【James Gang Rides Again】(1970) アナログ盤から見た "The Bomber"2つのバージョンの謎!?
アメリカンハードロックの黎明期に活躍したジェイムス・ギャングといえば、イーグルスのジョー・ウォルシュがいたバンドとして有名です。本作はジェイムス・ギャングの2nd。彼等の最高傑作とも言われています。
本作を調べていたら、過去に興味深いエピソードがあることを発見しました。今回もアナログ盤を通して検証してみたいと思います。
まずは私の所有する2枚、日本盤と米国盤から紹介です。
(アナログレコード探訪)
これ最初に買った盤です。中古屋で一番良く見かけるタイプ。
上部にロゴのあるこの「PROBE」というレコード会社は、米国ABCレコードが主に海外への配給用として使ったサブレーベルなんだそうです。日本盤だとスリー・ドッグ・ナイトでも良く見ます。
ちなみに、これ国内の初回盤ではないんですね。私、ガックリきました。
調べてみると日本初回盤はキングレコード。意外にもジェイムス・ギャングはほぼリアルタイムで、デビュー作から我が国でも発売されていました。
1972年の来日も関係して、この東芝盤の方が世に出回っているのでしょう。
こちらは米国盤で、ABCが67~73年まで使ったとされるマルチカラーボックスと呼ばれるレーベルデザインの初期プレスです。
これは音が良かったです。明瞭な音。トリオ編成の各楽器がハッキリして、ベースラインもバスドラもズンズンと響いてきました。
さて、ここからが本題です。
本作A面ラストに収録の "The Bomber"という曲。御存知の方はこの曲が、
The Bombe ~Medley(a)"Closet Queen " (b)"Boléro" (c)"Cast Your Fate to the Wind" ~
と、3つのメドレー表記になっていたことを、何となく覚えているかと思います。(私も何となく)
この中でジェイムス・ギャングのオリジナルは(a)だけで、(b)と(c)はカバーだったんですね。私は知りませんでした💦
ちょっと勉強してみたところ、
(b) "Boléro" はフランスの作曲家モーリス・ラヴェルが1928年に書いたクラシックの有名曲。
(c)"Cast Your Fate to the Wind" は米国のジャズマン、ビンス・ガラルディが1962年に発表した曲……ということでした。
ジェイムス・ギャングは曲中で、この2曲をジョー・ウォルシュのギターを中心にしたロックバージョンで繋いでいる訳ですね。
さて問題は(b)です。本作発表後、楽曲を無断で使用されたとラヴェルの財産を管理する団体が、米国ABCとジェイムス・ギャングを相手取って裁判沙汰のクレームを入れてきたのです。
突然のことに米国ABCはどう対処したのか?
本作 "The Bomber" から(b) "Boléro" を削除。7:04あった曲は5:39に編集され、これ以後のプレス盤から短縮版になったのです。
あぁ!そう言われてみれば、90年代のジェイムス・ギャングのベスト盤CDでも、この曲だけは編集されていたことを思い出します。
(a)と(c)だけになっていました。収録時間の都合もあったのでしょうが、真の理由は大人の事情だったんですね。
ちなみに私のアナログ米国盤は元のロングバージョンでした。↓↓
しかし、ご覧の通り(b)にはちゃんと曲名、作者の表記まであり、無断使用とはちょっと厳しくないか?というのも正直な所です。
ラヴェル本人はこの時、既に故人です(1937年死去)。ボレロはオーケストラのみ演奏を許可するとの遺言もあったらしいので、原因は別だったのかもしれません。
いずれにせよ、まだまだロックが軽んじられた時代の話です。アメリカのヒッピーごときにといった、言い掛かりだったとも受け取れないでもない。言われた側は泣き寝入るしかなかったのでしょう。
〜いつ頃クレームがあったのか?〜
本作の画像を検索してみると、確かに米国盤には「7分バージョン」「5分半バージョン」の2つが存在していました。
ちょっと画像をお借りしていくつか羅列してみます。4曲目の収録時間に注目ください〜。
このように同じ米国ABCのマルチカラーボックス盤の中に2つが混在しているのです。
具体的にいつ頃クレームがあったのかが非常に興味あるのですが、レーベルデザインから断定することは困難なようです(ネットにも情報なし)。
ただし前述の通り、このデザインが使われた1973年までにはクレームがあったことが判ります。
〜5分半バージョン収録のアナログ盤〜
さて、そうなってくると私も編集された5分半をアナログ盤で聴いてみたいなぁ、という思いに駆られました。また中古屋で1枚探すのかぁ、なんてため息をついておりました。
ところが意外なところにあったのです!!
