能町みね子「結婚の奴」
思いついて能町みね子さんの話を書いたことから、それじゃあ、ちょっと最近の本も読もうか?と買った本.....ゲッ!なんてこの本ササりまくるのかしら?? 「能町みね子主義」とか言いましたけど「能町みね子教」になりそうですよ。
能町さんと私、やたらと共通点が多いのですよね。年はあちらが17も下、というのが羨ましい限りですが、ね。この方あたりの生まれだったら、私も特例法ができた若いうちにさっさとトランスして、SRS を受けてたんじゃないでしょうか。で、この方もアセクシャル傾向が強いです....
・完全パス(要するに元男性って見破られない)
・性別適合手術(SRS)済
・特例法を使って、戸籍の性別を女に変更済
・性別移行の過去をオープンにしている(非埋没)
・LGBT活動家ではない
・性的欲求の薄いアセクシャル
いやいや、本当に自分のロールモデルにしたいくらいです。私の方が年下なら絶対そうじゃないかなあ。で、この本は、能町みね子さんの「性遍歴(苦笑)」を扱った(?)本、ということになります。書店だと「女性向けライトエッセイ」の棚にありましたが....嘘ウソ、ヘヴィなエッセイというか私小説的なものです。イラストは一枚も、なし。文章は上手ですが、いわゆる「軽妙な文章」じゃない。ですから、たとえば「オカマだけどOLやってます。」とかのイメージで読むと、いい意味で「裏切られ」ます。
メインネタはゲイライターのサムソン高橋氏(言うまでもなくゲイ)との「偽装結婚」というか契約結婚ですが、それに至るまでのそれこそ男時代の性体験も回想してたりします。いやね....ここらへん本当に実感としてササるんですよ。参った。
大学時代の女友達の「私はちゃんと子供を産まないと、女じゃないと思ってるから....」という何気ない発言に
しかし、その言葉は、私にどす黒い復讐心を燃やせるのに十分なものであった。
映画や本や音楽なんかを私よりはるかにたくさん知っていて、新卒でしっかり就職して、オシャレで...そんな彼女がそう言ってしまう世の中なのだ。これが世間だ。彼女が世間に化けて私に迫ってきた。
何も私は世間に喧嘩を売りたいなんて思っちゃいない、むしろ迎合できるならしたいくらい。恋愛して結婚して子供を産んで、何の迷いもなくそうできたらどれだけ楽か。
いや....本当にそうですよ(泣)。トランスというかセクシャルマイノリティ一般の最大の問題点は、世間の「人生設計」という奴が、一切役に立たない立場になる、ということなんです。何歳までに何をして、その後どうなって...というようなプランがまったく立たないのです。「自分は今何をしたらいいんだろう?」という疑問に、押しつぶされることになりかねないんです。周囲が「人生設計」とやらを立てて実現していくのに、一人取り残されて「世の中から疎外されている」ようなみょ~な劣等感にさいなまれるのですよ。ガラスの壁の向こう側にいるような?
で、24歳の能町さんはセクシャル・マイノリティのBBSで知り合った男性と「恋人」になってみます。この男インテリ崩れ33歳塾講師、ダメダメ感漂う情けない男なのですが....
この人と、つきあうのか。いくら「とりあえず誰かとつきあう」が目標とはいえ、これでいいのか。
話ていて不快な印象は少なくとも、ない。それなのに、私はなぜこんなにためらっているのか。容姿か。
容姿だった。
(略)
男性という生きものの首から上の毛の生え方だとか、毛穴から脂や何やらがにじみ出ていることによって光る肌とか、細部の生々しさがそれぞれ鈍く主張して追ってくる。こういった要素に私がこんなに抵抗を感じるとは思わなかった。
...やっぱり、こう思うんですよね。私も「興味本位」と称して、大学の先輩でゲイを公言していた方と、一時セックスフレンドみたいにしたことがあります。ホントにやり方を教わろう、というだけの動機で、その人が好きだったわけでも何でもないです。その方も太って脂ぎってましたしね。見た目も好きじゃありませんでしたが....
