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準耐力壁等を考慮した壁量計算をやってみる

2025年の建築基準法改正では、存在壁量の算出において新たに「準耐力壁等」を算入できるようになりました。
準耐力壁等がどのように壁量計算で扱われるのか気になりましたので、HOUSE-ST1(在来木造の構造計算ソフト)を使って調べてみます。


参考書は確認申請・審査マニュアル

国土交通省が公開している『2階建ての木造一戸建て住宅(軸組構法)などの確認申請・審査マニュアル(2024年11月 第3版)』を使って、確認申請図書を作成する目線で「壁量判定」します。

2階建ての木造一戸建て住宅(軸組構法)などの確認申請・審査マニュアル
2階建ての木造一戸建て住宅(軸組構法)などの確認申請・審査マニュアル
発行:(一財)日本建築防災協会、(一財)建築行政情報センター

このマニュアルは、木造一戸建てにおける確認申請に必要な図書の作成方法が具体的に解説されているので分かりやすいです。

準耐力壁等の算入における注意点

今回扱う準耐力壁等の種別を決めます。
準耐力壁等には、「準耐力壁」と「垂れ壁・腰壁」の2つがあります。
一般的な戸建てで多く見られるケースは開口部の垂れ壁・腰壁だと思いますので、外壁に垂れ壁・腰壁を配置することにします。
それでは、準耐力壁等の注意点をマニュアルで確認しましょう。

表3-7準耐力壁等の基準・倍率
『2階建ての木造一戸建て住宅(軸組構法)などの確認申請・審査マニュアル』P.91

垂れ壁・腰壁の配置では、両側が耐力壁または準耐力壁であることに注意します。
壁倍率は、耐力壁と比べるとかなり低減されそうですね。
それから気を付けたいのは、準耐力壁等の壁量です。

各階・各方向のいずれかにおいて、必要壁量の1/2 を超えて準耐力壁等を算入する場合は、準耐力壁等を設ける柱の安全性の検証等を行う必要があります。特殊な事例となるため、本書の解説の対象外とします。

『2階建ての木造一戸建て住宅(軸組構法)などの確認申請・審査マニュアル』P.92

壁量が必要壁量の1/2を超えると追加で検証が必要なので、これは回避したいところです。

HOUSE-ST1で準耐力壁等を考慮した壁量計算

HOUSE-ST1の新バージョン(2025年2月末リリース予定)を使って2025年法改正に対応した壁量計算を行います。
まず、建物断面図で横架材天端間高さと平均はりせいを確認しておきます。

断面図の模式図
断面図から必要な寸法を抜き出した模式図です

垂れ壁・腰壁の工法(構造用合板/耐震壁の壁倍率2.5)、高さの合計(1200mm)を設定します。

壁の配置ダイアログ
壁の配置ダイアログ

1階Y方向にある、両側に耐震壁を設けた開口部(緑マーカーの部分)に配置します。

1階伏図
緑マーカー部分に腰壁を配置します
(1階伏図)

さて、どれほどの耐力を持つのか気になります。
HOUSE-ST1では入力した天端間高さなどから壁倍率を自動で計算してくれますが、手計算してみましょう。

壁倍率
=面材の基準倍率 ✕ 0.6 ✕ 面材の高さの合計/横架材相互間の垂直距離
=2.5 ✕ 0.6 ✕ 1200 /(2800-240)
≒ 0.703

耐震壁の倍率(2.5)と比べると3割弱の耐力ですね。私は予想よりも高い値でしたが、皆さまはどう思われたでしょうか。

それでは壁量計算を行います。

計算モード
計算モードを「壁量計算」に設定します
令第46条関係の計算
「準耐力壁等の考慮」で「必要壁量の1/2以下であるものとして考慮」を選択します

計算を終えると計算結果ビューアーで「壁量計算書」が表示されますのでページを順に見ていきます。

壁倍率計算表

壁・柱伏図
耐力壁・準耐力壁等・非耐力壁や柱の配置、種類などが確認できます。

1F壁・柱伏図
拡大図の緑マーカー部分が垂れ壁・腰壁の位置です
(1F 壁・柱伏図)

耐力壁及び準耐力壁等の壁倍率一覧表
壁量の検定において、垂れ壁・腰壁(W4)の壁倍率に 0.703 が採用されることが確認できます。手計算と同じ値ですね。

耐力壁及び準耐力壁等の壁倍率一覧表

壁量計算表

存在壁量
存在壁量の計算にて、垂れ壁・腰壁が算入されていることを確認します。

存在壁量

壁量のチェック
Y方向1階の壁量判定が「適」で、基準が満たされています。
壁量に問題ありません。

壁量のチェック

準耐力壁等の必要壁量に対する割合の確認
垂れ壁・腰壁の必要壁量に対する割合が1/2以下であることを確認します。
準耐力壁等を設ける柱の安全性を検証する手間を回避できました。

準耐力壁等の必要壁量に対する割合の確認

これで計算書の確認を終わります。出力された順に結果を追うことで、壁量判定の根拠を拾うことができました。
HOUSE-ST1は計算結果の見やすさに定評があると聞いていたのですが、この結果の並べ方がポイントなのかもしれません。

おまけ

同じ建物データを「準耐力壁等を考慮しない」条件で壁量計算したところ、Y方向1階の壁量判定が「不適」になりました。

壁量のチェック

あと何枚、壁倍率1.0の耐力壁が必要なのか計算してみます。壁1枚の長さは、計算する建物の基本グリッドを91cmにしたので「91」とします。

Y方向1Fに追加で必要な壁枚数
=(⑩存在壁量-⑨必要壁量)/壁1枚の長さ
=(1729.073-1592.500)/ 91.000 = 1.500 ≒ 2枚

つまり垂れ壁・腰壁を考慮しない場合は、1か所の壁に片筋かい(45×90/壁倍率2.0)を設ける必要があったことが分かります。