「アフリカの夜」㉖殺人犯だと知られていない有香に伝えたのは…

ドラマ「アフリカの夜」。
キーマン丸山みづほは、本名亀田伸枝という夫殺しの指名手配犯。

みづほが逃亡先からメゾンアフリカに帰ってから、皮肉なことに八重子、緑、有香がみづほの秘密に気付いてしまう。

始めは、八重子。
八重子の電話で逃亡をやめて、メゾンアフリカに帰ろうと決意したみづほ。八重子がみづほを出迎えに行き、商店街を歩く。

八重子とみづほが並んで歩く
八重子「(みづほの背を見て)……」
信号から「通りゃんせ」の電子音
八重子が、ふと見た先に、亀田伸枝のポスターが張ってある。
足を止める八重子。
八重子「……?」
みづほ「(意味ありげな笑顔)……」
八重子「……」
良吉の声「いなくなってみるとね、みづほなんて女最初っから存在していなかったような気がするんだ」
八重子「(みづほの背を見て)……!!?」

大石静「アフリカの夜」第8話より

よりにもよって、このタイミングで気付く八重子。八重子がみづほを探して、八重子がアフリカのみんなに働きかけて、八重子が説得し、ようやく帰って来たのに。なんでこのタイミングなんだ!見ていて、むずがゆくなった瞬間。

信号の歩行者が青であることを知らせる「通りゃんせ」の電子音。これが流れることで、みづほの不気味さが5割増しする。

みづほ「おやすみ……じゃない、もう朝か。ありがと……」
八重子「……」
みづほ「……」
八重子「あのっ……」
みづほ「ん……?」
八重子「この前、ここの三階から飛び降りましたよね?」
みづほ「……!?」

大石静「アフリカの夜」第8話より

八重子はこの後のシーンで、図書館で亀田伸枝の雑誌記事を調べまくる。

次に気付くのは緑。

時効を一ヶ月前に控え、福井県警捜査本部は亀田伸枝の肉声を公開すればよいことに気付く。

テレビの特集を、緑は予備校の学食で、有香は喫茶店で見ている。全然気付かない有香と対比させることで、緑の驚きが伝わってくる。

○予備校・学食・中
緑、テーブル席でパスタを食べている。
緑「……」
店内に流れるテレビニュース(喫茶店と同じ)。
アナウンサーの声「亀田伸枝容疑者は、昭和52年に、福井県南鯖江市で起きた男性殺人死体遺棄事件の容疑者として、全国に指名手配されました」
緑「……」
テレビ画面には、亀田の写真入りテレフォンカードが写っている。
アナウンサーの声「福井県警特別捜査本部では、これまでも亀田の顔写真入りテレホンカードや手配署を作成しました。そこで」
以下、緑と有香のカットバック。
×         ×        ×
店員「おまたせしました(ジュースを置く)」
有香「……」
×         ×        ×
アナウンサーの声「そこで、時効成立を一ヶ月に控えて、より一層の情報提供にそなえて、亀田容疑者の肉声いりテープを公開しました」
テレビ画面に、カセットデッキが写っている。
伸枝の声「みんな、元気?」
×         ×        ×
緑「はい……?」
×         ×        ×
有香「……?」
伸枝の声「逆探知されたら困る……」
有香「……」
×         ×        ×
緑「……?」
伸枝の声「みんな、元気?逆探知されたら困る……」
緑、テレビに近付いて行く。
緑「……」

○江古田商店街・おかずの丸ちゃん・店内
テレビから、伸枝の肉声が流れている。
良吉がテレビのスイッチを切る。
良吉「……」
みづほ「……」

○予備校・学食・中
テレビの画面、アナウンサーが伸枝のニュース。
緑、テレビを正面から見据えて。
アナウンサー「亀田容疑者の声をお聞きください」
緑「(目をつむり)……」
伸枝の声「みんな、元気?逆探知されたら困る」
緑「ウソッ……!!?」

大石静「アフリカの夜」第9話より

そして、10話。捜査員が、メゾンアフリカを張っている場面。そこで礼太郎から告げられるまで、有香は気付かない鈍感さ。

みづほも、肉声が公開されてたことは知っていて、焦っている頃。有香の妊娠に気付いたみづほが。

みづほ「礼ちゃん、知ってんの?」
有香「……」
みづほ「ま、言うことないか。産むのもどうするのも、あんた次第だしね?」
有香「アタシ次第?」
みづほ「アタシ、言わなかったけどね、助産婦してたことあんだわ?」
有香「ええ!?そんな話、初めて聞いた」
みづほ「みんな、子どもが生まれること、めでたいめでたいって言うけど、アタシいつも思ってたわ。ホントにめでたいのかなって。だって、人間は死に向かって生きて行くわけだし、その子が人殺しになる場合だってあるわけでしょ?」
有香「話、極端じゃない?」
みづほ「アタシ、あんたのために言ってんのよ?子どももいいけどね、自分自身の人生大事にして、罰なんか当たんないわよ?
有香「それって、自分の幸せのために、人の命を犠牲にしてもいいってこと?
みづほ「……!!」
有香「……?」
みづほ「……」

大石静「アフリカの夜」第9話より

有香は、みづほが夫を殺したことを知らない。そんな有香に言われたからこそ、みづほは堪える。

みづほ「(動揺し)……」
有香「どうしたの、オカン、真っ青だよ……?」
みづほ「(立ち上がり)ハアハアハア……やだ……アンタと同じ貧血かな……?」
有香「大丈夫……?」
みづほ「ねえ?華やかな人生生きる人ってさ、みんなどっか孤独なんだってさ……」
有香「……」
みづほ「アンタ、日本一の女優になってさ、礼ちゃんに、あの女惜しいことしたって思わしてやんなさいよ……」
有香「……そうだね……」
みづほ「フフ……」
有香「ちょっと……ねえ……何でオカンがなくのよ……」
みづほ「……」
有香、みづほの両手を取り。
有香「アタシ頑張る……だから、オカンずっと一緒にいて……」
みづほ「……」
有香「……」
みづほ「ずっと一緒に……いれるかどうか、分かんないけどさ」
有香「どうしてよ……」
みづほ「でもアタシ、どこにいても、有香ちゃんがね、有香ちゃんのこと、ずっと応援してるから」
有香「……うん……」
みづほ「……」

大石静「アフリカの夜」第9話より

みづほは、もしかしたら逮捕されることを覚悟して、有香に伝えたのかもしれない。「華やかな人生生きる人ってさ、みんなどっか孤独なんだってさ……」この言葉は、「自分の幸せのために、人の命を犠牲にしてもいいってこと?」という有香の疑問への答えと言うことか。

そして、「オカンずっと一緒にいて……」逮捕されるかもしれないと思っているみづほに、何も知らない有香が言うからこそ、見ていてぐっとくる。

秘密を抱えた人が、それを知らない人に、それとなく秘密のことを吐露するのが切ないなぁ。

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