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Onlineで日本語を教える|#22 (後編)上級レッスン何してますか? 「上級=教えるのが難しい」は幻想かもしれない

 こんにちは!オンラインで日本語を教えているこゆきと申します。
 今日初めて見つけてくださった方、いつも見てくださる方、本当にありがとうございます。

 さて、今日は前回の記事『Onlineで日本語を教える|#21 上級レッスン何してますか? 「上級=教えるのが難しい」は幻想かもしれない(前編)』に続き、後編をお届けしたいと思います。


 前回の記事では、上級レッスンの実例として「上級レッスン Case #1 (仕事で使う日本語)」をご紹介しました。上級者向けの日本語レッスンについて、いったい何をしているのか、と思っている方も多いのではと思ったからです。ただ、Case #1は限定的なニーズに対して自作教材を使った例なので、ご参考にならないケースもあるかもしれないと思いました。

 そこで今日は、上級者(あるいは中級者)からよくいただくリクエストに応えるパターンを2つご紹介したいと思います。すでに日本語を流暢に話せる方が、いったい何をどうやって勉強するんだろう、とご興味のある方や、圧倒的多数である入門・初級者へのレッスンが多く、上級者レッスンへのイメージが湧かないという方に、ちょっとしたご参考になるといいなと思います。そんなレッスンもあるんだな、という温かい目で見ていただければと思います。
 それではどうぞ最後までご覧ください!


上級レッスン Case #2(フリートーク)

上級者が会話レッスンに求めるものとは?


 自分の興味のあるテーマについて自由に話したいというニーズは根強く、これは上級者に限ったことではありません。入門に近いレベルであっても、「会話」「フリートーク」の形態を望む方は多いです。おしゃべりのほうが楽しい、テキストを使って根気強く知識を積み上げていくのはいかにも勉強といった感じで楽しめない、と感じる方は多くいらっしゃいます。


 ただ実際のところ、ほとんど語彙を知らない状態では会話らしい会話にはなりません。これは日本語で何ていうの?それは〜って言うんですよ、と教えてもらうやりとりに終始することになります。もう少しレベルが上がってきても、言葉に詰まったらどう言えばいいか教えてもらう、というようなレッスンのやり方が多いかもしれません。
 まだまだ不足している語彙を補足してもらい、会話を継続させるためのサポートを得ながらおしゃべりする、というものです。

 しかし、上級者の場合、フリートークに期待するものは、単純に「語彙」を紹介してほしい、会話の継続を助けて欲しいということにとどまりません。そもそもみなさんはすでに流暢にお話が楽しめるレベルで、語彙を知らない、という理由で完全に言葉が詰まってしまうこともなく、会話を続けるためにネイティブに配慮してもらう必要もないくらいなのです。

 それでは一体、上級者の方はフリートークのレッスンに何を求めているのでしょうか。私の知っている範囲にとどまりますが、その目的は2つあるように思います。

 まずひとつめは、やはり本当に純粋な?おしゃべりがしたい、というものです。話すだけならなんの苦労もしないレベルの上級者さんは、その環境によって高い日本語力の維持が難しいケースがあります。たとえば日本国外に住んでいて、日常的に日本語を使う機会がない、という場合です。もしレッスンがなければ日本語を口から出すことはないだろう、という環境にいる方が、せっかく覚えた日本語を維持したい、という目的で、気軽なおしゃべりを目的にフリートークのレッスンを受けたいと希望されます。

 もうひとつは、スキルとしての日本語会話力の向上を目指すものです。これは私の経験の範囲ですが、「表現力を高めたい」というリクエストをよくお聞きします。基本的な語彙は当然のこと、豊富な語彙力をすでにお持ちの皆さんが、さらに上を目指して求めることは、単に言いたいことを言えるという状態を超える、ということです。言いたいことを言う、という目的はすでに達成しているので、もっと表現力を豊かにしたい、もっと説得力を高めたい、もっとネイティブの言語感覚を知りたい、もっと聞き手の感情に配慮して話したい、という「もっと先」のスキルを目指して練習したいという方がたくさんいらっしゃいます。

