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罰金で解決できると思ったら大間違い!?従業員の道徳心を守る方法

従業員の遅刻やうっかりミスなど、好ましくない行為に罰金を科せば、みんな気を付けて悪い行いは抑制されるように思えます。ところが、その罰金制度がかえって悪い行いを助長してしまうことがあるのです。


遅刻に罰金を科す

どこの保育園でもあるように、時間になっても子供たちをお迎えに来ない(遅刻する)親に、先生たちは頭を抱えていました。イスラエルのある地域の保育園では、週にして平均8件の遅刻が生じていました。

そこで、経済学者のウリ・ニーズィーらは、非常に興味深い実験を試みました。10分以上遅刻した親に、日本円で500円程度の罰金を科すことにしたのです。つまり負のインセンティブ(罰)を与えるによって、遅刻がどう変化するか調べたのです。

罰金で遅刻が増えた!?

普通に考えれば、誰も罰金なんて取られたくないはずですから、遅刻は減るはずだと考えます。ところが実験を始めてしばらくすると、なんと遅刻をする親たちが逆に増加してしまったのです!その数は、それまでの2倍以上の20件にも増えたのです。

いったいなぜ、このようなことが起きてしまったのでしょうか?実は、親たちは500円を罰金としてではなく、延長保育料と考えてしまったことにその原因はありました。

それまでは、遅刻をしたら保育士さんに迷惑をかけてしまうかもしれない、ひょっとすると遅刻によって自分の子供の扱いが悪くなってしまうのではないか、そう考えていました。ところが500円という罰金を科したことで、「罰金さえ支払えば遅刻をしても大丈夫。500円が延長保育料なら安いもんだ」そう考えたのです。500円という罰金がまるで免罪符のようになり、本来の「遅刻はいけないことだ」という道徳的意味を薄めてしまったのです。

罰金が社会的規範が薄めてしまう

罰金を科したり、あるいは報酬を与えるという行為は、それまで社会的規範(道徳心)によって維持されていたルールを、いとも簡単に崩壊させてしまうのです。事実、前述の保育園では、17週目に罰金制度を廃止しましたが、その後も遅刻の数が減ることはありませんでした。一度失われた規範は簡単にもとに戻らないのです。

ある国では、献血に対して少額の報酬制度を加えたら、とたんに損得勘定が働きだし、「その程度の報酬なら、わざわざ痛い思いをしてまで献血をしたくない」と、献血する人が逆に減ってしまったという事例があります。これも同じ社会的規範が市場規範に変わってしまった事例といるでしょう。

インセンティブ制度は慎重に

もちろん、遅刻の罰金を10万円にしたり、献血の報酬も10万円にすれば、結果は違ってくるでしょう。しかし、それは現実的でないばかりか、インセンティブのみによって人を動機づけることにつながってしまいます。そこには人間本来の道徳心や社会性はなく、金銭だけが唯一の価値となってしまうのです。

会社の経営者は、しばしば従業員を報酬や罰金でコントロールしようとします。しかしもしその行為を従業員が会社のため、あるいは顧客や同僚のために社会的規範から行っているとすれば、インセンティブ制度の導入には慎重であるべきです。インセンティブはときに、従業員の好意や道徳心を奪ってしまうことがあるのです。


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