2 中尊寺のほおずき
今まで食べたもののなかで一番不味かったものと言われたら、まず一番最初に思い出すのが中尊寺の駐車場横にある食堂の定食に添えられたプチトマトだ。あれは凄かった。カルチャーショックだったと言ってよい。食べていいものの味とは到底思えぬお味で、本当にプチトマトだったのかも自信がない。赤くてプチトマトほどの大きさだったというだけだ。こうやって書いているとどんどん自信がなくなってくる。あれは本当にプチトマトだったのだろうか。
訪れたのはおそらく13、4年くらい前、今はどうか分からないが、その当時中尊寺のあたりで他に食事ができる場所はなかった。私たち家族は中尊寺を見終えたあとその食堂に入った。中はサービスエリアのフードコートみたいな雰囲気だった。私は何かの定食を頼んだ。
定食自体とても不味かったのを覚えている。箸が進まないが流石に全て丸々残すというわけにもいかない。プチトマトは洗って載せるだけだから他のものと違ってこの食堂で加工されたものではない。そのような判断をし、定食の箸休めとしてプチトマトを口に入れたはずだ。そうして不意打ちを食らったというわけである。
腐っていたんだろうか、知っているプチトマトと味が違いすぎた。危ない味だ。吐き出したんだか飲み下したんだかさえも覚えていない。父親もたしか私と同じ定食を頼んでいたので、「これやばい」と食べるよう促した。父親は渋い顔をしながら口に入れ、顔を歪めながら「ほおずきか?」と言い、母親が笑った。それくらいプチトマトとは俄かに信じがたい不味さだったのである。
しかし今これを書いていて、私はあれがプチトマトだったのかどんどん自信がなくなってきている。あの父親の「ほおずきか?」という発言。もしかしたら比喩や冗談ではなかったのでは? そもそもほおずきって食べれるのか? かなり気になってきたので検索してみた。
調べてみるとなるほど、食用も存在はするようである。見た目は、
…プチトマトに酷似している!
この写真の上と真ん中の間ぐらいの形状をしていた気もするんである。え、本当にほおずきだったのか?
味についてネットには以下のように書いてあった。
芳醇な味わい…。私の記憶だと普通のプチトマトよりぶにゅっとしており、開栓から一日経ち酸化した白ワインのような酸味と渋柿をイメージさせるような渋味が舌の上に緩慢に広がる。そんな味だった。
昔テレビ番組で「プリンです」と言って茶碗蒸しを出すとめっちゃ不味く感じるが、改めて「それは実は茶碗蒸しです」と言われると普通にちゃんと美味しく感じるみたいな企画をやっていたが、ほおずきも同じことだったということなのだろうか。そもそもあれは本当にほおずきだったんだろうか。でもほおずきだったのかもしれない。私はほおずきだったような気がしてきている。えー。本当にほおずきだったのか…?!