会話しながら表現力を高めたい


 たとえば、表現力を高めたい、というご希望に対してやっていることのひとつは、類似・関連表現を紹介することです。会話をしながら、学習者さんがあることを1つの方法で言ったら他の表現も紹介する、という感じです。

 話しながらしっくりこないな、と感じて他に言い方はありませんか、と聞かれることもあれば、〜という言葉を使った表現があったと思うけどなんでしょうか、というようなうろ覚えの表現を確認するご質問をいただくこともあります。また、そのようなご質問がない場合でも、類似表現・関連表現・対義語・慣用句・ことわざ、などをお話をお聞きしながらメモでご紹介します。複数の表現をご紹介した場合は、使い分けについてご質問をいただくこともあります。(会話レッスンについては過去記事でもふれていますので、お時間があればぜひご覧ください)

 メモはGoogleドキュメントで作成し、レッスン中は画面共有しています。共同編集ができる状態になっていますが、レッスン中はメモの心配をせず話すことに集中していて大丈夫ですよ、というのが私のレッスンのおすすめポイント☺️なので、学習者さんがレッスン中に書き込んだりすることはあまりありません。

 たとえば、仕事の話をしている時に、学習者さんが「経験が長い社員は努力をしません」(手厳しいっ💦)という表現を使ったとします。意味はもちろんわかりますが、他にも表現があるよ、ということで「向上心がない」「学ぶ意欲がない」「現状に満足する(してしまう)」などをメモでご紹介します。特に会話を止めたりはせず、学習者さんは気になればリピートしたり、意味がわからなければ質問したりされます。しっくりくるものを選んでもらっても、その場では無視してもらっても、どちらでも構わないと思っています。

 話が移り変わっていくので、メモは大急ぎで書く必要があるし、複数の表現を咄嗟に連想できないこともありますが、これを知っているならこれも、という貪欲でおせっかいなご提案(笑)を繰り返すと、少しずつでも表現力を高めていけるのでは、と思っています。どれほどの上級者であっても、紹介した表現を全部知っていて、使いこなせる、という可能性は低く、何らかの発見や気づきを得ることはできます。(どこまで貪欲に紹介するかによりますが)

 もちろん、表現力を高めることにコミットした建設的な練習方法は他にもたくさんありますが、おしゃべりを楽しみたい、という側面も満足させるには、今のところはそれなりに良い方法の一つではと考えています。
 特に、語彙が豊富であってもコロケーションに対する知識が不足している場合には有効ではないかと思います。たとえば、「精度」という言葉を知っていて使いたいけど「精度が強い」となってしまった場合、「精度が高い(低い)」と使うことをご紹介します。また、「飢えを」と聞くとネイティブは「しのぐ」を想像すると思いますが、これも「飢えを…避ける?と言いますか?」と迷いながら聞いてくださった時に、よく使われる組み合わせを紹介します。

 なお、上級の方にはご自分で調べる方法として、使いやすいweb辞書などをご紹介することがあります。また、一般公開されているコーパスも、コロケーションや動詞と助詞の組み合わせを知るために便利なので、ご自分で使えるように使い方をご説明することもあります。

 問題点は、私自身の語彙力と言葉の知識に大きく依存することで、単純に私が知らなければご提案から漏れる可能性がある、という点です。もちろん、必要に応じてレッスン後に辞書で調べてメモを追記するなど、その場の瞬発力みたいなものだけでご提案することはしないようにしていますが、ものすごく集中力を要求されるので、注意散漫なタイプの私はまぁまぁ疲れます😅 

エッセイを使ったフリートークレッスン

 これは、学習者さんからのリクエストで最近始めたレッスンなのですが、ご本人が選んだエッセイを使い、そこに出てくる表現や暗喩などについて話す、というパターンもあります。
 web上のニュース記事などを使うのと違う点は、ご本人が文体を気に入っている作家さんのエッセイを選んでいるため飽きにくい、ということがあります。また、ニュースなどでは客観性を保つために、感情や個人的な考えを示す表現が回避されやすいですが、随筆・エッセイでは、主観を表す表現に多く触れることができるため、普段の会話や映画などの感想を話すような場面で習った表現を試すことができます。
 個人的にもう1点付け加えるとすれば、web上の文章全てというわけではないものの、ネットニュースや記事には校正が不十分に感じられるものがあり(プロではないのにごめんなさい…)表現や文章構成にひっかかりを感じることがあるのですが、プロの作家さんが書いた出版物にはそのような問題はありません。

