夜行性のパン職人が深い闇の中で開催した ”一人パン教室” へ貴方を招待します
※全て無料で読めます。
「市販されている原材料を使用し、家庭用のオーブンでパンを焼いてみよう!」
と、最初で最後の ”一人パン教室” を開催しました。
意気揚々と仕込みをしましたが、
申し訳ございません。
想像と違う仕上がりになりそうでしたので、軌道修正の為、
焼成のみ業務用のデッキオーブンを使用しました。
最後の最後で禁じ手の必殺技を繰り出しましたので、パンは無事に焼き上がりました。
大変おいしゅうございました。
改善ポイントを実践すれば、家庭用のオーブンで焼成できると思います。
因みに使用する予定だった家庭用オーブンは、TOSHIBAの『石窯ドーム』です。
家庭製パンで定評のあるオーブンです。
※工程は単純ですが、失敗ポイントの修正の必要があります。
ある程度パン作りの経験のある方が対象になるかと思います。
※このような試みは初めての為、説明画像も少なく動画での説明もありません。行間を読んで、一緒に隙間を埋めていただく必要があります。
※100%同じようにできる保証はありませんのでご理解願います。
(自分がもう一度作っても、同じようにはできません)
今回お作りするのは、
『冷蔵長時間発酵で作る、北海道産小麦100%使用の手捏ねのリュスティック』です。
意訳すると、
「簡単に美味しいシンプルなパンを作りますよー」ということです。
手捏ね ですので、ミキサーやホームベーカリーは必要ありません。
冷蔵庫で発酵させるので、ホイロなどの発酵器も必要ありません。
基本的にはご家庭にあるもので作ることができます。
※北海道産小麦はネットで購入できるものを選びました。
※水分量を調整すれば、スーパーで購入できる『カメリヤ』等でも代替可能ですが、完成したパンは恐らく別物になります。
パンの紹介と製法の解説
リュスティック、皆さんは食べたことありますか。
最近では置いてあるパン屋さんも増えてきていると思います。
私はシンプルなパンが好きでしたので、よく食べていました。
リュスティック(Rustique)は、
「田舎風」 「素朴な」という意味の通り、
シンプルで小麦の風味を存分に感じられるパンです。
クラスト(皮)がパリッとして、クラム(中身)がモチッとしています。
日本人が好きなパンだと思います。
お店(職人の技量)によって、水分量に幅があります。
小麦粉に対して80~100%くらいでしょうか。
100%以上のお店も勿論あります。
巷では ”高加水パンブーム” の流れから、
「お水入れたモン勝ち!」のような風潮があったりなかったり…。
水分を入れれば良いということでもないと思うので、
結局美味しいというのが一番かなと思います。
冷蔵長時間発酵とは、
その文字通り、冷蔵の温度帯で、長時間発酵する製法です。
詳しくは別項で解説いたします。
今回のリュスティックの発酵温度と時間は5℃の冷蔵庫で20時間程です。
使用する冷蔵庫が、
5℃以上の場合は、時間を短くするか酵母量を少なくします。
5℃以下の場合は、復温の時間を長くすれば対応できます。
時間はあくまでも目安です。
突き詰めれば生地の状態によって変えることもありますが、
今回はラフにご自身の作業工程や予定に合わせて自由に変えて下さい。
とは言っても、
最低でも10~12時間くらいは冷蔵発酵させてあげたいです。
発酵・熟成させることで旨味が出ます。
翌朝7時に食べたいとなると、
ざっくり前日の夕方に仕込めば良いです。
使用するもの
・はかり
・ボール2つ(小麦粉を計量するもの、捏ねるもの)
※なければ、小麦粉を計量するものはポリ袋でも可
・プラスチックボールorガラスボール1つ(生地を入れて発酵させるもの)
・塩や酵母を計量する小さいタッパなど
・ドレッジ(カード) ※なければ、ゴムベラか手でも可
・離型油(スプレータイプのもの、ショートニング、サラダ油など)
・オーブン
・天板
・クッキングペーパーorベーキングシート
・茶こし ※なければ手で粉を振ります
