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Onlineで日本語を教える|#21 上級レッスン何してますか? 「上級=教えるのが難しい」は幻想かもしれない(前編)

 こんにちは!オンラインで日本語を教えているこゆきと申します。
 今日初めて見つけてくださった方、いつも見てくださる方、本当にありがとうございます。

 さて、今日は上級者へのレッスンについて書いてみたいと思います。
 今のところ、私のレッスンを受けてくださる方のうち、半数以上が上級者です。
 この仕事を始めた数年前に複数のプラットフォームに登録し、最初に学習者さんがたくさん集まってくださったプラットフォームが台湾発祥(現在は香港に本社があります)でした。日本語学習者が多い台湾の方は、みなさんすでに上級レベルで、仕事で使いたい、とか、もっと表現力を高めたい、などという高いレベルを目指して学習する方が多い印象でした。そのため、このプラットフォームでは入門からスタートした方には数人しかお会いしておらず、実に80%を超える方が上級の学習者さんでした。

 その後、他のプラットフォームでも受講くださる方が増えてきましたが、ここでも上級者によくお目にかかります。台湾の方とのレッスン経験から、上級者へのレッスン経験が豊富です、というアピールを私がプロフィールに書いたから😅なのかもしれませんが、欧米の上級者の方もみなさんこちらがびっくりするような高度な表現や語彙を駆使し、豊かな表現力を見せてくださいます。

 正直に言って、実施回数が多いからといってそれが得意だ、というわけではありません。しかし、上級者向けのレッスンをせざるを得ない状況が続いたことで、私自身もそのレベルの方へのアプローチやレッスン手法について考える機会を多く得ました。今も毎日が試行錯誤、手探りは続いていますが、オンラインレッスンを受講する上級者像とニーズ、レッスンの一例をご紹介できればと思います。
 それではぜひ、ご覧ください!


オンラインレッスンで出会う上級者さん


 マンツーマンのオンラインレッスンは、自由に内容をカスタマイズできることが大きな強みです。他の受講者に気を使うことなく先生を独り占めできるのは気楽だし、学習効率も高いです。自分以外に学習者がいれば、自分と人を比べて劣等感を感じることもあるし、周りを全然気にしない方がいるとイライラしたりしてしまうこともあります😅
 仕事に関するこみ入った話なども、きっとできないでしょう。
 仕事で使う日本語を学びたい上級者の方からは、ネイティブと1対1で効率よく勉強したいという要望が多いと感じます。

 また、私がこれまでオンラインレッスンで出会った上級者の方は、自律的な勉強をしてきた、という方が多く、自分に足りないものや勉強したいことが比較的明確な方が多いと感じます。目標が曖昧な方でも、好きな練習方法や苦手なトピックなど、いわゆる「好き嫌い」「得手不得手」をはっきり把握しているため、それらにフォーカスできるマンツーマンレッスンが必要なのだと思います。そもそも非常にハイレベルなので同じレベルや進行度合いで一緒に学習できる身近な仲間も少ないでしょうし、普段から独学を習慣にしているので、ひとりで自分のペースで勉強するのが当たり前なのかもしれません。

 日本語能力試験(JLPT)でN1またはN2に合格済みの方も多いです。この試験は会話力を直接問う試験がないので、合格レベルと会話レベルに乖離があることが指摘されることがあります。たしかにそのようなケースも見受けられるものの、私がレッスンで出会う上級者の方はかなり高いレベルで日本語を運用可能です。講師側がゆっくり話したり、この言葉は言い換えて易しく言おう、などのコントロールをする必要が全くない方もいらっしゃいます。慣用句なども適切かつ効果的に用いることができ、「仏の顔も三度まで」とか「言い得て妙」(!)など、聞き終わってから思わず「え!?」と言ってしまいそうになる言葉がぽんぽん飛び出し、会話の流れも非常にスムーズです。

 もちろんJLPTなどの試験を未受験の方もいらっしゃいますが、このような方々も会話レベルは高く、いったいこれ以上どうしたいのか、と思ってしまいそうになるケースもあります。
 ただ、自分自身の経験から考えても、語学はいくらでも上には上があるもの、です。他人から上手だと褒められても自分で納得していなければ嬉しくない、という状況がありますが、学んでいるからこそ自分の不足にも気づいてしまうものなのかもしれません。