 最初、このレッスンの希望をお聞きした時、著作権の問題で片方だけが持っている本を画面共有して使うことはできないのでどうしようかと思ったのですが、結局私も学習者さんと同じものをKindleで購入することにしました。文庫で出版されているものなので、一冊800円弱くらいでした。

 このレッスンをしているのは、もともと日本語で漫画を読むのが大好き、という超上級者さんで、会話の中でも高い表現力を発揮できる方です。エッセイで使われる文章に潜む皮肉やネイティブが無意識に連想するものなどについて話してみると、それまで想像力で補って誤解していたことや、言葉へのイメージの違いなど、たくさんの発見がありました。
 ご本人いわく、ネイティブのようになりたいわけではないから、知らない言葉があることや、理解できないことがあるのは問題ではない、ただ自分が知らないことに気づく必要がある、とのことでした。

 この方とは、一緒に読んで意味の理解を確認したり、また新しい(ご本人が興味を持った)表現は、あとでその部分を目隠ししたものを見ながら思い出して使えるかどうか、というようなアクティビティ要素のある練習もしています。また、文章に込められた皮肉やくすりと笑わせる部分について、なぜおもしろいのか、言葉で説明する(めちゃくちゃ難しいです😅)というのも、時々やっています。

あいづちや聞き手への配慮について

 また、あいづちやリアクションで使う言葉なども、上級の方ほど固定されてしまって同じ言葉の繰り返しになることがあるので、バリエーションをお伝えすることもあります。これは癖でもあり、すぐにはどうにもならないのですが、話す時は丁寧なのに相槌だけいつも「そっかそっかー」になってしまう場合など(過去に習っていた先生や、ネイティブのお友達からうつったのかもしれません)全体的な運用力、ご本人の年齢や立場に対してバランスが良くないものはお伝えするようにしています。

 また、これも、ただ言いたいことを言う、から抜け出すための一つでもありますが、聞き手に配慮した話し方についてご提案をすることがあります。

 突然話がそれて申し訳ないのですが…私はかなり前、副業でヨガのインストラクターをしていた時期がありました。グループレッスンでは、誰もがわかる言葉で動きを説明する必要があります。意味がわからないと、顔をあげてインストラクターや周りの人のポーズを見て確認しなければならず、そうするといったん作ったポーズを崩さなくてはいけなくなります。集中力を削ぐことにつながるため、やっているほうはとってもストレスになります。そして、これと同じくらいストレスになるのは、否定的な言葉で説明されること、だと言われています。
 たとえば、〜してはいけません、とか、〜しないで〜しましょう、のような否定形をつかった表現などがそれにあたります。
 体を伸ばす動きをしている時に、伸びを制限する動きを避けて欲しいとします。たとえば体側(脇腹)のストレッチをする場合だと、上半身が正面を向いているほうが、床に向かってうつ伏せ気味になってしまうよりも、脇腹のストレッチがしやすくなります。この時、「下を向かないで」と言うよりも「胸を正面に向かって広げましょう」と伝えたほうが、前向きにやろうという気持ちになるのだそうです。言われてみれば私は確かにそうです。動きのたびに、〜しないで、と言われるよりも、〜しましょう、の方が気分がいいです。
 これと同じようなことが、普段の会話でもあると思います。会社の中など、少し気を遣う間柄での会話なら特にそうかもしれません。単純なところでは、悪い、と言わずに、良くない、と言うようなことです。もっといえば、良くない、には「あまり」とか「〜と思います」とか、さらに意味の鋭さを和らげる言葉をつけることもあります。
 入門レベルのテキストなどでも、自分が嫌いなものについて話す表現として「〜はちょっと…」というのが紹介されていますが、これもただ「きらいです」と言うよりもやわらかく相手に伝えることが目的で紹介しているものです。実際の使用頻度や、使ったからといって必ずしも良い印象を与えることができるとは限らない難しさがありますが、知っておく必要のある知識の一つです。
 意図せず、ややもすればダイレクトな表現を使ってしまうことで「稚拙さ」や「思慮の浅さ」といった、ご本人にとってマイナスとなる、いわれのない印象を与えてしまうなら、それは避けたいところです。先述の「努力をしない」を「現状に満足してしまう」と言うのも、似た観点だと言えます。

