにはビル・シムジクと、環境を大きく変えて挑んでいます。
ローリーはテッドよりも遥かに敏腕なギタリスト。アンディ・パウエルと対等に渡り合える点でも、私はこれ以降のアッシュの方が演奏面では全盛期だったと思っています。
またプロデューサーのビル・シムジクとの相性が非常に良く、これが本作のみで終わってしまった事は誠に残念。
ビルのこの時のツインリードバンドをプロデュースした経験が、2年後【ホテル・カリフォルニア】での仕事に活きたという指摘もあるのですが、私も同感です。ド真ん中に野太いベースを置き、左右にギターを重ねていく録音手法はかなり応用したと思いますね。
(アナログレコード探訪)
〜日本盤では消えてる最後のボーナス音声〜
大好きなアルバムなので何枚か集めたのですが、結論いえばやっぱりこの英国盤が1番音は良かったです。次に日本盤、ドイツ80年代再発盤、米国盤といった順番でしょうか。
英国盤は雑味のないスッキリした新鮮な音でした。【ウィッシュボーン・フォー】(73年)が酷い音でしたが、例外だったようです。
意外なのが当時の来日記念盤だった日本ビクター初回盤(MCA-6059)。これかなりイイ音です。数百円で売っていておススメです。
さて、何の気なしに発見したことを1つ。
本作をご存知の方でB面ラストのインスト曲 "F.U.B.B." の演奏終了、数秒後にイビキ?のような不快音が入っているのを覚えていらっしゃるでしょうか?
CDでも聴けるこの変な音、一度聴いたら忘れられないのですが、これ、アナログ盤では日本盤には未収録なんです。何故かは不明。
敢えて入れたであろうお遊び??ですがバッサリとカットされています。
日本ビクターではミス音声と思ったのか?気付かなかったのか?どうも英国風ジョークは通用しなかったようです。。
All songs composed by Wishbone Ash
Side-A
① "Silver Shoes" – 6:35
② "Don't Come Back" – 5:08
③ "Persephone" – 7:00
Side-B
① "Hometown" – 4:46
② "Lady Jay" – 5.49
③ "F.U.B.B." – 9:22
A-① "Silver Shoes"
オープニングは米国録音の成果といえる明るいトーンの新生アッシュ。マンドリンなども使った静のパートから少しずつハードに立ち上がっていくアレンジがカッコイイ(^^)
そしてアンディの熱の入ったギターソロで盛り上がりは頂点に!大好きな曲です〜。
A-② "Don't Come Back"
この曲を初めて聴いた時はギターリフがまるでレーナード・スキナードでビックリ!
かなり米国ノリのソリッドなハードロックですが、振り切って演っているのが潔い。
アンディのギターはかつてない程に攻撃的です。この辺りが当時のファンにも賛否の分かれた所かと思いますね〜。
B-② "Lady Jay"
このバンドの歌謡曲的ニュアンスが日本人には合っていたと常々思うのですが、本作でそれを感じるのがA-③"Persephone" (邦題:永遠の女神)とこの曲。
初期の叙情的な雰囲気が詰まってます。ベース兼ボーカルのマーティン・ターナーの甘い歌声はこの手にピッタリです。やはりアッシュはどう変わろうと英国のバンドですね。
B-③ "F.U.B.B."
ラストはお得意のインストナンバー。後のライブでも定番となる9分超えの大作です。
でも従来とは全く違うシャープな演奏。途中から16ビートを刻むノリには正直驚きます。アンディ、ローリーの2人だから実現した激しいギターソロの応酬。かなりスリリングです。名演です!
ウィッシュボーン・アッシュは本作発表後の1975年1月に初来日。海賊盤で聴く限りステージは盛り上がってました。
新境地だった本作は、演奏力に裏打ちされた変身ぶりに圧倒されますが、彼らが全盛期に残した名作の1枚だと思いますね〜。
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