【1/27追記】廃船街でお菓子を食べるあなたへ
【注意】
この文章にはファイナルファンタジー14漆黒のヴィランズのネタバレを含みます。
友達に誘われて2020年5月からファイナルファンタジー14を始めた。3年ぶりの原稿のために80日弱ログインしていなかったが、2021年1月18日、無事に漆黒のヴィランズに突入した。若葉マークは取れてしまったが、メインクエのみを爆速で進めているので、エオルゼアワールドのことを知らない若葉がびっくりしたことを日記として記したいと思う。
エオルゼアからノルヴラントへ
紅蓮までの「えっ…その考え、どうなの…?」マインドが蔓延るエオルゼアワールドから「第一世界」という別の世界に召喚された私は混乱した。「ヒカセンはなろう系の主人公になったのか…!?」という斜めに構えた見方をしてしまう程度に焦った。今までの彩度低めの画面とは違い、第一世界はとにかく画面が明るいのだ。完全なる別世界に来てしまったのだ…エオルゼアとは違うのだ…という高揚感を覚えながら水晶公なる人物に世界観の説明をされる。
私はアルフィノ・ルヴェユールというキャラが好きなので、とにかく彼に会いたくてクリスタリウムで迷子になりながらNPCに話しかけて水晶公から彼に会いに行くクエストを受けた。そこで待っていたのは「コルシア島」という現実社会の極端な部分を集めた場所だった。
メチャクチャ強い敵。戦えない者は殺されるしかない治安の悪さ。食べ物を自給自足することさえ難しい。ユールモアという都市内だけは唯一驚異に晒されない。しかし、ユールモアの住人になるには「元々財産を持っている者」か「才能を買われる」以外になく、才能が買われるまではバラック小屋で暮らすしかない。
ストーリーを進める度に「なんてひどいところだ」と声が漏れた。先ほど「現代社会の極端な部分を集めた」と述べたが、私はこの世界を知っていた。過去に私が生きていた世界だ。
過去に私が生きていた世界
※ただの思い出文章です。私が家族でも友人でもない他人から施しを受けた話です。
私は数年間「働かざる者食うべからず」という言葉をモットーにしていた家で暮らしていた。その家は「外で金を稼いで家に入れた者」が一番偉かった。当時、学生だった私は学業を優先し、アルバイトで稼いだ給料は全て学費にあてていたため奨学金を家に入れていた。だが、家でのルールは「外で金を稼いだ」という実績がないと「金」だと認めてもらえない。そういう者に求められるのは「貢献」という名の家事や雑用だった。その家で私は一番底辺だったので、ひたすら家事や雑用をした。
「働かざる者食うべからず」なら、働けば偉くなれる! という一心で就職活動をして、条件が良いIT企業に入社した。これで「外で金を稼ぐ」ことができる。ほっとしたのも束の間、そこで待っていたのは「実務経験を積まなければ自分に値段がつかない」という事実だった。だが、どの案件でも良い訳ではない。ちゃんと上司や先輩がいて、経験になる案件は少ない。同期よりも良い条件の案件に就くには、とにかく言語仕様を把握し、上司や先輩から仕事を教えてもらえる人間にならなくてはならない。
働けば金がもらえる、働くためは単価が高い人間になる必要がある、単価が高い人間への最短距離は実務経験を積むこと……。私は受験勉強よりも必死に勉強をし、上司や先輩に良い顔をし、原因不明のめまいに悩まされたが、何とか社内でもトップの売上を誇る部署に配属してもらった。
しかし、そこで待っていたのは「給与未払い」という事実だった。聞けば上司は1年近く給料をもらっていない、先輩は2、3ヶ月に1月分の給与が支払われる、そんな地獄のような場所だった。
ほとんどない預金を崩して食費に充てる、足りない。両親から金を借りて生活費に充てる、足りない。親戚に服や食料をもらう、足りない。
働いているのに食べられないという状態が続いた。私は「働かざる者食うべからず」という言葉に苦しめられて働いたのに、今度はその通りにならない地獄に苦しめられた。
ある日、地獄のような案件先の空気に耐えかねて上司や先輩と一緒にイタリアンなファミレスに行った。腹が減っているが所持金は小銭で数えられるだけ。食べられるものはドリアしかない。休憩時間は60分。熱いドリアをお冷やで流し込むように食べ終えたときだった。
上司「僕、もういいや」
上司がハンバーグとパスタ大盛りを頼んだが、パスタを半分以上食べ残したのである。上司は給与をもらっていなくても、会社に内緒の副業で食べているので財布に余裕があった。私は一瞬だけ戸惑ったが自分の持っているお金以上の食事が食べられるなら、この空腹が紛れるなら、もうどうでも良くなっていた。
私「それ、食べてもいいですか」
上司「えっ? これを?」
同じテーブルにいた先輩達は「本当に食べるのか?」とドン引き顔で聞いてきたが、1日1、2食の生活をずっと続けていると、家族でもなんでもない他人の食べ残しでも食べられるだけマシだと思えてくる。それより何より、とにかく空腹だった。
上司「いいけど……」
私「ありがとうございます!」
あの日の上司が食べ残したパスタの味は色んな意味で一生忘れられない。めちゃくちゃタバスコの味がしたからだ。(上司は辛党だった)
現場仕事をする家で育てられたので、小さい頃からご飯だけはちゃんと食べる文化で生きてきた。その時に強く感じたのは「他人の食べ残しをもらう日が来るとは思わなかった」であった。
働かざる者食うべからず――裏を返せば「働けば食べられる」。この世がそんな甘いものではないと今ならわかるけれど、底辺生活をしていた時に刻まれた呪いは、ずいぶん深くまで浸透してしまっていた。