・クープナイフ ※なければ、ペティナイフや調理用ハサミでも可
・ケーキクーラーor網があると尚良い
代用できるものがあれば、そちらを使用してください。
あくまでも一例であり、ルールなどありません。
…リストに漏れがある場合は、お手数ですが補ってください。
レシピ
%はベーカーズパーセント。
gは実際に計量した重さ。
小麦粉200gでつくりたいなぁとなると、
200gを100%として、他の原材料のgを計算します。
お手持ちのオーブンの大きさによっては、
小麦粉300gで作ると大きいかも知れません。
生地がダレてしまったこともあり、
使用する予定だった『石窯ドーム』でギリギリ入るくらいの大きさです。
原材料の紹介
・小麦粉『ユメミルうさぎ』
ネットで購入できる北海道産小麦100%の小麦粉です。
商品説明には、
「ゆめちから」をベースに「きたほなみ」「はるきらり」「キタノカオリ」をブレンド
蛋白:12.3%±0.5%
灰分:0.51%±0.05%
とあります。
・塩『伯方の塩(粗塩)』
こちらは使い慣れたもの、ご家庭にあるもので十分です。
・酵母 サフ『セミドライイースト(赤)』
こちらもお手元にある酵母を使ってもらって構いません。
(可能であれば生イースト以外)
今回、私も手元にあるものを使用しましたが、
サフ『インスタントドライイースト(赤)』がベター。
・水
普段使用しているお水(水道水、ろ過したお水)で構いません。
※小麦粉の品種や原材料の詳しい解説は別項で行います。
興味のある方はチェックしてみてください。
工程の解説
【一日目】
まずは、レシピ通りに計量します。
今回は全ての原材料を冷やします。
小麦粉を計量したボールに酵母を入れてサックリ混ぜて、冷蔵庫へ。
計量した塩、冷蔵庫へ。
ボールに水を計量します。
水は1~2℃くらいのもの(水が凍るくらいの温度)を使います。
水を計量してから冷凍庫で冷やしてもいいですし、
氷水を作ってから計量しても良いです(氷は入れないで下さい)
水が入ったボールに塩を入れて溶かします。
手捏ねで捏ね時間も短いので、均一に溶かすことで塩(塩味)が偏るのを防止します。
(あえて偏りやムラを作る職人もいますので、その辺りはお好みで変更してください)
塩が溶けたら、そこへ小麦粉(酵母入り)を加えます。
ドレッジを使用して、さっくり混ぜます。
パン作りで小麦粉と水のドロドロが苦手な方も、
ドレッジを持つ指先だけを捧げれば大部分はキレイに保てます。
粉っけがなくなったら、一旦お休みします。
捏ねている途中のボールをラップや袋で覆って、
オートリーズという名の放置プレーです。
※室温が25℃以上ある場合は、ラップや袋で覆って冷蔵庫に入れた方が良いです
ここで、
生地があまりにもドロドロだ、ユルユルだ、
ということであれば、
ダマになっていない小麦粉(分量外)をまぶしてください。
水を入れすぎないのが一番ですが、
入れすぎて混ぜてしまった場合、
水を取り除くことはできませんので、小麦粉を加えます。
小麦粉を加えるのは、あくまでも”応急処置”です。
そして処置は早い方がいいです。
小麦粉を加えるor水を加えるなどの処置が必要な場合は工程の序盤で行ってください。
短距離走のスタートで転んでしまえば致命的ですが、
今回は長距離走です。
何度転んでも、途中でダンスをしても、再び走り出しさえすればゴールできます。
細かいことは気にせず突き進みましょう。
15~30分経ったら、
手に水(分量外)を付けて、外側から内側に向けて畳むようにまとめていきます。
一周を4~5回で畳みます。
それを2~3セット程行います。
これで生地は半分完成しました。
30分休ませます。
休ませ方は先程と同じで、室温によって変更してください。
生地が寂しそうであれば傍にいてあげてください。
30分経ったら、
先ほどの畳んでまとめる作業を繰り返します。
厳密にやりますと生地の裏表をしっかり守りますが、
今見えている状態でそのまま畳んでまとめてもらって構いません。
Tシャツを裏返したまま畳んで仕舞う程の違和感は感じませんので。