(ここでは、ノンネイティブの日本語にそのような印象がある場合、ネイティブがそれを寛容に受け止めればよいのでは、という受け手の問題を意識的に無視していますが、これは流暢であればあるほど、言葉の選択による含意が意図的かどうかの判断が聞き手のネイティブにとっても難しい、という問題もあるので、話す側にも防御が必要なのかもしれないと個人的には考えています)

上級レッスン Case #3(敬語トレーニング)

よく使うテキスト

 初級を終えて、実践的に日本語を使うようになれば、上級者でなくても敬語の知識は必要です。私のレッスンを受けてくださる学習者さんたちに限って言えば、かなり高いレベルで敬語を理解し、使える人が多い印象ですが、それでも復習したい、という要望はとても多いです。

 テキストをつかう場合、私がよくご紹介するのはこちらのテキストです。

また、テキストとして使用したことはないのですが、自作教材を整備した時にお世話になったのはこちらのテキストです。

 基礎的なところからひとつずつ練習するには『外国人のための日本語敬語の使い方』のほうがおすすめです。たとえば、「お〜になる」とか「〜れる・られる」で表す敬語を、形の作り方からひとつずつ学んで積み重ねていくようなイメージです。
 『新にほんご敬語トレーニング』のほうは、第一課で、それらをまとめて5〜6個くらい一気にエクササイズとしてとりあげている、という感じです。敬語の基礎がまったくわからない状態だと、少し難しいかもしれません。

 『新にほんご敬語トレーニング』の使用に適しているレベルについて、過去の使用例を2つご紹介します。

 会話が比較的スムーズな独学ベースの方のケースです。
 JLPTは未受験ですが、ほとんど聞き返すことなく、会話のキャッチボールが可能です。文章の組み立ては少し不完全な部分がありますが、パートナーが日本の方、ということもあり、日常的に日本語を使っている方でした。日本在住歴は10年を超えます。
 ご本人が他の先生にお薦めされてすでにお持ちだったこともあり、このテキストで練習したいとリクエストがありました。しかし、残念ながら第1課のエクササイズが難しすぎる、という結果になりました。
 この方は独学で比較的カジュアルな会話を身につけていらっしゃったこともあり、敬語の形そのものに慣れていらっしゃらなかったことが原因ではなかったかと思っています。そのため、この方とは自作教材で復習してからテキストのダイアログやエクササイズを活用する、という方法に変更しました。

 学校などで初級のテキストを最後まで学習したことがある場合は、『新にほんご敬語トレーニング』をスムーズに使用できるのではないかと思います。  たとえば、学校に行っていたのは10年以上前だという方のケースでは、仕事で日本語を使うので敬語を復習したいとリクエストをいただきました。
 学校に行っていた時にJLPT N2に合格したものの、N1には不合格となってしまい、そのまま受験もされていませんでした。会話では、敬語(召し上がる、〜される、など)を使うこともできましたが、尊敬語・謙譲語の混乱などが見られ、ビジネスで使うのは不安だという状況でした。
 この方の場合、ブランクがあったもののしっかりした基礎があったことで、敬語の文法を思い出すのも早く、テキストのレベルはちょうど良かったとおっしゃっていました。なお、その後JLPT N1を再受験し、見事合格されました。敬語の問題も出題されますので、テキストで知識を整理できたのも良かったかもしれません。

