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夜間頻尿について 

(2022年秋発行 ふれあいVol.73より)

夜中に何回もおしっこで起きなければならないという症状は、泌尿器科を受診される患者 さんの中で最も多い理由の一つですが、歳だから仕方ないと諦めていませんか?
今回はこの「夜間頻尿」について医学的に解説したいと思います。


■ 夜間頻尿とは?

夜間、排尿のために1回以上起きなければならない症状を「夜間頻尿」といいます。40歳以上の日本人男女約1万名を対象とした全国調査の結果を図1に示します。加齢とともに夜間頻尿の頻度が高くなり、夜間1回以上起きる人の割合は60代で既に男女とも80%でした。夜間2回以上起きる人の割合は、男性は60代40%、70代60%、80代80%、女性は同年代男性より10%低い値で した。夜間頻尿の定義上は「夜間1回以上起きる」ですが、あまりにも頻度が高いため、日常診療では夜間2回以上起きる場合を夜間頻尿としています。ちなみに「頻尿」とは尿の回数が多すぎるという症状ですが、一般的には日中8回以上を頻尿とすることが多いです。

夜間頻尿の年齢別頻度

■ 夜間頻尿の原因

夜間頻尿の原因は、図2に示すように、大きく分けて 1)多尿・夜間多尿、 2)膀胱容量の減少、 3)睡眠障害に分けられます。これらの3つの原因によって治療法が異なるので夜間頻尿の原因をまずはっきりさせることがとても重要です。

1 )多尿・夜間多尿

①多尿
1日の尿量が 40mL/kg(体重)を超える場合(例えば 60kg の体重の人は 40mL/kg x 60kg=2,400mL)は多尿です。多尿があれば夜間の尿量も当然多くなります。心因性の水分過剰摂取、利尿剤内服、糖尿病などの内科の病気による場合がありますが、頻度としては少ないです。多尿まではいかなくても、かかりつけの先生に血液をサラサラにするため水分摂取を勧められたり、美容法・健康法として水分摂取に励んだりした結果、1日の尿量が 2,000 mL 近くある方はときどきおられます。

②夜間多尿
夜間のみ尿量が多くなり、夜間トイレに何度も起きるものです。65 歳以上の方では、24時間尿量に対する夜間尿量の割合が 1/3 を超える場合に夜間多尿と判断します。高齢者の30~50%は夜間多尿になっています。
尿量を調節しているホルモンには、脳から分泌される抗利尿ホルモン(尿量↓)と心臓から分泌される利尿ペプチド(尿量↑)があります。(図3
 高齢者では夜間の抗利尿ホルモン分泌が低下しているため夜間尿量が増えます。また高齢になり潜在的な心不全や腎機能低下があると、昼間に体中に溜まった水分を効率良く血管内に回収できなくなり、足がむくんだりします。動脈硬化があると腎臓の血流が悪くなり、日中の活動期に尿を十分作れなくなります。夜間就寝中は臥床した状態になると昼間に体中に溜まった水分が血管内に戻ってくるため、心臓への負担を軽減しようと利尿ペプチドが分泌されて夜間の尿量が増加します。また就寝中は交感神経の働きが落ちて血管収縮が弱まるため、腎臓の血流が回復して尿をたくさん作れるようになります。要す るに、若い頃と比べて体内環境が変化してしまっているということです。睡眠時無呼吸症候群(睡眠時に呼吸が一時的に止まる病気で、いびきをかく人によくみられます)も夜間多尿の原因になります。

2 )膀胱容量の減少

膀胱容量の減少があると少量の尿しか膀胱に貯められなくなるもので、一般的には昼にも頻尿になることが多いです。高齢者に多い過活動膀胱は男女を問わず起こります。膀胱に尿が少量しか溜まっ ていないのにも関わらず尿意を感じてしまったり、膀胱が勝手に収縮してしまう病気で、トイレに急 いで駆け込む症状(尿意切迫感)がみられます。また、前立腺肥大症は男性特有の疾患で、前立腺が 大きくなることで排尿がしにくくなり、結果として膀胱が過敏になることがあります。夜間頻尿の頻度が男性では女性より 10% ほど多いですが( 図1)、これは前立腺肥大症の影響を反映していると 考えられます。また高齢者では、膀胱の加齢性変化が進行した結果、膀胱が硬くなって尿が十分溜め られない、切迫性尿失禁が生じる、膀胱収縮力低下のため残尿がある、の3つが併存しているため治 療が難しいケースも散見されます。

3 )睡眠障害

体内時計という言葉をご存じですか? 人には 1日周期でリズムを刻む「体内時計」が備わっており、意識しなくても日中は体と心が活動状態になり、夜間休息状態に切り替わって自然な眠りに導かれます。しかし 図4 に示すように、高齢者では体内時計の振幅が低下するとともに位相が前方にずれやすくなるため、夜早い時間から床につくようになり、睡眠が浅くなって夜間に中途覚醒するようになります。目が覚めるごとに気になってトイレに行くようになります。また昼間に居眠りすることも多くなります。 このように睡眠障害と夜間頻尿は密接に関連しており、毎晩ほぼ決まった時間に目が覚めて何回もトイレに行く、その際の 1 回排尿量が 100 mL 以下という場合は睡眠障害が疑われます。

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