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love letter from K. Season2「自分」 9. 愛用品と私 ー前編ー

過去8回に渡り「自分」というテーマを色々な角度から覗いてきました。毎日触れる物の話、逆に何もしないで自分に隙間を空けるという内容、自分の周波数にしたがって周りを気にせずにまっすぐ直感にしたがってください。そんなメッセージを全体を通して投げかけてきたつもりです。こういう時期だからこそネガティブになってしまいがちですが、それは皆同じですからそこからどう自分自身という船をポジティブに漕いで行くかが大切だなと思っています。そしてこのテーマもいよいよ残すところあと2回。シーズン2最終話は「愛用品」について。


日本人の特殊能力

みなさんには「愛用品」がありますか?思い浮かべてみると、色々と出てきますが、その中にはコンバースやTシャツなどの定番品やロングセラーも多いでしょう。愛用愛用・・・・・iPhoneとかサインペンなどもそうですが、実はずっと使っている訳ではなく結構定期的に買い替えてる物が多いんですよね。それって、本当に愛用してると言えるのでしょうか?

この「愛用」という言葉、実はルーツを紐解いていくと日本人の持つ不思議な感覚に辿り着きます。世界的に見れば、日本人は欧米諸国と違って少し特殊な民族のようです。なぜか?それは宗教の感覚があまりない事に起因します。八百万(やおよろず)の神という言葉をどこかで聞いた事があるでしょうか。これは生命の有無に関わらず全てのものの中に魂が宿っているという考え方。例えば山の神、キツネの神、お米の神のように神社に祀られているものも少なくありません。「山を荒らすとたたりにあうよ!」の「たたり」という感覚も、僕達日本人の身体には染みついていますよね。絶対的な宗教の感覚が弱く、代わりに自然を崇拝したり、差別をせず存在するもの全てに魂があると心のどこかで信じている。それが日本人なのです。例えばこれを海外の方に説明してもあまり共感してもらえません。

ものの気持ち

「愛車」という言葉があります。これは海外にはありません。欧米の人にとっては車はただの財産にしか過ぎず、愛なんて抱かないからです。バンパーは傷がつくものであり、誰かが間違ってちょっと押したとしてもバンパー位なら怒りません。物なんだから、ぶつけてぶつけられるのは当たり前と・・・この感覚わかるでしょうか?

写真:Steve Joyce

一緒に色々な所へ連れていってくれる車、乗れば乗るほどペットのように可愛がり、相棒のようになっていく。そんな車のバンパーに傷がついたら可哀想だな・・・と思いますよね。それが愛車だ!と思うんですが、日本人や一部アジアの人達にしかわからないそうなんです。

これは車に限らず全ての物に言えると思って調べてみると、実際に高校の現代国語の教科書には「愛用品の五原則」という文献が記されています。

愛用品の五原則
わたしたちが長く親しんできた「ものの時代」に別れを告げ、いよいよ本当に心の満足を得るための「こころの時代」を築くために、実際の生活に立ち戻って、「愛用品の原理」を示します。

1 持っているものの数がもともと少ないこと
2 長く使えること
3 手を焼かせること
4 故障しても悪戦苦闘すれば自分で修理できること
5 磨くと光ること、または磨きがいがあること

(著者:武田邦彦)

参考:人生の鱗 其の二十四 ー愛用品の五原則ー


好き嫌いのバイオリズム

一生モノを買いましょうという流れが数年前にありました。ロングライフデザインという言葉も好きで、時代を超えて愛されてきた物を色々買って使ってみました。結果わかったことは、ロングライフというのは僕的にはちょっと違った解釈で、「ずっと変わらずに愛し続けられる」というよりも「定期的に”好きだなぁ”と思える周期がやってくる」と個人的には思っています。人間どんなものでも好き嫌いの波は訪れるものであって、それを「いや、これは一生ものだからずっと好きでいられるはずだ!」と無理矢理テンションを張っているのもどこか違うような気がするんです。3年間気に入って使い続けて、その後2年飽きて、もういい加減買い替えるかと思っていると、ふわっとまた魅力的に見えてくる。こんなリズムを持つ物が僕的ロングライフ。

このカリモク・ロビーチェアも良く見るとボロボロで何度買い替えようかと思ったでしょう。でも日本人の体型にピタッとくる他のソファがなかなかない・・・ともしてる間にまた「やっぱりこれいいよな」と魅力が復活してきます。


それって本当に愛用品?

著者は、「わたしたちの身の回りには愛用品は少なくなりました。」と書いています。僕も数日間本当に愛用品ってあるんだろうか?と考えてみたのですが、これだ!という物がないのです。愛用品は自分らしさと直結しますから、それを見つけて「自分らしくいてくださいね」と締めくくろうと思ったのですが、、ない・・・。それどころか、サブスクリプションもやっている始末です。ふと考えてみると、大切にしているのは例えば携帯の中の写真自体だったり、日課であるサウナだったり、この類ならいくつでも出てきそうです。もしかすると愛用品という形そのものが変わり始めているのではないでしょうか?次回はこの疑問を追っていきたいと思います。

つづく。

和田 健司
オランダDesign Academy EindhovenにてDroog Design ハイス・バッカー氏に師事、コンセプチュアルデザインを学ぶ。 同大学院修士課程修了。大手広告代理店勤務の後、2011年 “what is design?”を理念とする(株)デザインの研究所を設立。研究に基づく新たな気付きを、個人から企業まで様々な顧客に価値として提供し続けるコンセプター。


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