 レッスンを受けてくださる上級者の方の目指すレベルは非常に高く、また多岐に渡っています。熱心に勉強なさるからこそ、講師への要求が強い方もいらっしゃるかもしれません。
 ただ、個人的な感覚では、このような学習者側からの要求や日本語レベルの高さのせいだけで上級者向けのレッスンが難しいわけではないのでは、と思っています。私も最初の頃、上級者にレッスンするのは難しい、と思い込んでいました。また実際、やってみるとさまざまな困難に直面しました。

 まず最初に、なぜ上級者へのレッスンが難しいと思う(または誤解する?)のか、整理してみたいと思います。

ところで上級レッスンは本当に難しいのか?

上級者は少ない?

 実はこの記事を書くにあたって、日本語学習者における上級者の割合、というのを調べようと思ったんです。日本語学習に限らず、感覚的にも、言語学習者は入門・初級レベルにある人が最も多い、という強い傾向があるのですが、それを明確に示す日本語学習者に関するデータというのは見つかりませんでした(私の探し方が悪いのかもしれないし、調べる必要もない、ということかもしれません💦)。日本の在留外国人を対象にした自己評価によるレベル別人数データはありましたが、試験などの評価を受けない人も多いので、実態を調査することはできないのかもしれません。

 なお余談ですが、マンツーマンオンラインレッスンで日本語を学ぶ方の全貌も、まとまったデータとして把握することは難しいです。たとえば、文部科学省や国際交流基金などから、日本語学習者に関するデータが公表されていますが、教育機関などで学ぶ人や在留外国人などについて調べたものであり、私がプラットフォーム経由でやっているようなオンラインレッスンで学ぶ人は調査対象に含まれていません。
 ただ、全体の傾向として、上級になればまるほどその母数は減る、ということは一般的に言えるだろうと思います。

 では、上級者へのレッスンは、なぜ難しいと感じるのでしょうか。

情報もテキストも少ない

 ひとつには、教え方に関する情報が少ない、ということが言えます。
これはその母数の少なさに由来するものだと思いますが、入門・初級の方への教授法や教案、テキストを見つけることは比較的容易です。多くの方が発信する情報があり、テキストも日本で出版されたものに限らずたくさん存在します。情報が多すぎてむしろ取捨選択が難しいかもしれませんが、教材をシェアしてくださっている先生方もいらっしゃるので、具体的なレッスン内容をイメージしやすいことがあります。

 一方、上級者向けのテキストは圧倒的に数が少ないです。これもデータに基づくものではありませんが、需要と供給のバランスを考えれば当然のことかと思われます。また、上級者になると、整備された教材でなくても、生教材と言われるもの、たとえばニュース記事や、ネイティブ向けの媒体なども教材として利用することができるので、テキストに対する需要そのものが下がるのかもしれません。 

多様なニーズへの「高い解像度」が必要

 ほかに上級者向けレッスンを困難にすることとして、多様なニーズが挙げられます。入門・初級のうちは、その学習目的がどうであれ、一定程度のところまでは同じ道を歩むようなところがあると思います。基本的な知識を身につける間は、みんな同じところを通るわけです。
 しかし、上級者ともなると、それぞれに日本語が必要な、あるいは勉強したい理由や状況が異なり、それに合わせた実践的な学習を求める人が多くなります。仕事で使う方でも働く環境によって必要な日本語力は変わるので、会議に出席するときの日本語を勉強したい、とか、日本人上司または日本人の部下と面談するときに日本語を使いたい、とか、限定的な場面を想定する方もいれば、敬語を勉強したい、同僚と雑談を楽しみたい、という大きな目標を持った方もいらっしゃいます。
 この場合、教える側が会社や組織で働く時に必要とされる日本語について、明確なイメージを持っていることが求められます。仕事について、いわゆる「解像度」が低い状態だと、レッスンプランの提案が困難になるかもしれません。自分自身に経験のない分野のお仕事をしている方をサポートするのはどうしても難しく感じるものだと思います。

