太ることは恐怖すべきこと?「ファットフォビア」を打ち砕くために必要なこと
「ファットフォビア」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 近年、体型に対する価値観について取り上げられることが増えてきましたが、理解がふわっとしたままの方も多いのではないでしょうか。実は、私もその一人でした。
今回は、悪しき価値観・ファットフォビアについてご紹介します。
ファットフォビアとは?
ファットフォビアとは日本語で「肥満恐怖症」とも訳され、肥満体型に対する恐怖や嫌悪を指す言葉です。
以前に比べると、ボディ・ポジティブ(ありのままの体型を愛する)という思想がかなり浸透してきました。とはいえ、やはりファットフォビアはまだまだ社会にしぶとく根付いていると感じます。
たとえば、友人に面と向かって「太った?」と聞く人や、SNS上で体型批判のコメントをするような人は、それほど多くないと思います。(いないとは到底いえない数ですが……)一方で、自分の体型に関しては太ることに抵抗があったり、痩せることに喜びを感じたりする人が圧倒的に多いのではないでしょうか。
かくいう私もダイエットをしているわけではありませんが、太ったと感じると危機感のようなものを抱いてしまいますし、痩せているとラッキー!という気持ちになります。これも立派なファットフォビアです。
後ほど言及しますが、こうした価値観の根底に根付いているファットフォビアが無意識の差別を生んでいるように感じます。
内面にまでおよぶファットフォビア
ファットフォビアは、外見的な美醜の価値観にとどまりません。身体の大きな人に対して、自己管理ができない怠惰な人というレッテルが貼られるケースも多いのだといいます。
いうまでもなく、体型が必ずしもその人の生活習慣、および努力値を表すものであるとは限りません。元の体質や生活環境、服用している薬や病歴など、痩せにくさ・太りにくさの度合いは、一人ひとり異なります。同じように摂生と運動を心がけていても、その体型には必ず差異が生まれます。
「心地いい体型」は人それぞれです。しかし「スリム」=「美しい」という価値観を植え付けられているために、さまざまな誘惑に耐えてまで皆がダイエットに精を出します。そして、「スリム」を達成した人を「成功者」として称賛し、「努力して痩せるのは素晴らしいことだ」と皆が信じ込んでいます。
このダイエット成功者に対する信仰がさらに、「ファット」=「怠惰」というイメージを植え付け、私たちは外見のみならず、内面的にもファットフォビアを抱くことになります。
しぶといファットフォビアから脱するには、ポジティブもネガティブも関係なく、ルッキズム(外見至上主義)を一つひとつ丁寧に排除していく必要がありそうです。
医療現場に存在する「体重バイアス」
さらにファットフォビアの魔の手は、医療現場にも及んでいるといいます。「体重バイアス」によって、「まずは痩せなさい」と言われるばかりで望んだ薬を処方してもらえなかったり、投げやりな診察によって正確な診断結果を得られなかったりするケースがあるのだそうです。医師でさえ、身体の大きな人の不調は肥満によるものだ、という偏見にとらわれていることに驚きます。
たしかに、メタボリックシンドロームのイメージからか「脂肪が多いと病気になりやすい」という理論には納得感もあります。しかし、実際のところ、体重と病気のリスクは完全に比例するものと言い切れないのだそうです。
SNS上の体型批判のコメントの中には「健康を心配して言ってるんです」と言う人がいます。または、中傷の意図がなくとも「ぽっちゃりかわいいけど、健康には気をつけてね!」といった偏見に基づいた「おせっかい」なコメントもしばしば見られます。
このように「健康」を絡めて体型について言及するのも、ファットフォビアが根底にあると考えられるでしょう。その人の健康状態は、体型だけで判断できるものではありません。
もちろん、身近な人を心配して声をかけたくなることもあると思います。そのときは、こうした偏見的な見方がふくまれないよう言葉には十分注意する必要があると感じます。(今回は”ファット”フォビアに限って話していますが、痩せ型の人を過剰に心配するのにも同様の危険を感じます)
無意識のファットフォビア
ダンサー・振付師・動画クリエイターとして活躍されている、ジェシカさんという方がいます。ジェシカさんのカラッとした陽気さとキレの良いダンスが好きでよく視聴しているのですが、彼女の動画にはたびたび体型に関するコメントがつきます。
「痩せろ」というあまりにも暴力的な言葉に対し、彼女は言葉を返すのでなく、軽やかで美しいダンスを披露することで見事なカウンターパンチを食らわせています。
こうした体型批判にあたる言葉を安易にコメントできてしまう人が世の中にごまんといる絶望にくらっときてしまいますが、ジェシカさんのこのしたたかさと、まさにボディポジティブな姿勢がとっても魅力的です。インフルエンサーとして、そしてひとりの女性として、体型を卑下しない生き方が素敵ですよね。
とはいえ、やはりコメント欄にはびこるファットフォビアの傾向には危機感を感じてしまいます。恐ろしいのは、直接的な批判的な言葉だけでなく肯定的なコメントにも無意識のファットフォビアが潜んでいるという点です。この投稿に対する「もう痩せてるやん」「ジェシカさんは元々痩せてます!」「糖尿病には気をつけてね」などのコメントには、「痩せている」=「美しい」「健康」といった偏見が根底に存在しています。
まさに以前に取り上げた、自覚なき差別「マイクロアグレッション」の一例ですね。私たちが気をつけるべきは、むしろこの無意識のファットフォビアではないかと思います。
まとめ
ファットフォビアとは、身体の大きな人に対して身体的、知的、健康的に劣っているとみなす偏見の一種でした。
社会的なファットフォビアを改善していくために必要なのは、「ファット」へのネガティブを排除するだけでは足りません。同時に「スリム」へのポジティブからも脱していかなければならないのです。
「痩せたの!」という友人には、「かわいくなったね」と言いたくなります。アイドルの美しいくびれには、どうにも憧れてしまいます。しかし、それは彼女たち固有の美しさです。体型のみに起因するものではありません。
すべての体型に美しさがあります。
そして、体型だけが私たちの美しさではありません。
長年ファットフォビアを植え付けられた私たちには、そこから完全に脱却することは難しいかもしれません。しかし、次の世代に悪しき価値観を引き継がないよう、無理にでも社会的な価値基準を変えていかなければならないと思います。自分に対しても、他者に対しても、すべての人のありのままの体型を愛していきたいと強く感じます。
明日は、ファットフォビアの話につながる「ボディニュートラル」の概念について、ファッションデザイナー・津野青嵐さんのエッセイにも絡めてご紹介していきたいと思います!
【参考】
COSMOPOLITAN「女性は体重が増えると収入が減る?「肥満恐怖症」が引き起こす悪影響」2023年9月24日発行
COSMOPOLITAN「誤診につながる可能性も…医療現場での「体重バイアス」の実態」2021年12月29日発行