代役者明示に“絶対に舞台は続ける”という強い意志を感じた「ジェイミー」
こんにちは、島田薫です。
日本初演の「ジェイミー」が開幕しました。
早速足を運びましたが、本当に今まで日本で上演されていなかったのかと不思議に思うぐらい、開幕から数日の段階で馴染んでいました。
初演なので、まずあらすじからお話しすると…イギリスの16歳の高校生が“ドラァグクイーンになりたい”という夢を持ち、いじめにあったり・父親の愛が得られなかったり・母親の助けがあったりと、いろいろなことを乗り越えていく物語。実在するジェイミーを追った英国BBCのドキュメンタリー番組を基に製作され、2017年にイギリスで初演という、まだ新しいミュージカルです。
内容的には、「ザ・プロム」の“同性の恋人の存在を明かしたい高校生の女の子の話”に似ているかもしれません。
男の子が周りの子と違うことに興味を持ち、それを貫くという面では「ビリー・エリオット」も近い感覚です。
主人公の年代をもっと上げると「ラ・カージュ・オ・フォール」も、感情的には似た気持ちがあります。ドラァグクイーンの華やかさを見ると「キンキーブーツ」も思い出します。
なんとなく、雰囲気がお分かりいただけますか?
1幕の途中くらいまでは、高校生が主人公だし若い世代の方が感情移入しやすいかなと思っていました。
しかし途中から、子供を持つ母親の世代が観ると泣ける話なのだと気付き、ドラァグクイーンの活躍にはそのまた上の世代も熱中するような面々が登場。結果的に、3世代と幅広い年代がそれぞれの視点で楽しめる内容だということが分かりました。
私が観たのは、主人公のジェイミー役をWキャストの森崎ウィンさんが演じる回。自分の中にないモノだったため、役作りには苦労したそうですが、ピュアで皆に愛されるジェイミーに仕上がっていたように思います。
そして、安蘭けいさん演じる母親が、息子ジェイミーが傷ついて出て行った時に歌う姿には、客席からすすり泣きの声が聞こえました。
ハッピーにしてくれたのは、ドラァグクイーンの4人です。実は、ミュージカルの金字塔と言われる「レ・ミゼラブル」でジャン・バルジャンを務めた今井清隆さん、ジャベール役の石川禅さん、アンジョルラス役の吉野圭吾さん、マリウス役の泉見洋平さんが揃ってドラァグクイーンとして出演されている、ミュージカル好きにとっては盛り上がるキャスティングになっています。
しかも、4人とも本物にしか見えない!特に伝説のドラァグクイーンを演じている石川禅さんに、強く大きな拍手が送られているのはとても心地よく、会場の雰囲気がぐっとよくなります。
高校の生徒たちも、全員名前が付いていて個性的。意地悪なディーン役を務める佐藤流司さんや矢部昌暉さんは、それぞれの世界で人気がありますし、例えば全員で踊る時にもきっちり揃えるというよりは、同じ動きをしていてもそれぞれ足を開いている幅が違ったり、振りの大きさが違ったり、自由度が広く個性が際立ちます。
もう一つ付け足すと、舞台にはアンダースタディ(代役)やスイング(作品の中の役をすべて代役するアンダースタディ)と呼ばれる方たちがいて、きちんと明示されています。
コロナ禍ということもあるのだと思いますが、もし誰かに何かがあってもいつでもその役ができるように準備している人がいて、その人の名前も発表されている。絶対に舞台は続けるのだという強い意志を感じます。舞台上から、舞台裏からの熱気を存分に感じて、満足度高く劇場を後にすることができました。
後悔は、キャスト違いでチケットを取っておけばよかった、ということです。他のキャストでまた雰囲気が変わるであろう舞台を、もう一度観たくなりました。
※東京公演は8月29日まで
※大阪公演(9月4~12日)、愛知公演(9月25、26日)もあり