廃船街のロシー
「働かざる者食うべからず」という呪いは今でも私を苦しめる。悪夢のような家や会社と縁を切っても具合が悪い時は「どこかに雇われて金を稼がなければ人間になれない、値段が付かない人間は生きていけない」思考が出てくる。だが、今では「そんなもん知るか~~ッ!!」と思うようにしている。実際、今はどこの会社に所属している訳でもないけれど、ご飯食べれているし、生活も何とかなってるし…(ギリギリで)
そんな中でユールモアの廃船街にいたロシーというNPCの言葉は衝撃的だった。
「ユールモアからは、メオルだけじゃなくて、貴人の残したお菓子なんかの配給もあるのよ。たまに手に入れたときはこうやって、ゆったり休憩するの」
廃船街で暮らす人間は他にもこういう生活をしている者は多いだろう。だが、私はこのセリフを読んで泣いてしまった。
ロシーを含めたゲートタウンや廃船街の人々は、一日三食きちんと食べて、安全な暮らしをしたいだけのはずなのだ。他人の食べ残しなんかじゃなくて、自分の好きなものを選んでゆっくりしたいはずだ。生存を脅かされず、勝手に価値を付けられることもなく、他人の食べ残しを食べなくてもいい生活があったら、絶対にそっちの方がいいはずだ。まだ私は第一世界のことあまり知らないけど…。あとメオルだけだと絶対栄養偏ると思う…むかし食事が面倒と言ってウィダーだけ飲んでいたらぶっ倒れた人を知っているから…。
私は「ユールモアをぶっ壊す! ついでに第一世界も原初世界も救ってやるよォ!」と意気込んでいたが、新生時代から一緒に始めた友達は「あんな終末世界で、あのシステムを維持していることに感心する」と言っていた。「そ、そ、そ、そんな感心すな~~~!!」と憤ってしまったが、以外とそうかもしれない。第一世界、一つ間違えればウリエンジェさんが未来視したエオルゼアと同じく北斗の拳ワールドになり得るからだ。まだドン・ヴァウスリーと一回目のドンパチをかましたあと(主に妖精達が)なので、奴には奴の事情があるのかもしれない。まぁどんな理由があろうとも知らねぇ~~ッ!!つってドンパチするのですが…私はノブレスオブリージュ精神の強い脳筋機工士なので…。
好きなお菓子を食べられますように
長文を書き連ねてしまったが、漆黒のヴィランズのストーリーはハチャメチャに面白く、過去の自分を救済することにも繋がりそう、という話でした。
頑張ってこの世界をなんとかしてみせるから、もう少し待っててね。あなたが他人の食べ残しを食べなくても良い世界にしたい、と思いながらここに記しておく。
追記(2021/01/27)
5.0をクリアしたのでユールモアのロシーに会いに行った。
「ドン・ヴァウスリーが大罪喰いだったなんて……。廃船街も混乱しているし、みんな動揺しているわ。こういうときは、誰かと一緒にいるのが一番よ」
彼女は孤独や孤立がいかに恐ろしいものかを良くわかっていた。
私は一般的に「危機」と言われるものを二、三度ほど経験している(現在進行形で皆そうだと思うけれど)が、異常事態時に一人で適切な判断をするのは難しい。原因を見極めるのは難しいために選択の基準がズレるのだ。そういう時に「誰か」は心の支えになる。それは家族でも、友達でも、ネット上の人でも、ラジオパーソナリティでもいい。自分以外の違う考えをしている人の言葉は、自らの立ち位置を修正したり、確固たる物にしたりする。
だから私はロシーの言葉を読んで「あなたは強いのね」と思わず声に出してしまった。実際、原初世界の人間よりも第一世界の人間の方がずっと逞しいと思う。だって100年前まで世界が終わる寸前で、ちょっと前まで食べる物にも困る有様で、今だって数少ない人間達だけで、これからなんとかしなきゃならないのだ。
私は5.0の世界観を把握する度に、とにかくあの世界の「持つ者」の最頂点に君臨するヴァウスリーをなんとかしないと! と思っていたが、ユールモアのシステムを作ったのはヴァウスリーの父親だった。そして、ヴァウスリーもある意味被害者であった。私はムービーを見ながら、可哀相なのは半分人間、半分罪喰いの子供を産むことになってしまったヴァウスリーの母親だと思うが、実際のところはわからない。親が子の安定を願うのは普通のことだ。
私の漆黒のヴィランズのストーリーはまだ完結していない。最新パッチまで進めていないので、これからどうなるかはわからない。私が過去に体験した世界も酷いものであったが(2021/01/27現在、他人の食べ残しを食べる行為は「飢餓」よりも「感染リスク」という単語を連想させる)そこからずっと「酷い時」と「まぁまぁな時」を行ったり来たりしている。でも、こうやって文章を書く程度には生きているので、私もロシーのように意外と強いのかもしれない。
第一世界はこれから建て直される。コルシア島の人々も罪喰いの襲撃に怯えなくても良くなったとはいえ、食事をゆっくりと楽しむことは少なくなるかもしれない。でも、私はロシーがメオルではなく、誰かの食べ残しでもない食べ物を、誰かと一緒に食べることができるのなら、私はとても嬉しく思う。
廃船街でお菓子を食べるあなたへ
あなたは強いので私が心配する必要はなかったのかもしれません。私は作物を育てる術も、丈夫で機能的な衣服を作ることも、家を建ててあげることもできないけれど、あなたが大切な誰かと食事ができることに少しは貢献できていたら嬉しいです。
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