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みんな大好き、かっこいい数学の言葉 『浜村渚の計算ノート』 作:青柳碧人

またまたおすすめしてもらった小説です。
昨年中に読み終わってたのですが、なんやかんやと忙しく、感想書くのに時間かかっちゃいました。

「数学の地位向上のため国民全員を人質とする」。天才数学者・高木源一郎が始めたテロ活動。彼の作った有名教育ソフトで学んだ日本人は予備催眠を受けており、命令次第で殺人の加害者にも被害者にもなりうるのだ。テロに対抗し警視庁が探し出したのは一人の女子中学生だった!

講談社BOOK倶楽部

作者に理系感を感じない理系ミステリーだなってのが第一印象でした。全然、だから悪いとかじゃなくて。

数学とか物理、科学の用語ってなんであんなにかっこいいんですかね。ただ数学者の名前がついてるだけの公式とかも、地味な名前の人とか少ない気がします。
デビットの定理とかだと、そこまで心くすぐられないけど(偉大な定理にあったらごめんなさい)、フェルマーの大定理ってあると「ふぇ、ふぇるまあ・・・!?」ってなりますよね。

私が子供の頃に、そういう「数学ってなんかかっこいいっ!」って思わせてくれたものは加藤元浩先生のミステリ漫画『Q.E.D. 証明終了』でした。
そこから森博嗣先生の「S&Mシリーズ」とかに手を伸ばすのがけっこう黄金ラインだったような気がします。
同世代で私と同じようなルートを辿った人は多いのではないでしょうか。

一方で、こちら『浜村渚の計算ノート』は2009年にシリーズスタートということで、今の10代から20代前半の方々の「数学かっこいい!」への第一歩を生み出してくれている作品なんじゃないかなという感じがしました。
実際にこれをお薦めしてくださった方も高専に通ってらっしゃるようなので、そのやりたいことの後押しの1つになった作品なのではないかなと。

青柳碧人先生の作品は失礼ながらこれまで『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う』しか読んだことがなかったのですが、非常にコミカルで端的なパズルミステリーを書かれる方という印象があります。
今作もめっちゃコミカルです。あらすじ見ても分かる通り、世界観がトンデモです。
数学は青少年教育にあまりよくないから削りまくって、代わりに道徳や芸術の授業を増やしまくった日本で、ほぼ全学生が見たことのある数学学習DVDに催眠映像を入れていたテロリストが、人々を操って数学の重要性を国に認めさせようとします。
一般人探偵のミステリーって、リアルに寄せれば寄せるだけ、そんなに事件に遭遇するのおかしいだろっていう違和感にぶつかるんですが、もう初っ端から「この世界はこうです!」って宣言されちゃってるので、読むにはこちらも受け入れるしかありません。すばらしいですね。

作品の雰囲気についてなのですが、最近M-1グランプリで連覇を達成した令和ロマンになんとなく共通するものがあるように感じました。令和ロマンだけというよりか、そういう作品作りをする人にですね。
彼らは漫才というものを非常に論理的に組み立てた上で、そこに自分たちの「人」がしっかり入るようにし、さらにそれがより見ている人に伝わりやすように見た目を寄せていくという努力をしていたように見受けられます。
青柳先生の小説も、熱量を中心に物語が進んでいくというよりは(熱意がないという意味じゃないです)、謎の解明というゴールに向かう道筋と、物語の盛り上がりが論理的にあり、そこを着実に進んでいくお話が多いように思います。サンプルが少ないので、他の本はそんなこと全然ないのかもしれませんが、これまで読んだ2冊は、かなり無駄や寄り道が少ないです。短編集だからですかね・・・?
無駄がないというのは、個性がないなどの理由で、芸術分野ではマイナスに見られることもありますが、青柳先生はその論理的な物語の中に、先生の数学を楽しんでほしいなあという優しさが加わっているのが感じ取れます。そこに先生らしさと良さが溢れ出ています。

そういえば、この2010年前後は特定の職業やジャンルに焦点を当てた、いわゆる日常の謎系のミステリが急増した印象があります。
印象なので間違ってたらすみません。
ただ、その中で"数学"というフックを持ちながら殺人や傷害などをメインに扱った先生の本格ミステリへのこだわりはすごく感じました。


余談として、私は数学好きだったんですが、数字とかアルファベットの羅列を覚えるのがめちゃくちゃ苦手で、公式を覚える部分で挫折しました。
数1Aまでは頑張れたんですけど、数2Bから一気に公式が増えて間に合わなくなっていたような記憶があります。
できる人尊敬します。




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