未熟なAI市場では、『新要素』が断続的に爆発的成長を引き起こしていく
鞍人雄悟 / krato_yugoです。
「AIから見る未来」、第二弾。
以下の記事の通りAIイラストで起業して見つけた三つの未来について。
その二つ目の記事になります。
一つ目の未来は「AIを使いこなすためにはクリエイティブ×エンジニアリング×マーケティングの三分野のスキルが絡む」という経験則としての発見でした。
そして二つ目の未来は「今のAI(及びAIイラスト)市場は未成熟で小さいが、NovelAIやChatGPT、StableDiffusionのOSS化のような『新要素』が市場に爆発的成長を起こすことで急速に拡張していく」という市場の成長過程についての発見です。
体感としてもわかりやすい話ですが、マイケル・ムーアの『トルネード』理論やガートナー社の『ハイプ・サイクル』といった経済市場理論を用いて分析することでより詳しく見えてくるものがあります。
「今は未熟な市場だが、『新要素』が断続的に爆発的成長を引き起こす」
一つ目の記事でお伝えした通り、AIイラスト市場はまだまだ小規模。AI全体にはより積極的な投資がなされていますが、IT市場全体や自動車市場などに比べれば小さな市場です。
つまり。この生まれたての未熟な市場は大きなのびしろがあります。
では、今後のAI市場及びAIユーズ市場はどんな形で成長していくのでしょうか?
実はこの「未来は読み解く」ことができます。
経済学は分析と未来予測の学問です。経営学は実践と事例研究の学問です。
天気予報と同じで100%にはならずとも、ある程度までは分析によって導き出すことができます。
スマートフォン市場、Vtuber市場、VR市場。
技術革新によって生まれた新市場はこの十数年で数え切れないほどありますが、AIイラスト市場のライフサイクルも同じものです。
10月から12月にかけて、完璧に予想通りに市場や世論が推移するので驚いたほど――もちろん、それはライフサイクルの理論化を進めた偉大な先人達のお陰です。
『マーケットライフサイクル』『プロダクトライフサイクル』『トルネードとボウリングレーン』『ハイプ・サイクル』など理論は山ほどありますが、どれも言っていることはある程度似通っていて。
「技術革新により、期待は爆発的に増大する」
「未熟な市場段階では一気に期待され、一気に幻滅され、完成すると安定する」
そしてもう一つ読み取れる法則性が、
「(事前の期待が高すぎると)技術が期待に追いつくまで期待と幻滅のサイクルを繰り返す」
です。
『ハイプ・サイクル』とは?
これは見た方が早いでしょう。「とても期待してとても幻滅してから理想と現実のバランスが取れていく」という理論でありグラフです。
(ハイプ=「誇張」の意味)
ただ、ハイプ・サイクル自体は「繰り返す」ことは想定してない様子で、例えば以下のような使われ方をします。
少し見づらいですね! 情報量が多くて。
ちなみにAIはこれが一回目の期待幻滅サイクルではありません。
AIブームというのは1960年代から何度かあって、今回は第三次だと言われています。これはハイプ・サイクルに当てはめると明らかに「幻滅期」までで終わったブームが第一次と第二次です。今の技術じゃ無理だと。
これはSF作品によって「人工知能」に対する期待値が上がりすぎていたことが原因だと思われます。理想と現実のギャップがかけ離れすぎてしまったのです。
今のメタバースもよく似ていますね。ユーザーは『SAO』や『レディ・プレイヤー1』を求めているのに出てくるのは自由度の低い、建物の一つも壊せないし作れないバーチャル会議室ばかり。
いつか大作オンラインオープンワールドゲーム並みのクオリティと、『Minecraft』級の自由度を併せ持ったメタバースが誕生して――それが神経接続式完全没入型VRであれば、ようやく技術が期待を超えることができるでしょう。それまでは期待と幻滅を繰り返し続ける。
では、イラストAI分野ではどうか?
これは「現段階では市場は未熟だが、価値も市場も消えずに成長を続ける」。そして「『新要素』によって次の爆発も近いうちに起きる」、と考えています。
『新要素』とは「市場の停滞を打ち破る、ユーザーの期待を超える何らかの変化」の総称です。技術革新だけでなく、各国の政府施策やStableDiffusionのオープンソース化のような大きな判断をも含みます。
2022年には「Midjourney」「StableDiffusion」「NovelAI」が『新要素』として市場の起爆剤になりました。
その後、現在イラストAI市場は「指など細部が常には完璧でない」「連続して同じキャラを作るには追加学習などが必要」「漫画などを作るのは難しい」「あまりにも新情報が多すぎる」そして何より「どこで何をしていいかわからない(市場が足りない)」という課題があり、停滞期にあります。
新情報は多いけれど、劇的な『新要素』として市場を激変させるような情報は数ヶ月ほど現れていないのです。
こうした混沌は例えば近年のVtuber市場の初期にも見られました。
個人が中心だった時期から、企業勢の増加に伴い市場規模が拡大。
大手企業からの案件や業界ルールの整備が進み、市場形成が完成するまでの段階によく似ています。
今後イラストAI(生成AI)にもいくつかの「大手」が現れ、業界ルールや流通チャネルを整備し徐々に市場を完成させていくでしょう。
大手の個人クリエイターと大手企業が併存し、デファクトスタンダードが成立するとハイプ・サイクルの安定期に到達します。
「大手」となる存在が『新要素』をもたらし、市場を何度か大きく変化させて完成に導いていくことになります。
言い換えれば多くのプレイヤーが自ら『新要素』を生み出すことを求め、完成した市場で生き残った頂点になることを目指します。
そして「大手」がどのような市場を形成するかで、今後のイラストAI分野の扱われ方も変わっていくことでしょう。
ジェフリー・ムーアは『新要素』による爆発的成長のことを「トルネード」と呼び、それまでの停滞期を「ボウリングレーン(ボウリング球の道)」と呼びました。
『トルネード』の爆発の際に激変する市場でトップになるためには、『ボウリングレーン』の期間に複数の小さな市場のトップとなり力を蓄えることが重要だと。
なのでやはり、これはゴールドラッシュです。
しかも一度や二度ではありません。
「イラストAI」はあくまで金脈の一つ。AIが巻き起こす『第四次産業革命』では、無数の関連市場すべてが「完成」するまで『トルネード』が断続的に巻き起こり続けます。
IT黎明期の第三次産業革命での『トルネード』を制したMicrosoftやGAFAは時代の覇者となりました。
今まさに起きている『第四次産業革命』でも、同じように「次のGAFAM」が生まれてもまったくおかしくはありません。(ただし、GAFAM達もまたプレイヤーの一人です。GoogleがBardでつまづき、MicrosoftがBingで一歩先んじているように)
そうした時流と競争の結果、AI市場はどのような時代に辿り着くのか?
それについては三番目の未来に関する、以下の記事で触れていきます。