自作教材について


 そもそも自作教材を作ったのは、敬語練習のリクエストが非常に多いことと、テキストを導入せずに手軽に復習したい、というニーズに応えるためでした。

 復習を希望する多くの上級者の方は、文法としてきちんと学習されたことがある方が多いため「尊敬語」「謙譲語」などの文法用語や、ウチソトの概念などもよくご存知です。しかし、それがかえって話す時の障害になっている場合もあります。
 頭の中で「尊敬語だから…」「えっと、おっしゃるは、尊敬、あれ謙譲語だっけ?」などと理屈で考えているので、なかなか口から出てこないということが起こるようです。さらに、尊敬語を使うのは相手が自分より上の時で、えっっと…、と関係も思い浮かべて判断したりしていることもあります。とっさに口から出てこないことに困っているため、練習目的は「会話で使うこと」になり、理論の復習は不要であるケースが多いです。

必要なのは「誰の動作か」を認識すること


 敬語は、同じ種類のものを続けて練習するほうが頭が整理しやすい、というのはご想像通りです。また、多くの場合、その動作主は誰か?について混乱していることがあるので、尊敬語か謙譲語か、とか、相手より自分を低くするから、とかではなくて、「誰の動作か」「自分かそうでないか」に着目して練習するほうが、混乱が少ないのではないかと考えています。

 そこで、上記の『外国人のための日本語敬語の使い方』やその他の資料を参考に、敬語をいくつかに分類し、自作教材を整備しました。
 「誰の動作か」「自分かそうでないか」をはっきり区別するため、相手の動作を示す敬語はまとめて練習し、次に自分の動作ばかりを練習します。最後に相手から自分に対して敬語を使われたら、それに対して自分の動作を表す敬語で応える、というような練習もします。

 このレッスンでは、普段使う言葉を反射的に敬語に置き換える、というような単純な反復練習もします。上級者の方は、「です・ます」などの丁寧形であればすでに文章が作れる状態だからです。

 実際は、かなり上級の方でも、混乱したまま覚えていたりすると「言う・おっしゃる・申し上げる」が頭の中でごちゃごちゃになってしまっています。さんざん考えた挙句、(私は)おっしゃる、と言ってしまったりしますが、練習では◯◯さんがおっしゃる、というように敢えて動作主を省略しない文章で繰り返し口に出すように促しています。そのあとで(私が)申し上げる場面を練習します。
 常に、「誰が?」を意識しながら話すようにすると、(私は)おっしゃる、に違和感を感じるようになってくるようです。

 敬語を説明する時によく使われる言葉に、へりくだる、というものがあります。このような状況や概念は、英語などで説明は可能ですが、当然ながら言葉が違えばそれが指すものは同一ではありません。また、相手を立てる、というのも同じで、そもそもその必要性や状況が認識できないと、「立てるとは何か?」の理解は困難かもしれません。

 外国語として日本語を学ぶ人にとって、敬語の難しさは、状況や相手によって使う動詞やその形を変えなくてはいけない、という言葉の問題だけでなく、人との関係とその認識の方法が、これまで自分が持っていた概念と全く異なる、という点にあるのではないかと思います。そもそも、へりくだる、(相手を)立てる、という日本語を説明すること自体、とても難しいのではないでしょうか。それこそ、時代の変化につれて、敬語の形も変わりつつある中、現代の若い世代にはすでにへりくだる、などの概念が理解し難いものになっている可能性もあります。日本語学習者にとっても同様で、へりくだるの代わりに他の言葉で説明したとしても、先生側が期待するような形で伝わっているかどうかはわかりません。

 さらに、これらの言葉で説明しても、敬語の適切な選択は難しいです。へりくだるから申し上げる、というのだ、とか、相手を立てるからおっしゃるというのだ、というわけではないし、これでは言葉の区別はできません。
 結局のところ、自分かそうでないか、自分の動作で使う言葉は相手の動作には使わない(その逆も然り)を覚えておくしかないのではないか、と思うのです。

 なお、練習項目はこんな感じです。

準備編では、ウチソト・役職名や家族の言い方について確認します
#10からあとは、それまでに復習した言葉を使い
「おそれいりますが」「あいにく」などを付け加えて聞き手に配慮した話し方をする練習をします

 こちらは練習問題です。「お〜になる」を練習しているところです。ひっかけ問題として、すでに練習を済ませた「ご覧になる」が混ざっています。

「この」を「こちら」に変えて、動詞も敬語に変えて言ってもらいます。
最終的には画面共有を止めて「画面を読まないで敬語で言える」ように繰り返します。
書く練習はしていません。

