【Wheels of Fire】(1968) Cream クリームの不思議な古臭い世界
4月に日本武道館で行われたエリック・クラプトンのコンサートを観に行ってきました。
すっかり枯れ果てた姿を目に焼き付けておこうと然程の期待もなく足を運んだのですが、御年78才とは思えないアグレッシブなギタープレイにビックリ!次から次へと攻めのフレーズを連発。固唾を呑んで聴き入ってしまいました。
見映えこそ仲代達矢のように老成しましたが熱い魂は健在。ギターの神様はまだまだ現役だと実感出来ました。
この日はクリーム時代の"Crossroads"も聴けましたが、思い返せば私がクラプトン関連で初めて購入したアルバムがこの【Wheels of Fire】(邦題:クリームの素晴らしき世界)でした。
本作はクリームが1968年に発表した3作目。現役最後のアルバムです。プロデュースはフェリックス・パパラルディ。
1枚目がスタジオ録音、2枚目はライブ録音になった2枚組で、サイケデリック色の強い楽曲を生み出す一方、ライブでは即興演奏に徹するというバンドの両面を大きくクローズアップした集大成的な内容になっています。
高校時代にお小遣いで買った本作でしたが、私の第一印象は、古臭い音楽だなぁ…。
サイケで奇をてらったような曲、ムダに冗長なライブ演奏、どちらも正直シンドかったです。でも小遣い分を取り戻そうと、結局クリームでは一番よく聴いたアルバム。だから愛着もあります。
本作を聴いていると、仲が悪いと言われるジャック・ブルースとジンジャー・ベイカーの2人が、バンドの主導権を握るべく、時代の先を見据えた楽曲作りで競っていた様子が窺えます。
クリームの音楽って殆どが古びてしまったように思いますが、後世に残る代表曲 "White Room" "Crossroads" を収録しているだけで、本作はこの時代をシンボライズするロッククラシックの名盤、ということになるのでしょう。
(アナログレコード探訪)
〜アナログならではの銀ホイルカバー〜
本作のアナログ盤でとりわけ目を引くのが、サイケ柄が描かれた銀ホイル地のジャケットです。米国の初回盤と再発盤で比べてみました。
本作のアトコ初回盤は紫&茶レーベル。1968年で終了するデザインなので、これが正真正銘の初回盤となります。
発売当初のジャケットは銀ホイル地。光沢があってリッチ感があります。
これが暫くすると変わってしまいます。
黄色レーベルはアトコが1969年以降に使ったデザイン。この盤はカンパニースリーブから判断して、1972年頃のプレスでした。
この2組、ジャケットを比べると質感が一目瞭然。
初回盤で銀ホイルだったものが、再発盤では普通のネズミ色に変更。経費が嵩むので再発プレスではよくあることですが、これ、調べてみたところ結構早い段階で変更していたようです。シビアなアメリカらしい。
日本で発売されたグラモフォン・レコードの初回盤は何と金色っぽいホイル地。お金かけてます。私が高校時代に持っていたポリドールの79年再発盤も立派な銀ホイルでした。
日本人はジャケットの質感に拘るところも律儀です。
〜曲紹介〜
Side-A
①"White Room" 4:58
ジャック・ブルース、詩人ピート・ブラウンの共作によるクリームの代表曲。昔は私、イントロで古いなぁと感じたものです。
ジンジャー・ベイカーのドロンドロンと鳴るドラム、ジャック・ブルースの堂々とした歌いっぷり、クラプトンのワウギター……聴き慣れると全てが不思議な風格に感じる曲です。
更に深みを与えているのが終盤のクラプトンのギターソロ。サイケ臭を放ちつつ、ドラマ性のあるメロディの組み立ては、当時のブルース系ロックギタリストでも最高峰だったと思いますね。
②"Sitting on Top of the World" 4:58
③"Passing the Time" 4:32
④"As You Said" 4:20
ジャック・ブルースという人は当時から音楽理論を真剣に勉強するタイプだったらしく、この曲などはクラシック的な技法を採り入れているのかもしれません。
牧歌的でフォーキーだけど、クラシカルな楽器の使い方、エフェクト掛かったボーカルなど、実験的でイビツな世界観が広がります。演奏はブルースとベイカーの2人のみ。
譜面付きの動画というのも面白い。
Side-B
①"Pressed Rat and Warthog" 3:13
②"Politician" 4:12
③"Those Were the Days" 2:53
ジンジャー・ベイカーが本作でコンビを組むマイク・テイラーとの作品。奇天烈な曲が多いベイカーにしてはマトモな曲です。
曲の終盤はクリームお得意のインタープレイへ突入。
④"Born Under a Bad Sign" 3:09
アルバート・キングがスタックスに録音したブルースクラシック。ブルースロックへのアプローチもこのバンドの魅力です。
2005年に再結成した時の映像。さすがに年齢を重ねた円熟の3人です。
⑤"Deserted Cities of the Heart" 3:38
邦題「荒れ果てた街」。ジャック・ブルースが本作に残した曲は何だかんだ粒揃いです。クリームはやはり彼中心のバンドだったのでしょう。疾走感あるテンポにのって力強い歌声を聴かせます。間奏のストリングスなどサイケな味付けが程良いアクセントに。
Side-C
①"Crossroads" 4:18
これよりライブサイド。伝説の戦前ブルースマン、ロバート・ジョンソンのカバー。
ジョンソン版を初めて聴いた時はあまりの違いに驚きましたが、歴史に残るギターリフでロックバージョンに置き換えたクラプトンのアイデアはあまりに偉大ですね。
ソロは本人曰く気に入ってないそうですが、世界中のどれだけのギターキッズがコピーしたことか…ロック史に残る名演。クラプトンのボーカルが初々しくて微笑ましい。
1968年3月サンフランシスコ、ウィンターランドの録音。こちらは同音源にフェアウェルコンサートの映像を充てたものです。
②"Spoonful" 16:47
Side-D
①"Traintime" 7:02
最後の2曲はブルース、ベイカーが在籍したグラハム・ボンド・オルガニゼーション時代(63〜65年)に録音した曲が原形。クリームのライブで発展させていったようです。
これはタイトル通りに列車が走る様子をブルースのハーモニカ、ベイカーのフラッシングで見事な描写。本作版よりBBCライブ音源が短くてキレのある演奏です。
②"Toad" 16:16
久しぶりに頭から最後まで聴いてみましたが疲れました(笑)。この時代特有の音ですね。ずっと聴いていると酔ってきます。
でも古びてもクリームはクリーム。腐っても鯛。今も偉大なロックの名盤ということにしておきましょう。