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読書

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読んでよかった本やおすすめ本。映画やドラマに関する本などのまとめ。
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読書記録「空芯手帳」 |「ねえ、カップ」的な社会から身を守るための嘘

 「空芯手帳」の主人公は、ラップの芯やお菓子のパッケージなどに使われる「紙管」(私はこの言葉をはじめて知った)を製造する会社に勤務する女性、柴田さんだ。ある出来事をきっかけに「妊娠した」と嘘をついた柴田さんの妊婦生活を、妊娠週を章に見立てストーリーが進む。  物語は柴田さんが会社でブチ切れるところから始まる。同僚たちは柴田さん以外、全て男性だ。その環境では、ごく自然に「名前のない仕事」は柴田さんの仕事だと認識される。来客のお茶出し、いただきものの菓子を一人ずつ配ること、再利

読書記録1月 閻連科「中国のはなし」、ミランダ・ジュライ、「親といるとなぜか苦しい」

中国のはなし2024年の一冊目は大好きな閻連科先生から。表紙がちょっとお正月ぽい。 〇あらすじ 著名な小説家である閻連科は、親戚の集まりで中国の田舎に帰省した。集まりが終わったころ、見知らぬ青年が閻連科に話しかけてくる。「わたしのとっておきの話を聞いたら、先生はきっと小説に書きたくなるはずです。だから私の話を買ってくれませんか」と。 〇感想 見知らぬ人間の話を信じるかどうか。まあ、普通は信じないけど、その設定で小説が進んでいくところも面白い。 何が嘘かまことかわからない

読書記録:親といるとなぜか苦しい

本書はいわゆる毒親本。 「毒親」という言葉はあまり好きでないので「有害な人間関係」に関する本、と言い換えておこう。 このジャンルではスーザン・フォワード「毒になる親」が非常に有名で、この本で人生救われたという人も多いはず。 私自身もその一人で、講談社版を15年くらい前に読んだ。 改めて「毒になる親」について検索していたら、講談社プラスαの出版から20年を経て、2021年には毎日新聞出版から「完全版」が出版されている。いまや古典。 「完全版」が読みたくて購入してみたところ

読書記録 12月  竹田ダニエル「世界と私のAtoZ」、ハン・ガン「少年が来る」 など9冊

すでに2月になってしまったので記憶が薄れつつありますが、振り返り。 2023年最終月はよくばって9冊。読んだ順にご紹介。 ポアロのクリスマス一冊目。 新訳版。すごく美しい表紙。完全にジャケ買い。 クリスマス前に購入して、しばらく机に飾ってました。 高校生の頃、たくさん読んだアガサ・クリスティー。 今読むと、女性の描かれ方とか画一的で時代の移り変わりを感じる~。 重ための読書が続いた後のミステリー小説は、純粋にストーリーを楽しめてすごく好き。 サピエンス全史(上)二冊目。

11月に読んだ本と原書で読書することの楽しさについて

「読んだ順」に紹介していきます。 読書をしていて楽しい瞬間のひとつとして「次は何を読もうかな~」と考えている時があると思うんです。 その時の気持ちが反映されてくるものなので「読んだ順」で残しておきたいなと思うのです。 「嵐が丘」エッセイとか現代小説などを続けて読んでいると、なぜか海外の古典が読みたくなる。 より現実逃避したくなるからかな。 「嵐が丘」は登場人物がいつも怒っているので、心情についていくのが難しく、今まで三回くらい挫折した。 しかし今回、ついに読み切った。

中国現代小説「長恨歌」、原書で「キム・ジヨン」、「リサーチのはじめかた」 -読書記録10月 

10月に読んだ本を読んだ順に記録 1.「長恨歌」王安憶 著、飯塚容 訳  2023/9/1発行 余華の「活きる」を読んだことがきっかけで中国現代小説にはまり、余華、閻連科を立て続けに読み、最近は作家が誰であれ書店で新刊を見かければ出来るだけ読んでいる。 「塞翁が馬」みたいなストーリーが多くて、一方的に辛かったり楽しかったりすることが無い。そこがおもしろい。 「長恨歌」は1940年代の上海で主人公の王琦瑶(ワン・チーヤオ)が美人であるがゆえに出会う幸運と悲劇に翻弄される生

韓国ドラマ「D.P. 」と軍隊が良くわかるおすすめ本

NETFLIX「D.P. 」のシーズン2が、いよいよ7月28日からはじまる。 「D.P. 」は韓国陸軍が舞台。脱走兵を捜索し部隊に連れ帰ることを任務とする「DP組」のジュノ(チョン・ヘイン)が主人公。 軍隊で起こる理不尽、社会の不平等を憚ることなく描いていく。射殺事件や苛烈ないじめなど、非常に重いモチーフを扱っているが、リアルな演出は見始めたら途中でやめることができない。 原作はウェブトゥーン原作はウェブトゥーン「D.P 개의 날(犬の日)」。実際にDP組だったという作

疎外感と寂しさを分け合い疎通したい イ・チャンドン監督トークイベントの感想

本の刊行と映画の上映を記念して韓国映画界の巨匠イ・チャンドン監督が来日し、8月8日代官山ツタヤにて開催されたトークイベントに行ってきました。 私にとってイ・チャンドン監督とは2005年、韓国への語学留学を控えていた私は、渋谷文化村で上映された「オアシス」を観に行き、非常に大きな衝撃を受けました。障碍者を正面から描いたこの作品にはトップスターであるソル・ギョングが主演していました。また相手役となるムン・ソリは脳性麻痺の障害を持つ女性という役を完璧に演じ、女優として大きな成果を