生地が強くて2セットできない場合は1セットで構いません。
逆に生地が弱い場合は3セット行ってください。
生地との対話を通して、望むようにしてあげてください。
再び30分休ませます。
生地に自立心が芽生え出しますので、程良い距離感を保ってください。
30分経ったら、
畳んでまとめる作業を行います。
再び30分休ませます。
生地に反抗心が芽生え出しますので、放置プレーをおすすめします。
この時間までに、
冷蔵庫で発酵させる用のボールに薄っすら油を塗っておいてください。
ここで使用するボールはプラスチックかガラスがベターです。
金属製のボールで冷蔵すると、冷えすぎてしまうからです。
室温が高かった、小麦粉の冷やしが甘かった、仕込み水が1~2℃ではなかった、冷蔵庫内の温度が高そうだ、
など生地温度が上がっている・上がりそうな状況であれば、
金属製のボールを使用してください。
プラスチックやガラスのボールがない場合も金属製のボールを使用してください。
30分経ったら、
成形します。
成形は今まで捏ねてきたボールで行います。
成形方法は繰り返し行ってきた、畳んでまとめる作業で構いません。
最後、キュっとつまんで、とじてあげてください。
とじられない場合は、
生地の水分量が多かったか、生地が弱いか、温度が高くダレてしまったか、
原因がいくつか考えられます。
工程も終盤なので、ここまま前進あるのみです。
私も水分量が多く、とじられませんでした。
とじてあげたら、とじ目を持って、
油を塗ったプラスチックボールにそのまま とじ目を上にして入れます。
ボールにラップをして、ビニール袋で包んで冷蔵庫にしまいます。
乾燥が大敵なので、念には念を。
冷蔵庫に入れる際、
「おやすみ、また明日」
と言ってあげてください。
【二日目】
冷蔵庫から出して室温で復温します。
冷え切った生地の温度を戻してあげる工程です。
中心部がキンキンに冷えたまま焼くと、生焼けになることがあります。
あ、「おはよう」の挨拶を忘れずに。
室温に置くということは、
温度が戻ると同時に発酵も進みます。
ここでも生地と対話をして、温度・時間を決めましょう。
今回は室温23℃で30分 復温させました。
ゆるめの生地なので長いよりは短い方がいいかなと思います。
焼成の準備に入ります。
天板にベーキングシートを敷いて、ボールをひっくり返します。
シートの上にポトっと生地が落ちてくるのが理想です。
今回はゆるかったので、タラ~ンとだらしなく落ちてきました。
ゴトっと落ちてきたら、それは硬すぎです。
ベチャベチャっと垂れてきたら、それは柔らかすぎです。
ここまできたらどうしようもありませんので、
そのまま焼成しましょう。
茶こしで薄っすら小麦粉(分量外)を振ります。
「飾り粉(化粧粉)」といいます。
きれいに振ってあげてください。
クープを入れます。
今回は火抜けをを良くしたいので格子状に入れました。
カミソリがない場合は、よく切れるペティナイフで。
切れないナイフは生地が引っ張られるかも知れません。
その場合は見た目が悪くなるかもですが、
調理ハサミでチョキチョキした方がいいかも知れません。
焼成です。
冒頭でもお断りした通り、
業務用オーブンを使用しました。
業務用のオーブンは上火と下火があります。
上火230℃、下火260℃の高温で窯入れし、
適宜、温度調整を行い、30分くらい焼成しました。
スチーム(水蒸気)をたっぷり入れるのをお忘れなく。
私、家庭用オーブンでパンを焼いたことがないので、
ここからは他の家庭製パンの方の焼き方を参考にしてください。
業務用、家庭用で共通する美味しく焼くコツをお伝えします。
スチーム(水蒸気)を入れて、窯入れ時は高温にしてください。
家庭のオーブンでスチーム(水蒸気)を入れる方法は、
皆さんいろいろ工夫して実践されています。
業務用オーブンであればスイッチ一つで出来てしまうので、
家庭製パンの方々はすごいなと思います。
高温のまま焼き続けると、
外側だけ焼けて(焦げて)、内側が焼けないということが起こります。
