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ナルチ級VSV

ナルチ級VSVは、朝鮮人民軍海軍が建造・配備する高速戦闘艇 (FAC) の一種です。コードネームのナルチとはトビウオを意味しており、VSVはVery Slender Vesselの略称となります。あまり一般的でない用語ですが、一部では極細艇と直訳されます。その名の通り細長い船体を持ち、現在一定数が配備されています。

ナルチ級は2010年代初頭から建造が開始され、金正恩氏による視察を受けています。最初は平壌の第1501軍部隊管轄の12月7日工場 (大同江船舶工場) でその姿が見られ、ナルチ級の建造拠点は南浦、元山、清津まで拡大しています。

大同江沿いにあり、子ども用遊具などを生産する12月7日工場という側面もある (Google Earth)

船体

船体の大きさの違いで少なくとも7種類は存在するようで、これらを全てまとめてナルチ級と呼称されます。いずれも共通して船首の細長い波浪貫通型船体を採用し、真上から見ると楔型をしているのが特徴です。小型のものは約10m、大型であれば30m以上になり船体幅はかなり絞られています。基本的には沿岸部の岩肌に溶け込みやすいグレーの迷彩柄で塗装されていますが、ブルーの海上迷彩柄も確認されています。

ナルチ級VSVの各タイプ (H I Sutton氏のCovert Shoresから)

24m VSV (2012年春 平壌で初観測)
29m VSV (2013年秋 平壌で初観測)
10m VSV (2013年秋 平壌で初観測)
32m VSV (2014年初頭 南浦で初観測)
32m VSV (2015年春 清津で初観測)
32m VSV (2015年秋 長擶で初観測)
21m VSV (2016年春 元山で初観測)

茶色く濁った水上を航行する海上迷彩柄のナルチ級 (KCTV)

兵装

一部を除きほとんどのナルチ級が船体左右に一体化する形で魚雷発射管を備え、これが主兵装となります。使用魚雷については、朝鮮人民軍海軍で広く運用される533mm口径の魚雷、あるいはより小型の324mmと思われます。
加えて、これ以外の兵装には近接戦闘で威力を発揮する30mmガトリング砲 (AK-230をベースにAK-630風の6砲身ガトリングを装備した砲塔を持つ)、防空用のMANPADS (並びにMANPADS用の発射機) や107mm24連装ロケット砲もありますが、細長い船体の狭いスペースに限りがあるため小型の場合は武装は少なくなるようです。

2013年10月に金正恩氏が視察した29m級VSV。左下に魚雷発射管、左上の艦橋上に107mm多連装ロケット砲の一部が見切れている (KCNA)
同29m級VSVの船体後部には2基の107mm多連装ロケット砲とMANPADS用架台が備わる (KCNA)
2018年10月の報道に登場した清津港の34m級VSVのガトリング砲 (KCTV)
砲塔に雑な迷彩柄塗装がされた30mmガトリング砲の射撃 (KCTV)

艦橋上のレーダーマストには朝鮮人民軍海軍で広く普及しているフルノ製対水上レーダーやEOセンサーを備え、また艦内にはディスプレイやコントロールパネルが並び船外カメラや兵装 (MANPADS発射機は手動) を遠隔操作出来るようになっており、従来の旧式の国産高速戦闘艇や魚雷艇より近代化が進んでいることがわかります。

艦内 (KCTV)
回転中のレーダー上にある四角い物体がEOセンサー (KCTV)

配備

前述の通りナルチ級は平壌、南浦、元山、清津にて建造されており、一部は西海岸の沙串 (サゴッ) や東海岸のナメのような韓国に近い基地に配備されています。どちらも地下基地化されており、ナルチ級をはじめ戦闘艦艇を地下へ隠匿できる構造になっています。高速性、近距離戦闘向けの武装を持つナルチ級は対韓国用にNLL付近に前進配備されるようですが、建造場所周辺に係留または陸揚げされたままのナルチ級も見られます。

南浦港のナルチ級 (KCNA)
迷彩柄が分かりやすい清津港のナルチ級 (Google Earth)
沙串海軍基地の地下入口のナルチ級。座標は37.8046331, 125.3530091 (Google Earth)
ナメ海軍基地のナルチ級。座標は38.8030260, 128.1396905 (Google Earth)


無人型VSV

2013年に第1501軍部隊を訪問した金正恩氏は、工場内にある水色の小型VSVも視察しています。金正恩氏や周りの幹部たちと比較しても明らかに小さなそのVSVは、遠隔操作される無人型ではないかと推測されています。
これは全長10mにも満たない程度と見られ、僅かな写真を見るに兵装は無く、代わりに船体中央に備わる大型の光学機器を用いて沿岸海域をプログラミング通りに行動しながら偵察・索敵を行うUSV (無人水上艇) のようです。

無人型VSVの大型光学機器 (KCNA)
 
別角度から (KCNA)

北朝鮮の先端技術の結晶ともいえる無人型VSVは、同じ工場内で見られたGS-2600-01という機材を用いられる可能性が高いようで、これは無線機など様々な軍需品を販売するグローコム (Glocom) がセールスするUAV/USV制御システムです。グローコムの公式サイトの説明によれば各種UAV/USV用ビデオ制御システムで、電子戦に対応すべくECCM機能も備えているそうです。付属品にある白い510G-ANT02型アンテナは、この時に公開された画像に写されています。先端技術で運用されるUSVの登場は、現時点では1隻のみで詳細不明な部分が多いですが、ローテクの印象がまだ強い北朝鮮の海軍戦力でも着実に近代化が進行していることの表れと言えます。
(グローコムについては詳しくはこちらを参照してください)

キャスター付きコンソールの横に510G-ANT02型アンテナがある (KCNA)
GS-2600-01の説明ビデオから (Glocom)
GS-2600-01の説明ビデオから (Glocom)


全長: 10m~34m
全幅: 5m程度
喫水: 不明
基準排水量: 不明
満載排水量: 不明
エンジン: 不明 (ディーゼル?)
馬力: 不明
航続距離: 不明
最大速度:推定50ノット
乗員数: 不明
武装 (艦によって差異有り):魚雷発射管×2、30mmガトリング砲×1、MANPADS発射機×2、107mm24連装ロケット砲×3
レーダー: フルノ製レーダー
現況: 現役


参考文献

・朝鮮民主主義人民共和国の陸海空軍 (著 ステイン・ミッツァー/ヨースト・オリマンス) 大日本絵画

・North_Korean_VSV


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