「アフリカの夜」㉓戦慄!みづほの豹変

ドラマ「アフリカの夜」。大石静さんが脚本を書かれ、23年前に放映されたドラマだ。

このドラマは、23年間私を支え、励まし、ずっと心に残っている。仕事を辞めてできた時間を、このドラマの何が私を惹きつけるのか考えようと思い、NOTEに書き記している。

このドラマを語る上で、絶対にはずせないのが、第9話冒頭のみづほと八重子の対峙シーンだ。小説家の柚木麻子さんは、このシーンを観るためにFODに加入してると座談会で言っておられたようだ。その価値があるシーン。

八重子の部屋でみづほと二人。
八重子は、みづほが、殺人犯亀田伸枝と気付いてしまっている。みづほも、八重子の様子から気付かれたと…そんな微妙な関係。

みづほ「礼ちゃんの映画だったんだこれ……」
八重子、机の下の亀田伸枝の記事を取ろうと手を伸ばす。
八重子「……」
あと一歩のところで、みづほ、バサッと亀田伸枝の記事を手にして。
みづほ「(まじまじと記事を見て)……何なの、これ?」
八重子「……!」

大石静「アフリカの夜」第9話より

みづほが突然部屋に来たものだから、隠しそびれた記事が一枚、テーブルの下にある。この状況がドキドキする。

みづほ「今、アタシに隠れて、コレ拾おうとしたよね?」
八重子「ええ……でも隠れてなんか……」
みづほ「あ、そう……」
八重子「あなたがこの映画で見た夜を忘れられなかったのは、自分の心の夜のせいだったんですね?
みづほ、テレビのスイッチを切り、伸枝の記事を見る。
みづほ「……」
八重子「……」
みづほが見ているアイロン
八重子「……」

大石静「アフリカの夜」第9話より

礼太郎監督作品の映画「アフリカの夜」。実は、みづほもこの映画を観ていた。ずっと心に引っかかっていた映画と再会する。

八重子は「亀田伸枝だったんですね?」の代わりに「あなたがこの映画で見た夜を忘れられなかったのは、自分の心の夜のせいだったんですね?」と言う。この台詞がとてもいい。

そして、小道具としてアイロン登場。亀田伸枝はアイロンで夫を撲殺したのだ。それを、八重子も知っているから、アイロンを見ているみづほは恐怖なのだ。

ここから、玄関へ逃げる八重子。しかし、みづほに追い込まれて、壁にへたってしまう。

みづほ「アンタ……アタシがアンタを殺すとでも思ったの……?」
八重子「(頭を振る)」
みづほ「アタシはそういう人間だと思ってんの?」
八重子「いいえ……」
みづほ「そりゃそうよ。だってアタシは(伸枝の記事を八重子に突きつけ)こういう人間よ!けどさ……見逃して!」
八重子「……!」
みづほ「(土下座し)あと一ヶ月なの、あと一ヶ月なの、杉立!(八重子にすがりつき)杉立、アンタあたしのこと好きよね?好きでしょ?だからアタシのこと探してくれたんでしょ?カゴだって探してくれたよね、杉立……」
八重子「はい……」
みづほ「六月二十四日……それまで目つむって、お願い……」

大石静「アフリカの夜」第9話より

ジャイアンがのび太に、心の友だろ?漫画よこせ!っていうのと同じ。怖い。

夫が酒乱だったこと、だれも助けてくれなかったこと、時効を迎えたら唯一の理解者のお母ちゃんに会いに行きたいこと、15年の逃亡の辛さ…そんなことを吐露するみづほ。話を聞いている八重子の、恐れているような、みづほを改心させようとするような、それでも理解しようとしているような表情がとてもいい。

そして、みづほの豹変……

八重子「……でも……前に言ってくれたじゃないですか?いつでも、どんな人でもやり直すことができるって。罪を償ってから、やり直すことも、できるんじゃないですか!」
みづほ「(八重子の首を絞める)わはッ……!」
八重子「チョッ……!!!」
みづほ「アンタに何が分かるってのよ!
八重子「ヤメ……!!!」
みづほ「(手を離す)……!」
八重子「(崩れ落ちる)……!」
みづほ「(土下座し)ごめんなさい、ごめんなさい、違うの、違うの」
八重子「……!!!!!」
みづほ「ごめんなさい、そういうんじゃないの。アタシあんたに感謝してんの、すごく……だって、だってね……どっか昔のアタシに似てんだわ、もたもたしてるところが……」
八重子「(怯えて震える)……」
みづほ「……かわいいな、と思ったよ。アタシみたいなもんに頼ってくれてさ……」
八重子「……」
みづほ「泣かないで……」
八重子「……」
みづほ「警察に売らないで……」
八重子「……」
みづほ「お願いだから、お願い、お願い、お願します、杉立、お願いします、お願い、お願い、お願い……」
八重子「……」
みづほ「(顔色を変え)てなことだったら、ドラマチックなんだけどね
八重子「……!?」
みづほ「ふふふ、あはは、アタシは亀田伸枝じゃないわよ。今の話信じた……」
八重子「だって……」
みづほ「有香ちゃんより、女優の才能あったりしてね、アタシ」

大石静「アフリカの夜」第9話より

パワフルで、周りの人に生きる希望を与えてきたみづほ。それでも、やっぱりみづほは亀田伸枝だったんだ、人を殺した人なんだと分かる瞬間。
2人だけで12分を魅了する、室井滋さんと鈴木京香さんの圧巻の演技。みづほの首を絞めようとする瞬間の顔は、まさに般若だ。


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