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横浜バー夜の人間模様 ファイルno.4

ある日、一人のカンボジア人男性が来店した。こんばんは、と日本語を話すので少し面食らったが、たまたま店を見かけて入ってきたと流暢な日本語で話す。随分日本語上手いですねどのくらい勉強したの?一通り話してからオーダーを聞くが何も聞こえなかったように話をそらす。同じことを3度目くらい、何か様子がおかしいと思った矢先シャツの汚れや鞄にこびりついた泥が目に入った。もしや…。

あの、そろそろ何かオーダーしてもらわないと、、男は相変わらず歯切れが悪いがしばらくして言うに払えるお金がないと言う。
ああ、、申し訳ないけど店なんでそういうことなら出ていってもらえないかな、少し語気を強めると、ようやく開いた口からボソボソ身の上話を語り始めた。
私は住む家も家族もなくこのカバン一つ道端で暮らしているんです。そうお金も仕事もない、一人彷徨ってます。払うお金がないからと言って店を追い出すのはどうか、お話しするくらい良いではないか?あなた何かにお気づきではありせんか?そうあなたには金(ゴールド)の心がない。お金はお持ちかもしれないが金(ゴールド)の心はお持ちでないようですね。残念です。私はお金こそないが金の心を持っている、自慢じゃないがそれが私の誇りであり全てです。あなたには分からないでしょうがね。店はエアコンが効いていてcoolだけど店主はcool(かっこいい)でないようですね。いい時間をありがとう、またそのうち会いましょう。
男はそう言って去っていった。しばらくそれが気になっていて頭の片隅にずっと引っかかっていた。

別のある日再び男が現れた。
金の心の意味がお分かりになりましたか?そうですか、まあいいでしょう、あなたがこれからも幸せに過ごし商売繁盛になることを祈ってます。はっはあ、あなたは私の頭がおかしいとお思いでしょうね。いえ分かっています、だがそれは断じてありません。私は頭がおかしいわけではないんだ、見える真実を語っているだけです。ごきげんよう、お元気で。
それ以来彼を見ることはない。今もどこかで同じように旅を続けているのだろうか。彼が語ったことに真実めいたものがあったのは確かだが一体…謎は今も深まるばかり。もしまた来ることがあれば酒でも奢ってじっくり話を聞いてみることにするか…
今日もシェムリアップ の静かな夜は更けていく。

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