私は初めて男性の物をこんなに近くで見たり触ったりして、不愉快さを感じることは案外ほとんどなかった。薄暗がりのなかで吸われたりなめられたりして、相手がそうしてくるから私も返したほうがいいのかと思って同じようなことをし返したりして....この行為はいつになったら、何が起きたら終わりになるんだろうと思いながら、それでもまったく拒まれずに距離感がゼロになっていることにはそれなりの満足感と快感があり、なによりもこういった試みが初めてだったこともあって、この行為には新鮮な楽しさがあった。
そう、何か「時間を持て余す」ような、アウェイでノれない部分があるんです。ジャンル違いの音楽のライブに行ったような? したことのない体験だから、やっぱり最初は「新鮮」なんです。そりゃ、コスれば、それなりの快感はないわけでもないです。でも「へえ~」という感じ?なんでこれが「性の悦び」とか御大層な人生の目的にされるようなものなのかしら?? だから能町さんはデートして何回もしているうちに
セックス的なことにも飽きてきた。
似たようなことばかりで、何もかも新鮮味がなくなってきた。
で、意味がなくなってこの方とは別れることにします。アセクシャルですから「みんな、やってる」からやってみただけのことで、繰り返すと惰性感にいたたまれなくなるんです。能町さんはその後も数人と付き合ってはみるのですが
平凡な恋愛と結婚をして早く埋没したい、などと強く思い込んでいた裏には、堀内(子供を産まないと、女じゃない、の発言の主)をはじめとした世間への復讐心に、悔しさもないまぜになっていた。
というのも、もちろん「モテないから悔しい」などという単純なことではなく、恋愛というものを何の理由もなく受け入れて楽しんでいる人たちに対する悔しさである。
実にその通り。世の中から「感性的に」排除されているような感覚なのです。たとえばね、私も小説を読むのは大好きなのですが、自分で書こうと思うことはないのですよ。世間一般の皆さんの「あたりまえ」についての「感性」から疎外されていて、「皆さんが日常生活をどう感じているのか?」が全然、分からないのです....小説を書いても「こんな夫婦、ありえない!」とか指摘されそうで、怖いんですよ。だから、あまり直接「自分が感じたこと」というのは普段書きませんし、表現活動でも「人生」的な表現は避けますよ。「アートのためのアート」なら得意ですが、「人生とアート」とか言われたら、「おいら知らんがな」で済ませたいです。世の中の皆さんの生活は本当に「謎」です。
しかし、恐ろしいことに、この謎は長じるにつれて絶望のようなもの変わっていく。
仕方がないんです。どうしようもね。諦念を抱くしかないんです。
トランスだとやはりどうしてもフェミ関連の方々とのお付き合いもないわけではありませんが、
フェミニズムをはっきり標榜する人についても、かなり警戒していた。そういう人から「女として同じ悩みを抱えていますよね」という形で共感を期待されたとき、いや、生まれつき女ではない私はたぶん分からないことがありますし、私の悩みもたぶん分からないと思いますから、おつきあいしていくにつれ、あなたはきっと私を「別種だ」と識別するようになると思いますので....と、部屋の隅に逃げ込みたくなるような気持になっていた。
残念ながら、連帯なんて、口先だけの嘘っぱちです。女性たちと同じような「人生」を送ることはできないのです。たかだか「女性の文化」にアイデンティファイさせてもらえるだけで、あくまでも「お客さん」とか「女もどき」程度だと、自分でも思いますよ。
やはり私のやっていることは疑似なのだ、と改めて鮮烈に自覚する。
私は寝ても起きてもずっと疑似をやっている気がする。本物の「当然」や「常識」に、私はどうやっても一生手が届くことはない。
これこそが、トランスの本当の「孤独」なのですよ。子供の頃から、自分って「人間もどき」じゃないのかな...なんて疑問を持ってきてますからね(「マグマ大使」も罪作り....)。
いや能町さん、「オカマだけどOLやってます。」とか「トロピカル性転換ツアー」のお気楽なイメージで捉えていて、ここまで書かれる方とまでは思ってませんでした。不明を恥じます。でも、能町さんここまで自分を語った本はあまり書いてなさそう....それが残念。レア?(「お家賃ですけど」は好きですよ~この本に近いですね。)
「能町みね子主義」ですよ。本当に。
でもね、私が能町さんと違うのは、家事大好き、という点かも。掃除洗濯おさんどん、完璧にこなすのが大好きです.....いい奥さんになれるのですけどね。まあ、自分が自分の奥さんみたいなものでしょうか。だから、私には偽装結婚は不要、なのかもね。
私もトシではありますけども、仕事を引退して自由時間もあることですから、キレイになって少しは「女性」を楽しんでみるのもいいのかな~なんて思い始めてもいます。そしたら「恋」や「性」も、すこしは「わかる」のかしら?
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