教える相手は言語学習の成功者

 また、上級者は、いわば言語学習の成功者であり、ご自分の中で学習に関するビリーフやポリシーを明確に持っている方が多いように感じます。講師に求めるレベルも高いことがあり、ある分野に対する専門知識であったり、教える経験に対しての期待値も高いかもしれません。学習方法についても好みがはっきりしていることが多く、やりたくないことや自分に向いていない練習方法を把握されているので、おすすめしたことを拒まれたりすることもあるかもしれません(これはレベルに限らず個人の性格でそうなることもあるかもしれないですね…)。

 これらのことから、上級者に教える時にどうしていいかわからない、という状況に陥りやすいのかもしれません。

難しいのは上級だからじゃないのかも

 しかし、上級でなければ、たとえば、情報が豊富な入門・初級なら教えるのは簡単だ、という短絡的なことではない、ということは誰もがご存知の通りです。実際、私は入門・初級者に教える時には全く違った難しさを感じます。たとえば、英語などの共通言語・媒介語が必要になります。日本語だけを使って欲しいと希望する方やそのような教授法もありますが、現実的には自分がわかる言語を講師に使用して欲しいというニーズは非常に高いです。
 まったく日本語を知らない人に対し、一から日本語というものについて英語などで説明する、というのは難しいことです。最初から複雑な解説をするわけではないですが、受講者が安心できる程度に媒介語を操ることができるというのは、簡単なことではありません。

 しかし、上級者であれば、文法やニュアンスの説明も日本語で可能です。自分の第一言語を使ってほしいという方も中にはいらっしゃいますが、学習言語で質問をして説明を聞くことも勉強だと思っていらっしゃるので、私の場合もレッスンの中では(ほぼ)100%日本語だけ、というケースが多いです。

 また、入門・初級では「文字の壁」もあります。書いて説明する時も、日本語だけ書いても伝わらないので、アルファベットを添えたり、英語などを一緒に書いたりする必要がありますが、もちろんこれも上級者に対しては不要です。

 次に、個人的な感覚かもしれませんが、文法についても、実は初級者に対しての説明の方が難しいと思っています。上級者は、他の表現と比べたり、すでに知っている日本語を使って説明したりすることができますが、初級の方にはそうもいきません。それになにより、初級で学習する文法項目は意外にも非常に広く、会話で駆使できるレベルにはならないものを含め、実に多くの文法知識が求められます。テキストを使う場合はもちろんですが、テキストに完全に沿わず、会話ベースで知りたいことだけをかいつまんで?勉強する場合(例えば短期間で旅行のための日本語会話を勉強したい入門者など)も、できるだけ絞り込もうとしても、それなりの情報が必要になります。習い始めに挫折が多いのは、このようなところにも原因があるのかもしれない、と思います。また、このような挫折を食い止めるための努力も、入門・初級者に対しては必要になります。自分の教え方のせいで日本語を諦めてしまった、なんてことになったら、悲しみが大きすぎます😭

 一方、上級者はこのような壁をすでに乗り越えた方々ですから、少々の挫折やスランプで諦めたりしません。ブランクを経て重い腰を上げて再び勉強をする、という方も多いですが、ゆるゆるとでも継続されるので、実感できないほどのスピードだとしても、やっぱりちゃんと上達を目指して学習されます。そんなわけで、モチベーションに対するサポートは、初級者に対してのほうが難しいこともあるのでは、と思います。

上級レッスン あるあるケースと困る点

 では、そんな上級者の方は一般的にどのようなレッスンを受けているのでしょうか。
 テキストを使わないものでは、たとえば、ニュースなどの記事を使ったレッスンがあります。ネイティブが読むものを使い、語彙や表現、話題についても幅広く触れて学ぶことが期待できます。また、意見を言ったり相手と議論を深める、といった練習も可能です。観念的・抽象的なテーマについて深く掘り下げることもできるかもしれません。

