雨の日が好きだ。傘はささない。風邪をひくよと言う妻に、僕にはイギリス人の血が入っているんだと返すひねくれ者だ。そういえば子どもの頃に「かさをささないシランさん」という絵本を持っていた。傘をささないことで牢屋にいれられるという話だった気がする。人と違うやり方で生きるのはなかなか難しいのだろう。
 雨は匂い、音、肌にふれる感覚など身体全体で感じることができる。とりわけ雨の音が好きで、音楽を止めて窓を開けると意外なほど複雑なリズムが聞こえてくる。プルーストの本の中に雨音の美しい表現がある。

 "小さな音が窓ガラスにして、なにか当たった気配がしたが、つづいて、ぱらぱらと軽く、まるで砂粒が上の窓から落ちてきたのかと思うと、やがて落下は広がり、ならされ、一定のリズムを帯びて、流れだし、よく響く音楽となり、数えきれない粒があたり一面をおおうと、それは雨だった。"
失われた時を求めて 吉川一義訳

雨の降り出しの情景が、雨音だけで浮かんでくる。究極のアンビエント音楽だ。

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