モンテッソーリ教育と平和
私は人間というものは本来、破壊的、暴力的な性質を持つ生き物だと考えていました。
「だからこの世界から戦争がなくならない」
そう思っていました。
そうしたネガティブな性質を抑えるために、親や教師といった大人が子どもを教育していくこと、環境を整えてあげることが必要であると考えていました。
しかし、マリア・モンテッソーリの考えは、これとは異なりました。
成長段階で正常な道をたどることができれば、心は穏やかになり、他者に貢献しようする
これは正常化(Normalization)と表現される状態です。つまり人間は本来、穏やかで優しい生き物だということになります。
モンテッソーリ教育を学んだことで覆されたイメージは数知れず…
なかでも平和に対する考え方に関しては、一番驚き、そして感銘を受けたことかもしれません。
1937年、つまり、まだ第二次世界大戦が始まる前の時点で、マリア・モンテッソーリすでにこう述べているのです。
"education is the best weapon for peace"
教育は平和を実現するための最大の武器になる
今回は、マリア・モンテッソーリと教育そして平和について、昨年受講したモンテッソーリアシスタントコースで書いたレポートの内容を中心にまとめに挑戦してみたいと思います。
ここで紹介する言葉は1930年代に行われたスピーチが中心ですが、今の状況にも当てはまるような気がしています。
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注)私は教育者ではありません。親という立場で、モンテッソーリ教育の理論について学んだ内容を書きます。この記事の内容は実際に現場で教えていらっしゃる先生方から見ると現実的ではないかもしれません。一般的な日本の教育という観点から見ると少し変わった内容、場合によっては不快に思われる表現が出てくるかもしれません。昨今、先生方が置かれている労働環境の大変さは耳にしております。日々尽力していらっしゃる先生方には敬意しかありません。ですから、ここに教師の方々を否定する意図は全くありません。こうした考え方もあるという程度にご理解いただければ幸いです。
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学校とは社会を学ぶ場所
いきなりエッヂの効いた表現となります。ご容赦ください。
“To segregate by age is one of the cruelest and most inhuman things one can do”
年齢で区切ることは最も残酷で非人間的なことである
とマリア・モンテッソーリは述べています。
なぜならば、こうした区切り方は競争心や敵対心を生み、人によっては劣等感を抱いてしまうからです。
モンテッソーリの幼稚園などにお子さんを通わせていらっしゃる方はご存じかと思いますが、モンテッソーリ教育では、縦割りでクラスが編成されています。
例えば、幼稚園であれば、1つのクラスの中に年少、年中、年長さんがそれぞれいます。小学校に上がると、1-3年生がlower elementary、4-6年生がupper elemenataryとして1つのクラスを構成します。(これはアメリカで息子が通う学校の例です。小学校課程のクラス編成は学校によって異なるようです。)
こうした縦割りのクラスを採用する目的は異なる年齢の子どもたちが互いに助け合い、尊敬しあうことです。子どもたちがこれから出ていく社会というのは、異なる年齢、性別、そして人種が共存する社会です。そこで人々は互いに助けあっていかなれけばいけません。学校とはこうした社会について学ぶ場であるべきという考えがこの背景にはあります。
学年の違う子どもたちが一つの教室で学ぶことで、学年が下の子は上の子に頼ることができます。上の子は下の子を助けてあげることができます。困った時には誰かに頼る、何か自分ができることがあれば助けてあげる、これはまさに一般社会にも通じるものがあるのではないでしょうか。
大人が抱く、子どもに対する誤解
マリア・モンテッソーリは大人が子どもに対して抱く偏見について述べています。
子どもには環境を丸ごと吸収する力("absorbent mind")があります。0歳から6歳の子どもは感覚を通して物事を学びます。時に子どもが取る行動(何度も同じことを繰り返すなど)は無意味に思えることもありますが、実は人格を形成するうえで非常に大切な行動であることばかりなのです。
にもかかわらず大人は、これは意味がない、子どもにこんなことはできない、これは子どもがやるべきことではない、という思い込みから発達のために必要な行動を邪魔してしまうことがあります。
赤ちゃんや子どもが人間になるために必要な本能に従い行動しているとき、その行動が邪魔されてしまうと、その子はストレスを感じます。場合によっては精神的な発達までも歪めてしまうことがあります。
しかし、これは言い換えれば、大人が子どもを尊重し、その自立したいという本能を信じて適切にサポートすれば、子どもは潜在能力を発揮することができるということにもなります。
こうした環境で子どもが成長していけば、他者に対して良い方向にエネルギーを使うことができるのです。
愛ってなんだろう?
愛情も心の発達に重要な要素の一つです。
"the loving child who feels himself loved has a dynamic character."