 実際にこのようなレッスンを希望する方がいて、私もやったことがあります。楽しんでもらえることもありますが、これを実りあるレッスンとして昇華?させることは、やはり非常に難しいと感じます。理由は簡単で、講師側の高い教養と深い知識が不可欠だから、です。ここでの知識というのは教えるための知識はもちろんのこと、そのテーマについて、扱われる表現について、議論を促すやりとりをリードする手法について、テーマに対するあらゆる意見とその捉え方、など多岐に渡ります。私は、恥ずかしながら、こんな上等なスキルは持ち合わせていません。学習者さんのご意見を、へぇそうなんだ!と学ばせてもらう立場としてお聞きするなら可能ですが、一緒に議論を深め、意見を交わすのは簡単なことではないし、学習者さんの思想や背景にじゅうぶんな配慮ができるとも限りません。だから上級レッスンは難しいのだ、と言われたらこの点についてはそうだと言わざるを得ません。こみいった話ができるからこその難しさは、やはりあります。

 余談ですが、◯◯についてどう思いますか?と聞かれた時、私は、とすぐに持論を展開できる人はどのくらいいるでしょうか。それが偏った先入観や情報によって醸成されていないと自信を持って言えるでしょうか。バイアスはあって当然でそれだけが悪いわけではありませんが、それを認識できているかどうかは重要です。聞かれて初めて考える、というテーマもあるかもしれませんが、常に世の中で起きていることにアンテナを張っている人というのは、あらゆることに対し、根拠を持って自分の意見を表明できるもので、この点で、私は自分が勉強不足だなと痛感することが多いです。

 たとえば話題として、今起きている戦争に関する見方・見解、欧州の女性首長の存在が政治に与える影響、選挙などの際の結果と展望についての個人的な考え、日本の社会問題についての見解(日本のニュースでは注目されていないこともよくあります)など、通りいっぺんに表面的なことは言えても、個人の見解として論理的に話すのは難しいものが多くあります。ネイティブじゃないと言えないことを言ってくれるのではないか、と学習者さんが期待に満ちた眼差しでこちらを見ていたら…ますますハードルが上がります。

 上級者でこのようなレッスンを希望する方の中には、(私の交友関係の範囲では)出会えないような深い教養をお持ちの方も多く、高い水準での議論を期待する方もいらっしゃるので、それにお応えするには力不足を感じます。
 
 また、もちろんテキストを使った上級者向けレッスンもあります。数が少なく感じるとはいえ、上級者向けの優良なテキストは存在し、「手ぶら」で教えるのでは到底できない体系的なレッスンを提供するための大きな手がかりになります。
 しかし、非常に残念なことに、上級者の方の多様なニーズにばっちりハマるテキストを見つけるのは至難の技です。もちろん、初級の方でも同じことは起こります。ひとつのテキストにこだわらず、複数のテキストを使ったレッスンをすることはあるのですが、これはテキストの内容だけでなく「学び方」「アプローチ方法」の違いによるものだったりもするため、学ぶ項目自体は同じであることもあります。一方、上級者の場合は、あるテキストのある課は役に立ちそうだがそれ以外は内容としてご自身の状況に合わない、とか、ご本人のレベルが高すぎると、だいたい知ってる・書いてあることに新鮮味がない、などの理由でテキストの使用を嫌がるケースも出てきます。
 
 そんなわけで、結局はニーズに合わせてカスタマイズしたレッスン、が必要になります。他の方のレッスン内容は、なかなか詳しく知るチャンスがないので、それがわからないんだよ!、という方も多いかもしれません。
 そこで、ここからは実際のレッスン内容について、個人情報にはもちろん配慮し、できるだけ現実をご紹介したいと思います。

上級レッスン Case #1 (仕事で使う日本語)

 前述の通り、仕事で使う日本語、とひとくくりにするにはあまりにも多様なレッスンリクエストがあります。そのため今日は、「日本人との会議で何を言っているかわからない」というご相談を受けたケースについて、ご紹介します。

 この方は、数年前にJLPT N1に合格済みで、日本語は基礎からきちんと学校で勉強された、という方です。会話でも、やや聞き取りに苦労するものの、聞き取れなかった言葉を書いて紹介すると「あぁ!(知ってる)」という反応があることから、語彙は豊富にご存知であることがわかります。また文法・文型もよく勉強されているので、運用は難しいと思われるようなものも会話の中で実際に使うことができます。たとえば、「納期の変更を依頼されたら、対応せざるを得ません」などという文章を、会話でサラッと😳使えるくらいです。

