「アフリカの夜」㉕ドラマがシリアスになるとき救いになるのは…

ドラマ「アフリカの夜」。
前半はで、八重子が元婚約者の火野史郎と決別する。後半は、指名手配犯のみづほが罪と向き合ってやり直すよう、八重子が奮闘する。
火野史郎役の松重豊のエキセントリックな演技もあり、前半はテーマは重たいながらも、楽しく見ることができる。しかし、後半は本当に重い。シリアス。しかし、そんな深刻な時だからこそ、「かわいい緑」の存在が貴重だ。ともさかりえさん扮する緑は本当にかわいい。

時効があと一ヶ月に迫るころ、テレビで亀田伸枝の声が流れる。勘の良い緑は、その声を聞いて、丸ちゃんのお母さんが亀田伸枝であることが分かる。兄の礼太郎とみづほのことを、パーラーで話している緑と礼太郎。

緑「まさか、あの人、警察に売る気なの?」
礼太郎「売る気はないよ、だけど、罪は罪だろ?法律上の時効は成立しても、人間としての罪に時効はないんだよ」
緑「いいじゃない、もう十五年も経ってんのよ?今更捕まるなんて、かわいそ過ぎるじゃん」
礼太郎「殺された人は、かわいそうじゃないのかよ?」
緑「だったら、すぐに捕まえてあげたらよかったのよ。十五年前に」
礼太郎「でかい声出すなよ!いいか、いかなる理由があっても、人が生きる権利を人が奪うことは、あってはいけないことじゃないのか?ま……あと、一ヶ月あるなら、彼女と会って話してみるよ」
緑「(遮り)ダメ!二人で会うのなんか、絶対ダメ!
礼太郎「何で?」
緑「だって、あの人、人殺しよ!
礼太郎「(へッ)……?」

大石静「アフリカの夜」第9話より

緑は、マイルールを大切にするタイプで。だから、みづほのことを警察から守ろうとする。それなのに、礼太郎がみづほと二人で会うことは「だって、あの人、人殺しよ!」と否定する。コロッと違うこと言っているのに、なぜか筋は通っている、それが緑だ。

わざわざ福井県警捜査本部に電話する緑。以下、緑と本部長のカットバック。

緑「亀田伸枝なんて人は、もう居ないわ」
本部長「えっ!?それは、自殺したとか、殺されたとか、そういうことですか?」
緑「とにかく、この世に、もうそんな人は存在しないわ。一ヶ月もしたら事件さえもなくなってしまうのよ。人は変化するし、いつかは消えて無くなるわ
本部長「いたずらかぁ!警察なめたらあかんぞ」
緑「市民を威嚇しないでください!あなただって、いつかは消えてなくなるのよ。だから、もう、こんな事件で命すり減らすのはよしたら?ごきげんよう
話中音。
本部長「なんなんや、この女は……?」
と、受話器を置く。
捜査員たち、本部長の顔を凝視している。
本部長「はよ、仕事せえ!」
緑「(絵日記を書きながら)福井県警のおじさん、きっとこんな顔」
絵日記の絵、本部長とよく似ている。
緑「ミステリアス度まるでなし

大石静「アフリカの夜」第9話より

「人は変化するし、いつかは消えて無くなる」「あなただって、いつかは消えてなくなるの」なんて、急に哲学的なことを言い出す。普段は飄々としているのに、緑の思考は深い。

「市民を威嚇しないでください!」という言い方は、お得意の子どもっぽい天真爛漫口調でかわいい。緑の魅力は、子供っぽさと、哲学者が合わさった人物像。

緑は絵日記で、みづほのことを「ミステリアス度マキシマム」と評価している。それと対比するのが、福井県警本部長「ミステリアス度まるでなし」。マキシマムとまるでなしって……おもしろい。

八重子がみづほに首を絞められたり、みづほの指紋があやしいと思っている近所のクリーニング屋から取られたりと、かなりシリアスなシーンが続く9話。そんな中、緑がいることが観ている人の救いになる。


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