【Dixie Chicken】(1973) Little Feat ニューオーリンズ印の濃厚南部料理
リトル・フィートの名盤と言われる本作。今年で発売から50周年なんですね。記念の新装盤が未発表音源を収録したデラックス・エディションとしてリリースされたようで、ちょっと食指が伸びているところです💦
その昔、知人がリトル・フィートを聴くならこれが良いと言って薦めてくれたのが本作。1stしか聴いたことがなかった私には新鮮でした。バンドの音楽的な歩みからしても、本作は間違いなく転機となったアルバムですね。
リトル・フィートはデビュー以来、ブルース、カントリー、R&Rほか雑多なルーツをブレンドした音楽をやっていましたが、本作3rdアルバムではアメリカ南部のニューオーリンズに接近。特有のセカンドラインのビートを取り入れるなどアクの強いサウンドを志向しています。
メンバーも入れ替わって増員。ロイ・エストラーダ(Bass)が抜けて3人が新加入。6人編成となってますね。
ローウェル・ジョージ(Vocal, Guitar)
ビル・ペイン(Key, Vocal)
リッチー・ヘイワード(Drums)
ポール・バレール(Guitar, Vocal) 新メンバー
ケニー・グラッドニー(Bass) 新メンバー
サム・クレイトン(Congas) 新メンバー
ネチっこいファンクビートにドロッとした感触が耳に残る本作は、まさにアメリカ南部の奥地といった空気が漂います。蒸し暑い!!
私の中ではアルバムA面は、アメリカ南部を車で旅しながらさらに南に下って、辺境の地へ向かっていく……そんなイメージなんです。
(アナログレコード探訪)
〜【ディキシー・チキン】のローファイ感〜
本作のプロデュースはローウェル・ジョージ。はじめ前作を手掛けていたテッド・テンプルマンに依頼したところ、飛ぶ鳥を落とす勢いのドゥービー・ブラザーズの新作で忙しくて断られたそうです(笑)
リリースデイトを調べてみると本作は1973年1月下旬、ドゥービーの【キャプテン・アンド・ミー】は3月上旬。両作はレコーディング時期も発売時期も似ており、使用したスタジオもロサンゼルス界隈とほぼ同じだったようです(ワーナー・ブラザーズのカタログ番号でも8番違い)。
ところがこの2枚、アナログ盤で聴いてみると音が随分と違うんですよね〜。
明瞭且つ凹凸が有りシッカリと解像度の高いドゥービーに対して、くぐもった音塊が真ん中に鎮座するリトル・フィート。
音圧ではフィートが圧倒的に強く、ドゥービーは普通レベルでした。
全く正反対なんですよね。実はCDでも【ディキシー・チキン】って音が悪いなぁと思ってました…。
当然この2枚では録音にかけた予算もプロデューサーの力量も差はあったでしょうけど、どうも不自然に感じるのです。
多分これは意図的なもので、アメリカ南部に的を絞った音作りを狙うローウェルが、敢えてモヤがかったローファイな音に仕上げたのかなぁと、私は想像しています。
〜曲紹介〜
Side-A
①"Dixie Chicken" 3:55
②"Two Trains" 3:06
表題曲もイイんですが今回はまずこの曲を。ネッチリとした横揺れのビートが実にファンキー!思わず腰を振りたくなるような絶品、名演です。
新規6人バンドによるドライブ感ある演奏がとにかくカッコ良い〜。ゲスト参加のボニー・レイット、ボニー・ブラムレットらがコーラスで華を添えます。
③"Roll Um Easy" 2:30
ローウェルのアコギ弾き語り。素朴な歌声と乾いたスライドギター、いなたい風情です。遥か遠くまで続くアメリカの荒野。土ぼこりが舞う田舎の風景が浮かびます…。
コーラスにはスリー・ドッグ・ナイトのダニー・ハットン。ローウェルって意外なミュージシャンと繋がってますね。
④"On Your Way Down" 5:31
いよいよ深南部へ。湿地帯に入りました。鰐が出てきそうな雰囲気デス。(笑)
イントロから重厚なピアノ。続くシンセサイザーの音色が、南部の神秘ともいえる風景を表出します。パーカッションも呪術的。地の底を這うようなスライドギターもイイ。スローで重いビートに乗ってローウェルがジックリ歌い上げています。
何とも濃厚な楽曲の作者はアラン・トゥーサン。ニューオーリンズの奥深さが伝わってくる一曲です。
⑤"Kiss It Off" 2:56
Side-B
①"Fool Yourself" 3:10
A面から一転、美しいメロディが冴えるミディアムナンバー。一服の清涼剤です(笑)。私この曲好きでした。書いたのは90年代のフィートに参加するフレッド・タケット。美メロの曲が時折入ってくるのも彼等の魅力ですね。
②"Walkin' All Night" 3:35
③"Fat Man in the Bathtub" 4:29
これぞ強靭な粘り腰のセカンドライン・ビートを取り込んだ本作の注目曲。ボ・ディドリーっぽいリズムをミックスしたタメの効いたビートが非常にダイナミック!聴いていて後を引きますね。喩えるならば、嘗ての名大関貴ノ花の相撲を彷彿とさせる粘り腰…デス。ライブでも彼等の定番曲。
西海岸のバンドとは思えないノリですが、これこそ彼等が本作で得た収穫だったのでしょう。映像は75年のBBCライブから。
④"Juliette" 3:20
⑤"Lafayette Railroad" 3:40
個人的にリトル・フィートはもう少し洗練された【ラスト・レコード・アルバム】が好きなのですが、本作の濃厚な南部風味もまた格別です。
本作の影響からニューオーリンズに注目する動きも出てきたりと、バンドだけではなく、ロックシーンにも大きなヒントを与えた1枚だったのでしょうね。