最初に紹介した東芝の日本再発盤に収録されていたのです。全くの盲点でした💦
東芝盤のライナーノーツには、シッカリと収録時間が書いてあります。
編集バージョンなのに、(b)ラヴェルのボレロとある所をみると、この大人の事情は東芝側には知らされていなかったのかもしれません。ライナーでも触れていません。
ちなみにこの東芝盤、いつ発売されたのか?調べてみました。こういう時はプロモ盤が参考になります。
ありました。1972年8月25日と判明。これは日本盤の話ですから、実際には1971年にはクレームはあったと思います。
米国での発表が1970年7月ですから、ホントに僅かな間に7分バージョンは消えた訳です。
それでは、実際に聴き比べてみます〜。
元の7分版では、3:28辺りでドラムがボレロのリズムパターン(水戸黄門のオープニング曲、またはディープ・パープル「チャイルド・イン・タイム」後半のあのリズムです)に変わり、ジョー・ウォルシュがエレキギターで優美なメロディを奏でます。やがてジミー・ペイジばりの轟音リフが斬り込んでくる。
と、ここまで約1分半が東芝の再発盤ではゴッソリ切られていました。幸いサイケデリックな音像もあって編集点は気になりませんでしたが。でも、言われなきゃ気付かないものです💦(私だけ?)
参考までに本家クラシックバージョンです。
私は全くクラシック音痴なので、なるほど、あの曲かぁと勉強になりました…。
〜元のバージョンに戻った時期〜
このクレームから暫くジェイムス・ギャングの本作は "The Bomber" の編集バージョンの収録を余儀なくされますが、実際には70年代後半のアナログ盤にもロングバージョンはミスプレスされていたみたいです。
海外サイトには「俺は71年にジェイムス・ギャング観たけどボレロ演ってたぞ〜」などの力強いコメントまでありました(笑)
時は流れて、ようやくCD時代で元のバージョンも散見され、現在は完全に戻っています。
私見ですが、1995年に発表されたジョー・ウォルシュのアンソロジー【Look What I Do】に収録の "The Bomber" には、わざわざフルバージョンとの表記があるので、この辺りが契機だったのかなぁ、と想像しているところです。
ちなみにラヴェルのボレロの著作権は2016年に消滅したとのこと。今となっては編集バージョンが貴重?と言えるかもしれませんね。
〜曲紹介〜
初期のジェイムス・ギャングは王道アメリカンロックとはひと味違う、ブリティッシュロックっぽい捻ったサウンドと曲展開が魅力的でした。
本作はA面がハードドライブなロック、B面はアコースティックサウンドの2部構成。
B面ではジョー・ウォルシュ自らがアコギ、オルガン、ピアノなど操って自作自演の幅広い音楽性を披露しています。
Side-A
① "Funk #49" 3:54
バンドの代表作の1つ。ジョーはイーグルス加入後もライブで演奏していますね。引きずるようなギターと無骨なリズムが男臭い!
② "Asshtonpark" 2:01
③ "Woman" 4:37
④ "The Bombe ~Medley (a)"Closet Queen " (b)"Boléro" (c)"Cast Your Fate to the Wind"~ 7:04
Side-B
① "Tend My Garden" 5:45
荘厳なオルガンが響き渡ります。間奏で浮遊感いっぱいのサイケなギターも含めてまさしくジョーの世界。私大好きな曲です。
② "Garden Gate" 1:36
③ "There I Go Again" 2:51
アコースティックなB面では長閑なカントリーテイストも聴かせます。ポコのラスティ・ヤングがスティール・ギターで客演。
④ "Thanks" 2:21
⑤ "Ashes the Rain and I" 5:00
クラシカルなストリングスで装飾されたメランコリックなナンバー。アレンジはジャック・ニッチェ。エンディングでこうした曲を置くのはトミー・ボーリン期にもありました。守備範囲の広さを感じます。
本作はジョー・ウォルシュの才能が開花したアルバムですが、ここから長く続くジェイムス・ギャングにとっても礎を築いた作品だったと思います。米国ハードロックの奥深さを伝える名盤です。