🟢その声が聞きたくて
某牛丼店に行ったときのこと
カウンターに座り、メニューを見て悩む。
およそ悩むのも数十秒程度で、いつもどおりの牛丼を頼もうとする。
ピンポンを探していると、カウンター越しで、男の人がセットを頼もうとする声が耳に入ってきた。
「これにお味噌汁つけられますか?」
「はい、つけられますよ!」
「豚汁は180円ですか?」
「そうだよー!」
ピンポンに指をかけた私が顔をあげる。
客も店員も特に変わった様子は無い。
(私の空耳であろうか?)
真相を確かめるべく、私は店員を呼んだ。
「すみません。牛丼の大盛りと味噌汁で」
「あ、この味噌汁って豚汁に変更出来ますか?」
「はい、できますよ!」
「じゃあ変更でおねがいします」
「あと、えーと、、、キムチもいいですか?」
「はい。」
「えーと、以上でおねがいします」
やられた。完全に失敗だ。
全く欲していない豚汁をすすりながら、反省する。
あれは空耳だったのか?
.
生きていると、明らかにおかしいはずのに、あまりにも現実世界と一体化しすぎてアレっ?という変な感覚に陥ることが時折起こる。
こないだも、地下鉄の電車からウーバーイーツのリュックを背負った少年が降りてきたり、エスカレーターで上っている時に、隣のレーンに乗っている女性が追い越していったりした。
アレっという違和感は2,3秒ほど脳内をゆっくりと駆け巡り、いややっぱり変だよなと思った時にはもうすでにウーバーのリュックを背負った少年は見当たらないし、下りのはずのエスカレーターに乗っていた女性はもうそこにはいない。
食べる予定のなかった豚汁が多すぎた。
今日の晩ご飯は少し遅めにしよう。
お店を出て、目の前の信号が青になるのを待つ。
頭の中では今もまだ「そうだよー。」が響いてやまない。
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