【Look at Yourself】(1971) Uriah Heep 崇高なブリティッシュハードロックの美学
【対自核】スゴい邦題です。一度聞いたら忘れられないインパクト。原題が自分自身を見つめろ、で【対自核】。当時の洋楽担当者の邦題センスはぶっ飛んでます💦
私、ユーライア・ヒープが好きで一度だけ来日公演を観に行ったことがありました。2016年、場所は川崎クラブチッタ。この時のツアーの売りが【対自核】再現ライブ(笑) 全盛期からメンバーは殆ど変わってしまいましたが、ハモンドオルガンとワウギターで往時を思わすタイムスリップしたようなライブでした。
レッド・ツェッペリン、ディープ・パープルブラック・サバスと同時代に活躍しながら、常に格下扱いで、B級ブリティッシュ・ハードロックと言われ続けたユーライア・ヒープ。
一度の解散もなく今もバリバリの現役とは大した生命力ですが、私は彼等のバンドとしての本質は最初の3枚に集約されていたんじゃないかと思っています。
ヘヴィなサウンドを信条とし、大風呂敷を広げたような大仰な音楽性を得意としましたが、本作【対自核】までの3枚が真にハードロックをやっていたヒープだった気がするのです。
ケン・ヘンズレーのハモンドオルガン、デヴィッド・バイロンのハイトーンボーカル、ミック・ボックスのワウギター、そして華麗なコーラスワークを絡めたオドロオドロしさと美しさが紙一重の世界。ある種の様式美に裏打ちされたスタイルは、後のヘヴィメタルにも影響を与えただろうと思いますね。
ただしヒープが他の3バンドと異なったのはギターオリエンテッドでは無かった事です。
イニシアティブを握ったのは鍵盤奏者のケン・ヘンズレー。ギターヒーローも不在。
よって、所謂王道のハードロックを追求するのではなく、プログレに寄ってみたり、悪魔主義を打ち出すなどヘンズレーの曲作りで生き残りをかけたのはこのバンドの必然だったような気がします。(個人的にはその頃も好きです)
さて、ここまで書いていたら気分が変わりました💦 主題を変更。ユーライア・ヒープ初期作を順に追いながら、彼等の傑出したヘヴィサウンドを振り返ってみたいと思います。
〜ユーライア・ヒープ初期3作品〜
【...Very 'Eavy ...Very 'Umble】(1970)
ヴァーティゴ・レコード発表のデビュー作。最後に加入したのがケン・ヘンズレー(Key)だったため、本作では前身バンドからの流れでデビッド・バイロン(Vo)、ミック・ボックス(G)を中心にした曲作りです。
まだ方向性が決まっておらず、ブルース、ジャズも取り入れた異色作ですが、ブリティッシュロックらしい翳り、憂いに満ちたヘヴィロックとしては随一の内容です。
"Gypsy"
ヒープの出発点となった名曲。ハモンドオルガン、引きずるようなギターリフ、そしてハイトーンボイスにコーラスワーク!混沌としたヒープの世界に痺れてもらいたい!!
【Salisbury】(1971)
ケン・ヘンズレーがライターとして関わり始めた2nd。ヘヴィロック路線を推し進める傍ら、タイトル曲はクラシックの手法を持ち出した16分の実験作。プログレにも繋がる姿勢はこの時から既に始まっていた!
"Time to Live"
ボックス、バイロン、ヘンズレーの共作。
ヘヴィネスを貫いた路線で、曲の佇まい、バイロンの歌唱スタイルなどにヘヴィメタルの原型を感じますね。
【Look at Yourself】(1971)
ヒープの出世作となった3rd。デビュー以来のプロデューサーだったジェリー・ブロンがヒープを売り出すために立ち上げたブロンズ・レーベルからのリリースです。
サウンドはエッジの立った明快なハードロック志向へ。ヘンズレーもスライドギターを披露するなどギターサウンドを強調してます。成功したディープ・パープルの影響もあったかも。エネルギーの放出量からしても本作はハードロック期の完成型でしょう。
攻撃性、哀愁味、感情過多……本作収録の "Look at Yourself" "July Morning" の2曲にユーライア・ヒープの魅力はほぼ詰まっていると断言出来ます。
結局彼等って、この頃に作り上げたスタイルに縛られ続けた歴史だったように思います。
斬新なアイデアで斬り込んだのはいいけど廃れるのも早かった。まるで出オチの一発芸で消えていくお笑い芸人みたいだったとは言い過ぎでしょうか…。
"Look at Yourself"
何はともあれ表題曲。ハモンド、ハイトーンコーラス、ワウギターが三つ巴になって荒れ狂うハイテンションなヒープの代表曲です。嵐のように騒々しい。終盤はオシビサのメンバーによるラテンパーカッションも加わってスピードアップ。密度の濃い曲です💦
"July Morning"
邦題「7月の朝」。ヒープの傑作バラード。パープルの「チャイルド・イン・タイム」と並ぶ双璧とも言われます。静けさと激しさで演出された構成には涙を禁じえません。崇高なこの劇場型バラードの前ではひれ伏すのみ。♪La la la la~ 故デビッド・バイロンの名唱ここにあり。ヒープよ、永遠なれ。
"What Should Be Done"
ケン・ヘンズレーはピアノのよる数々の美しいバラードを書いてますが、こちらもそんな1曲。光と影が交差するブリティッシュロックの美学がここにも…。
威厳に満ちた独自のサウンドで、孤高の存在感を満天下に示したユーライア・ヒープ。彼等の初期作品にはブリティッシュハードロックのエッセンスの全てが備わっているといっても過言ではないだろう。
諸君よ、いままさに体感しているその心の震えとは紛れもなくブリティッシュハードロックのみが発散しうる凄みなのである。今この瞬間、君は真性アドレナリンを感じている!(伊藤政則センセー風)