途中で温度を少し下げて、中までしっかり火を入れてください。
パンの底を叩いて、乾いた音がすれば中まで焼けているサインです。
実際にはここまできちんと焼けないかも知れませんが、
底を触ってブヨブヨの部分がなければ焼けていると思います。
焼き上がったパンは、
ケーキクーラーや網の上で少し休ませます。
大変な儀式を終えた生地(今はパンの姿)を労いましょう。
ここでも余熱で火が入りますので、少し冷めたくらいで完成です。
テレビではオーブンから出たばかりのパンを食べる”パフォーマンス”がありますが、
とても美味しそうに見えますね。
ただ、焼き立てのパンは、パンの姿をしていますが、
パンとして一番美味しい状態とは言えません。
特に大きいパンは80~85%くらいまでオーブンで焼いて、
残りは余熱で火を入れていくイメージです。
因みに、私のお店はテレビ取材NGです。
雑誌の取材は受けていますが、テレビ取材はお断りをしています。
目の前であんなことをされたら露骨に嫌な顔をする自信があります。
そしてその後、ただでさえ少ない口数が激減することが目に見えています。
想像しただけで地獄、誰得です。
話は戻りまして、
天板や皿の上に置くと、熱の逃げ道がなくなり、汗をかきます。
せっかくパリっと焼き上がっているので通気性を良くしてあげましょう。
お好みの食べ方で召し上がってください。
サッとトーストして、バターがおすすめ。
失敗ポイントと改善ポイント
失敗ポイント
吸水量の見誤りと捏ね不足。
初めて使用する小麦粉の場合、大体の吸水量の予想を立てて吸水量を決めます。
予想に基づいて小麦粉と水を合わせてみると、
「まだ入りそうだ」となり、
少しずつ水を入れていきました。
捏ね上がりは問題ありませんでしたが少し休ませると、
少しずつダレる感じが出てきました。
その後の工程でも、
そう感じながらも後ろを振り返らず突っ走りました。
今回は「まだ入りそうだ」が仇となりました。
欲張っちゃいけませんね。
改善ポイント
① 吸水量を減らす。
一番の改善ポイントです。
吸水量は80%くらいがいいかなと思います。
水を減らした分、塩も少し減らしてもいいかも知れません。
一度に80%入れずに、
77%入れて、様子を見て、残りの3%を入れる方法がいいと思います。
現場ではミキサーを使用する際は、お水を数回に分けて入れています。
(バシナージュといいます)
② 畳んでまとめる→休ませる、という工程を増やして生地を繋げてあげる。
今回はあまり捏ねたくない生地でしたので、生地に触れるのも必要最低限でした。
吸水量を減らした上でこの工程を増やしてあげると、
よりボリュームが出たかなと思います。
➂ 二日目の朝、冷蔵庫から生地を出したときにダレていたので、
軽く畳み直して10~20分おいてから焼成する。
畳み直すことで、もう少しプリンとしたパンになったかなと思います。
畳み直してすぐに焼くと火通りが悪くなりそうなので、
10~20分おいてから焼成してください。
まとめ
とは言っても、
今回はこれで良かったのだと思います。
パン作りの失敗って、実はそんなに多くないと思っています。
現場ではきっちりかっちりやりますが、
家庭で楽しむ分にはもっと自由でいいのです。
レシピや工程にガチガチに縛られない方が楽しく美味しくできると思います。
その点ではこのレシピも工程も数秒で思いついたもので、
途中で「noteで紹介しよう」と思い立ち、慌てて写真を撮ったり…。
「ちょっと散歩いってくるね」
くらいの感覚でパン作りに触れてもらえたら嬉しいなと思います。
結果、美味しくいただきましたし、
あーだこーだ言いながら楽しんで作れましたので。
よろしければ皆さんもチャレンジしてみてください。
チャレンジしなくても、
パン作りの考え方など参考にできるところがあれば取り入れてみてください。
長い生地…あ、記事にお付き合いいただきありがとうございます。
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