慈愛に溢れ、自らも愛されていると感じている子どもは生き生きとしている
とマリア・モンテッソーリは述べています。
ここで愛するという定義を整理しておきます。愛するというのは、甘やかすことではありません。子どもに何でも自由にさせたり、やりたいことを何でもやらせてあげることではなく、自立に向けた内なる欲求が満たされるような環境を準備してあげることです。
例えば、先ほど一見無意味に見える行動として例に挙げた同じことを何度も繰り返す行為(敏感期として知られる行動の一部に当たります。)、これを邪魔されずに集中できる環境があれば、子どもの心は満たされ、それが精神的な発達、心の安定につながります。
世界平和は実現可能?
この記事は”Education and Peace”という本を主に参考にして書いています。
この本を読むまで、私が平和や教育という言葉から連想するものは、歴史を学んだり、過去に人間が起こした過ちを振り返ることだと思っていました。
もちろんそれも大切なことだとは思うのですが、マリア・モンテッソーリが教育と平和を語る時、それは、単なる知識の獲得ではなく、もっと内面的な部分、人間、特に子ども発達に目を向けている点が非常に新鮮でした。
マリア・モンテッソーリによれば平和はむしろ人間の本質に基づくものです。
競争ではなく、協力しあうものとして社会を認識し、
発達に合った、潜在能力が発揮される機会を与えられ、
周囲の大人に愛されていると感じることができれば
子どもたちは社会に貢献する人間に育っていきます。そしてそれこそが平和へとつながっていくのです。
そのために私たち大人ができることは、豊かな心を育む環境を整えてあげることです。
初めに紹介しました通り、教育は世界を平和にするために重要な役割を果たします。そして教育とはただ知識を詰め込むことではなく、人間が本来持つ自立への欲求を満たしてあげることです。
マリア・モンテッソーリは単に夢や希望を語っているわけでありません。激動の時代を生きる中で様々な国の子どもたちを観察し、地域や人種の枠を越えて共通する、人類の普遍的な特徴をいくつも発見しています。その中で、人間が本来あるべき状態を保つことができれば、互いに支え合っていくことができるという確信を持ったのです。
人間本来の姿が実は慈愛に満ち溢れたものであるとすれば、その本来の姿が表れるような環境を整えることができれば、世界平和も夢ではないのかもしれない、そう考えることもできるのではないでしょうか。
私なりの考え
残念ながらまだまだ社会は競争ありき、学力偏重の傾向があると思います。渡米前はもっと自由でおおらかな国だと思っていましたが、アメリカの方がある意味では日本よりもその傾向が強いのかもしれないと思うこともあります。
モンテッソーリ教育の究極の目的は平和と理解しています。ですが、日本であれ、アメリカであれアカデミックな部分だけを見てモンテッソーリ教育を選ばれる親御さんにお会いする機会があり、少しだけ不安に思うことがあります。
モンテッソーリは「子どもの発達状態を無視して、感覚教具やお仕事をさせることは無意味であり、有害である」と述べています。
例えば数の概念を感覚的に学ぶことができるgolden beadsという教具があります。初めマリア・モンテッソーリはこれを小学生の年頃の子どもたちに使わせてみようと思っていましが、予想に反して興味を示したのは幼稚園の年頃の子どもだったそうです。
幼稚園の年頃の子が4桁の数を学ぶという部分だけにフォーカスしてしまうと早期教育と勘違いされてしまうのかもしれませんが、これは子どもの発達段階における特徴を利用しているのであり、子どもが負担なく吸収できる時期に適切なものを与えているということだそうです。
この部分を混同して、なんでもかんでも早い段階で学ばせればよいと考えてしまうとお子さんの心の発達にも影響がでてしまう気がしています。
先にも述べましたがモンテッソーリ教育が目指しているのは平和だと思っています。
心穏やかに、他者への思いやりを持ち、社会に貢献できる子に育つ環境を整えてあげること、それこそがモンテッソーリ教育であると私は理解しています。
参考文献:
Montessori, Maria. Disarmament in Education. AMI Communications, 1965,4,
Montessori, Maria. The Absorbent Mind. Amsterdam, Montessori-Pierson Publishing Company, 2007.
Montessori, Maria. Education and Peace. Amsterdam, Montessori-Pierson Publishing Company, 2007.
お知らせ色々
◎目標額達成おめでとうございます!
あべようこさんが挑戦された日本にモンテッソーリの小学校をつくるためのクラウドファンディングが目標額を達成されたようです。私も応援させていただきました。
まだ日本ではあまり知られていないモンテッソーリの小学校課程について知ることができるマガジンはこちらです。昨日、購読者交流会にも参加させていただきました♪
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