 これほど運用力が高いのに、会議で何を言っているかわからない、という状況が何に起因するのか不思議になりますが、これはヒヤリングする中で少しずつわかってきました。
 私との会話でもそうですが、聞き返す言葉には「多義語」が多いことがわかりました。同音異義語は日本語では避けられませんが、この多義語も会話の中で理解することはとても難しいと思います。

 たとえば「つめる」と言われて「詰める」と聞き取ったとします。これが正しい場合でも、「荷物を詰める」「予定が詰まっている」まではご存知なのですが、「話を詰める」となると、わからなくなります。私は、そらそうだよね、これは難しいよね、と思います。しかし、日本での社会人経験があるネイティブの多くは、この意味が当たり前のようにわかるのではないでしょうか。どこかで習ったわけでもないですが、「会社ではなんかそういう言い方をするよね」というものがたくさんあると思います。
 もちろんこれらの用法も、辞書などで見つけることができますが、第一義ではありません。また、仕事中にわからなかった言葉をメモしておく、職場の人に聞く、というのも多忙な業務の合間ではとても困難なことです。そこで、わからないままになることが多くあるようです。

 この方とは当初、敬語がわからないせいだと思う、という自己申告があったため、敬語を集中的に練習するレッスンを行っていました。しかし、練習問題への正答率や反応の速さから、敬語への理解度が高いことは明らかでした。だとしたらいったい何が原因なんだろう、とずっと謎だったのですが、先述のような多義語への問題が気になるようになってきました。
 そこで、敬語レッスンに区切りがついた時、多義語の学習をお勧めしてみました。「知っていると思っているけど違う意味で使われる言葉」を勉強する、というプランです。
 知っていると思っている、というのがポイントで、学習者さんは聞き取れるし、実際に「その言葉を知っている」と思うのに、「なぜだか意味がわからない」という結果になることが問題です。また、聞き取れない言葉を紹介した際、実際にすでに知っているケースが多いことから、豊富な語彙の知識と音がセットになっていない可能性も高いと考えました。

 この方の場合、テキストの使用を好まれなかったので、考えた結果、自作教材を準備してしばらく試してみることにしました。
 手元にあるN1の語彙のテキストやビジネス日本語向けのテキストなどから、仕事の場面で使われそうな多義語をまとめ、ChatGPTの力も借りてまずは50個程度リストアップしました。それを1回のレッスンで5つずつ、意味を理解し、聞いてもわかる、という状態になるように練習する、という教材を用意しました。こう書くとすごく時間がかかっているように思えますが、リストアップに少し手間をかけたものの、毎回の準備はあまり多くありません。

 たとえば、「落とし込む」「洗い出す」「噛み砕く」などを取り上げます。多義語であると同時に複合動詞でもあり、これも理解に混乱を引き起こす理由のひとつになるようです。
 まず最初に目で見てもらって意味がわかりますか?と聞いてみると、5つのうち3つまたは4つを「知っています」とお答えになりますが、実際には代表的な意味だけを知っていることがほとんどです。
 「洗い出す」は、仕事の場面では「原因や問題を洗い出す」という形で使われますが、知っているとお答えになる場合は「洗う」「洗ってから出す」などのようなご理解だったりします。
 実際に職場で耳にした場合、文脈で理解できるかもしれませんが、業務指示や会議のまとめなどで使われたら、結局何をするんだろう、となってしまうかもしれません。しかも、ご本人としては「知っている」「聞き取れる」言葉なので、意味がわからないのがなぜだかわからない、状態になるようなのです。

 5つの言葉の意味や例文を理解してもらい、これらの言葉を使った短いダイアログの音声を聞く、というのがレッスンの流れです。ダイアログは、自分で作っていますが、架空の物語をテキトーに作るのは得意(ホラ吹きみたいですが、昔からお話を作るのが得意なんです💦)なので、これもあまり時間はかけていません。音読さんという読み上げソフトを使って、ダイアログから音声ファイルを作成しています。

