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JAZZとジャズ喫茶に関する私の忘れられない思い出

今回は珍しくジャズにまつわる話をしたいと思います。
東京・中野新橋に《 genius(ジニアス)》というジャズ喫茶があります。1970年オープンの老舗です。この店のオーナー兼マスターが鈴木さんという方なのですが、その義理の妹さんに当たる方が、以前私の働いていた日本料亭の先輩で、且つ当時住んでいたアパートの大家さんでした。仮にこの方をK子さんとします。

K子さんには大変お世話になりました。10年ほど前に「ウチのアパート空いてるんだけど良かったら入ったら?」
と声を掛けてもらい安く住まわせてもらったり、
「よっしーさんって音楽好きなんでしょ?ウチにレコード沢山あるからあげるわよ。」
と大量のジャズのレコードを頂いたことがありました。

なにゆえ大量のレコードをお持ちなのかと経歴を伺うと、当初ジニアスは渋谷にあったそうで、ひと頃はフロア違いでK子さん夫婦も同じようにジャズ喫茶を経営していたそうなのです。辞めた時に殆どのレコードは義兄さんに譲ったものの、やがてK子さんも還暦を過ぎて、断捨離も兼ねて残りを私にくれたという訳です。
ところが当時の私は有難みを分かっていなかったんですよね…。ジャズにはさほど興味がなく、主にCDを聴いていたこともあって、実は内緒で一部は処分しました💦 今となっては後悔してますけど。

〜偶然に手にした貴重な名盤〜

K子さんから頂いたレコードは日本盤の再発が中心でしたが、中にはトンデモナイものが含まれていました。その飛び切りの1枚を紹介します。

【Bitches Brew】(1970年)

マイルス・デイヴィスの【ビッチェズ・ブリュー】です。ご存知の方も多いでしょう。
ジャズの帝王マイルス・デイヴィスは、60年代末から電気楽器を使ったバンド編成でより先鋭的なジャズに挑戦し、これまでのジャズの常識をひっくり返すような音作りで話題を呼びますが、本作はそんなエレクトリック・マイルスが2枚組で発表した問題作。K子さんから戴いたこの【ビッチェズ・ブリュー】は非常にレアな盤でした。

コロムビア・レコードの米国初回盤
カンパニースリーブも古くてナイス!

何と米国のオリジナル盤だったのです。本作の発表は1970年3月。写真上の、白抜きで 「COLUMBIA "⇐360 SOUND"」とあるレーベルは、コロムビアが1970年途中まで使ったデザイン。つまりこれは正真正銘、発表年にプレスされた初回盤なのです。
しかもレコード内周部を見るとA~D面の4面すべてがマトリックス「1A」という、初回の中でも最初期の盤だったのです。傷ひとつありません。非常に貴重。
針を落としてみると、鮮度のいい音がスピーカーから広がりました。「良い音」とは人それぞれですけど、これはリアルな音。スタジオギミックも含めてナチュラルな感触で響きます。

私、本作をさして理解していませんが、そんな私が本作を喩えるなら、海水をうごめくアメーバみたい。形を持たずにどんどん変形していく音楽のイメージです。全体に不穏な空気、緊張感が漲っているのも印象的。

以前、note仲間でジャズに詳しい清川達也さんから聞きましたが、マイルスって自分の音楽をジャズと言われることを嫌ったそうなんです。何だか彼らしい(笑)
そんなマイルスが、当時の米国の世相(ベトナム戦争、公民権運動など)を取り巻く空気を察知して、まだ誰も聴いたことがないような音楽で表現してみせたのが本作だったのかもしれません。ボリュームを上げて聴いていると、コチラの心臓の鼓動が上がりそうです。もしかして、マイルスの思う壺??

〜ジャズ喫茶で不用意な一言は御用心〜

話を戻しますが、ジャズ喫茶《ジニアス》へ私は一度だけ訪ねたことがあります。
2020年の正月明け、友人と恐る恐る訪問しました。
中野新橋から少し歩いて、マンションの一階、店先に看板のある赤いドアを開けて入ると……強烈なタバコ臭!そう、ここは昔ながらの喫煙OKの店なのです。心做しか店内も煙で霞んでる。昭和にタイムスリップしたような店内は割と混んでおり、隅っこの狭いテーブルに座って珈琲を注文。私語厳禁ではないものの、大音量でジャズが流れる空間は想像通り「神聖」という言葉が当て嵌りました。

帰り際にK子さんとの繋がりを伝えると、ご主人も奥様もいたく感激してくれました。
自分たちは高齢で、いまは息子が頑張ってくれているとのこと。でも息子さん曰く、好きで始めた父親の知識はすごい。只今勉強中ですと謙虚な姿勢でした。
ご主人は、この店にあるのは古いジャズばかり、もう死んでしまった人達のレコードばかりですよと、感慨深げに話しておられたのが印象的でした。確かにジャズの偉人はロックよりずっと年上。殆どが鬼籍に入ってしまっています。
と、ここで突然、店内の常連客が鋭い一声。

「おいマスター!ソニー・ロリンズはまだ死んでないぞ!勝手に殺すな。」

どうやら店内のBGMがソニー・ロリンズだったみたいです。一同大爆笑。ひゃー、でも私は一瞬怖かったです💦 さすが老舗のジャズ喫茶。居るんですね、手厳しいお客様。都市伝説と思っていましたが、実際に存在することを確認出来ただけでも良い経験でした笑

〜新宿に謎のラッパ吹き登場!〜

最後にもう一つジャズの話を。
去年のこと。私が働く東京・新宿の飲食店は1階がステーキ鉄板焼きになっているのですが、ある日のランチタイム終了後、突然1階からけたたましいラッパの音が聴こえてきました。

♪ パー、パップップップ〜、プ〜プ〜プゥ〜

「どこの素人だよ。こんな所で。ウルサイなぁ」と2階にいた私。
あまりにも長く続くので、同僚の女の子と様子を見に行ってみると、老人がトランペットを吹いていました。すごい音量。トランペットってこんなに音が出るんだ?しばし鑑賞。演奏が終わるとコックもホールスタッフも全員が拍手。老人は満足そうに玄関へ向かい、私にも一瞥をくれて帰っていきました。

「あれ、誰ですか?」

私、聞いてビックリ。何と、日野皓正だったのです!!えーーーっビックリ!米国在住の日野さんですが、この時は日本でライブがあるらしく、そのリハーサルで新宿ピットインに通っていたのだとか。
テレビCMで拝見していたつもりでも、オフの姿は分からないものです。年齢を調べたら80才。その年であのエネルギッシュなトランペットとは…。日野さん、ウルサイ素人とか言って大変失礼しました!

秋が深まってきた今日この頃。静かな夜の帳にはジャズが聴きたくなりますね。今晩はむせぶトランペットでも聴いてみます。


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