千切りノック
2年弱ほど、夫の実家で同居していた。
義両親は高齢ではあるが義母は元気な人で働いたり趣味に動いたりしており、食事に関しては私にほぼ任せられた。買い物は私がメインで、たまに義母が少し買い足してくる感じだった。
完全同居だったので、台所は完全共有である。義母の台所という意識はどうしてもあるので、話をよく聞き意向に沿うよう使い、食の好みも年代も違うしなるべく取り入れていこうと頑張った。まあ頑張りすぎて私が潰れて同居は解消したのだけれど。
『キャベツがいいわよ。毎食キャベツの千切りでもいいくらいよ』
最初に聞いた時は、ああ、好きなんですね、とにこにこ頷いていた。キャベツは生でも漬物でも加熱してもいけるし、基本的に家計の味方だし。まあキャベツ好き過ぎて困ることもそうそうないよね、なるべくキャベツの千切りをメニューに入れていこう、そう思っていた。
そんなある日、野菜室の中に使いかけのキャベツがある状態で、スーパーにお買い得キャベツを見つけた。よしよしキャベツキャベツ。義母の期待に安くお応え出来る良い買い物をした!と先入れ先出し出来るよう野菜室にしまう。先のキャベツから食べましょうねと夕飯の支度をする私に、帰宅した義母が安かったのよとキャベツを差し出す。あらお義母さん、キャベツかぶっちゃいましたね!安かったしね!と2人で笑う。
キャベツ消費メニューを検索したり、千切りをたくさんしたり、割と頭がキャベツな感じになっていた。
翌日に義母が再びキャベツを持ち帰った。また安かったのよ、と少しこちらの顔色を伺うようにしながらも確固たるキャベツ信仰の心を崩さぬ勢いで、2個。
お義母さん、一般家庭にキャベツ4個も5個も一気に要らなくないですか?キャベツ信者ですか!?という言葉はオブラートのパッケージごと周りにいくつも貼り付けてゴミ箱へ放り込み、野菜室に入りますかねぇ、これ先のやつから急いで食べないとですねぇ、と心を千切りにしながら春キャベツの柔らかさの笑顔で幾重にも包んだロールキャベツな言葉をやんわりと盛り付けた。
野菜室はキャベツ室に改名。
その夜はキャベタリアンドリーム。
翌日からは追い込みキャベツ、千切って千切って、千切りノック!うちはトンカツ屋か!!な境地にも達した。少しキャベツのことが嫌いになりかけた。そう、私本当は千切り面倒くさいと思ってる。でも食べるのは好きだから。千切りのことは嫌いでもキャベツのことは嫌いにならないでください!と自分に言い聞かせ続けた。
念のため言っておくと、同居の解消は良好な関係が完全に崩れ去る前に決めたので、今でも表面上普通の関係を築き続けているが、こういうちょっとした感覚のズレをどう擦り合わせていくのかが同居というものの肝なのではないかと思っている。私は擦り合わせられなかったけれど。
アイスは1日2個まで!みたいなノリで、キャベツは1個プラス使いかけ4分の1まで!と決めて、今は千切りも楽しみながら平穏なキャベツライフを送っている。