こちらは、「お〜Vする・いたす」の形で、自分が行う動作を表す文章をまとめて練習するページです。

初めのうちは敬語に変えるべき部分に下線がついていますが
練習が進むと何も印がつかなくなります
余裕のある方には「クッション言葉」もつけて練習してもらいます


 これらの練習が終わったら、それぞれの環境に合わせた練習に切り替えています。お勤め(予定)の業界に合わせたフレーズや場面を想定した練習、面接の練習に進むことが多いです。

 たとえば、ホテルで勤務中の方とは、お客様からの質問に答えたり、対応できないことを説明したりするのが難しいとのご相談があったため、わざと?説明が難しい場面などを設定して実際に話してもらう、という練習もしました。練習に使ったスライドの一部はこちらです。

この他に、ご希望を叶えるためには有料サービスが必要だと説明する、車で来る方へ電話で駐車場を案内する、騒いでいる人に声をかける、などの「ちょっとイヤな」(笑)設定があります

まとめ というより雑感

 具体的なレッスンの内容を全部洗いざらいご紹介する、というのがちょっと難しくて、バラバラとしたものになってしまい、申し訳ございません。かなり個人的な状況に基づいてカスタマイズされた内容がほとんどなので、どうしても全部を詳らかにご紹介することができませんでした。

 テキストを最大限活用して、効果的な上級レッスンをされている先生方もたくさんいらっしゃると思いますが、私の場合はほぼテキストを使わないカスタマイズレッスンです。自分自身の準備の負担が大きすぎると続かないし、それは結果的に学習者さんにとっても良くないので、教材を準備する際は、汎用性が低い場合はできるだけ時間をかけすぎない、ということにしています。みんながある程度まで同じことをする入門・初級レッスンと違い、上級レッスンについてはフリートークを除き、まったく準備をしないで臨む、ということは現実的ではありません。レッスンフィー=時間給、というわけではないので、効率の良い準備は永遠の課題、といってもいいくらいなのですが、レッスンの付加価値を高めるためにはある程度の準備は避けて通れません。

 上級者の方は、前編にも書いた通り、自分の得手不得手や学習上の好き嫌いをよくご存知です。そのために、ややもすれば頑固に思える反応をする方もいらっしゃるかもしれません。ただ、ひとつの(あるいは他にも複数の)言語を、それだけでじゅうぶんコミュニケーションできるほどにマスターした方からは学ぶべきことがたくさんあります。
 実際に私は、語学学習の秘訣や、ふだんやっていることなどについて教えていただくことがあります。向学のために、というよりも、他の学習者さんのヒントになることがないかな、と思うからです。ぜひ秘訣を教えてほしい、と正直に伝えてお聞きすると、たいてい惜しみなく教えてくださいます。時々、目から鱗、というものもありますが、多くの場合は本当に「やるべきことをやっているだけ」ということが多いです。
 たとえば、毎日かならず数分でも日本語を聞く、とか、覚えたい言葉は何度も口に出して覚える、とか、日記を書いてChatGPTに添削をしてもらう、とか、ごくシンプルなやり方で、奇をてらった方法ではないことがほとんどです。それでも、それができないから、または、継続できないから、言語学習が行き詰まったままであるという人が多いのかもしれません。恥ずかしいことに、私もそのひとりです。そんなわけで、語学学習の先輩である上級者の方とのレッスンは、いろいろな点で学ばせてもらうことが多いなと感じます。さらに、上級者の方とは特にフェアな関係を築きやすく、お互いに刺激を与え合える関係になれることが多いです。
 これからも、さまざまリクエストにその都度慌てふためくのだと思いますが、上級者さんとのレッスンを楽しんでいきたいと思います。

 長くなりましたが最後まで読んでくださって、ありがとうございます!
今これから始める、または今も迷いながら進んでいるみなさんと、小さなつながりが持てると嬉しいです。ご経験豊富な先生方におかれましては、どうか温かい目で見守ってくださると幸いです。

 それでは、また🫡
過去記事はマガジンにまとめました📚


その他、つれづれ遊びですので、ご興味があればぜひご覧いただけると嬉しいです。


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