最後は、ダイアログをベースにしたロールプレイや目隠しした文章を穴埋めしてもらうなどのアクティビティも行います。 途中で会話や質疑応答などをはさみ、50分レッスンで2〜3コマかけて、5つの語彙を学びます。

 ダイアログはたとえばこんな感じです。
 (太字部分は、意味を確認する言葉です)
 
佐藤さん:陳さん、会議お疲れ様でした。長かったですね。
     内容は記録しましたか?
 陳さん:はい、議事録に記録しました。
     少し手直ししたら報告メールを送ります。
佐藤さん:いいですね。ありがとう。
     すぐ取り掛かれそうなことはありますか?
 陳さん:えーと、はい。まず今日の会議で決まった進捗チェック方法は
     すぐに今使っているシートに落とし込みをして
     次回から実行できるようにしたいと思います。
佐藤さん:そうですね、それはすぐにできそうですね。
     議題に出た、納期遅れの問題はどうですか?
     すぐに課題の洗い出しはできそうですか?
 
 説明なしにダイアログを読んだり聞いたりしてもらうと、上級者さんなので文脈理解のレベルが高く、だいたい言っていることはわかります、となるのですが、さて、陳さんは何をするんでしょう?と聞くと、よくわかりません、というお答えになってしまいます。

 語彙の説明はこんな感じです。「ありそうな」例文を紹介します。

「詰める」の説明ページ。意味ごとに例文を用意します。
学習者さんによっては「〜と使えますか?」と積極的に例文作りをしてくれることもあります

 イラストはいらすとやさんが有名ですが、上級者向け・ビジネス向けの教材ではこちらにもお世話になっています。色調が落ち着いていて、仕事に関する素材も多く、使いやすいです。


 この学習者さんからは続けたいとのご希望をいただいたので、しばらく続けています。まだ長く継続していないので効果のほどは不明ですが、語彙力や表現力を高めるのに役立っていると思う、とのフィードバックをいただきました。もう少し続けてから、また学習者さんと効果を検証してみたいと思います。

 次回以降 
 上級レッスン Case #2(フリートーク)
 上級レッスン Case #3(敬語トレーニング)
についても、順次まとめてご紹介できればと思います。

まとめ

 今もレッスンを受けてくださっている上級者の方のひとりから、先生を探すときの条件をお聞きしたことがあります。その方の場合、絶対にネイティブ、を第一条件にしているそうです。ご本人いわく、自分の今のレベルになるとネイティブからしか教わることができないものがある、ネイティブだからこそわかる言葉のニュアンスや言葉の使い方が失礼かどうかの感覚を聞きたい、というのがその理由だそうです。
 また、その方の場合、会社員経験などの仕事をした経験があること、複数言語の学習歴があること(使用可能言語が複数あること)、も条件だと教えてくださいました。仕事の話は仕事をした経験のある人ならわかってもらえると思うし、言語学習の経験がある人なら悩みや難しさを理解してもらえると期待できる、とのことでした。
 もちろん、上級者の方のニーズは多岐に渡り、非常に多様なので、それぞれの先生の探し方は十人十色だと思います。仕事の経験や言語学習の経験は気にしない方もいらっしゃるはずです。
 
 SNSなどでは、オンラインレッスンを始めた先生が、経験が浅いことを気にしていらっしゃるのをよく見かけます。私も経験がもっと欲しい!ですし、見上げるとキリがありません。
 ただ、ネイティブである、ということが最大の強みであることは間違いありません。上級者に教えたことがない、経験が短い、仕事経験が少ない、などの不安要素があるかもしれませんが、上級者さんは「何をして欲しいか」教えてくださる存在でもあるので、あなたに教えてほしい、とリクエストが来た時は臆せずに挑戦してみると良いのかなと思います。

 長くなりましたが最後まで読んでくださって、ありがとうございます!
今これから始める、または今も迷いながら進んでいるみなさんと、小さなつながりが持てると嬉しいです。ご経験豊富な先生方におかれましては、どうか温かい目で見守ってくださると幸いです。

 それでは、また🫡
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