見出し画像

私たちは毎日マイクロプラスチックを食べている!? その悪影響と各国の取り組みについて紹介

前回はマイクロプラスチック問題の第1回で、そもそもマイクロプラスチックとはなんなのか具体的な流出の原因について解説しました。

マイクロプラスチックは歯磨き粉や洗顔料など私たちの身近に多く潜んでいること、プラごみはポイ捨てに限らずさまざまな要因で川や海へ流れ込んでいることなどをご紹介しました。

本日は第2回ということで、そもそもマイクロプラスチックの何がよくないのかその悪影響について解説していきたいと思います。また、記事後半ではマイクロプラスチック削減のための各国の取り組みについてもご紹介します。

前回の記事は下記から読めます。


マイクロプラスチックって何が問題なの?

そもそも、マイクロプラスチックがこれほど問題視されているのはなぜなのでしょうか。その主な理由としては、環境破壊人体への悪影響の2つが挙げられます。

海洋汚染によって生態系が破壊される

マイクロプラスチックは自然界へ流れ出ると、分解されるまでに数百年以上がかかると考えられています。海に生きる生物たちがマイクロプラスチックをエサと間違えて食べてしまうと、消化できないために体内の器官が傷つけられ、そのまま死にいたるケースが多いのです。

さらに、マイクロプラスチックの表面には細かな凹凸があるため、有毒物質(重金属やダイオキシンなど)を吸着しやすいといわれています。プラスチックが消化されないまま排泄されたとしても、消化の過程でそれらの有毒物質を吸収してしまう可能性も高いのです。

実際に、東京農工大学が東京湾で釣ったカタクチイワシ64尾の体内を調べたところ、49尾からマイクロプラスチックが検出されたとの報告があります。(※1)これは全体のおよそ80%にのぼります。

当然、この結果はカタクチイワシに限ったものではないと考えられます。東京湾に棲む海洋生物の80%が、すでにマイクロプラスチックを摂取しているかもしれないのです。

マイクロプラスチックによる海洋汚染は、魚類やイルカやクジラなどの海に棲む乳動物をはじめ、海鳥、ウミガメなど多くの生物におよび、その一部は今まさに絶滅の危機に瀕しています。このまま生態系破壊が進めば、数十年後、私たちの食生活は大きく変容せざるを得ないかもしれません。


生物濃縮によって人体にも悪影響が?

現在、私たち人間は1週間にクレジットカード1枚分(約5g)のプラスチックを摂取していることを知っていますか? 私たちは生活のなかで無意識にプラスチックを排出しているのと同時に、無自覚にプラスチックを摂取しているのです。その原因とは、生物濃縮です。

生物濃縮とは、食物連鎖によって蓄積される有毒物質の濃度が高まっていくこと。海に流れ出た有害物質は小魚の体内に入り、それをエサとする大型魚の体内に入り、さらにそれを食す人間の体内に入ります。私たちが一匹の大型魚を食べるとき、そこには数百匹の小魚が摂取した有毒物質が含まれているかもしれないのです。

マイクロプラスチックが有毒物質を吸着しやすいのは、先ほどもご説明した通りです。もし体内からマイクロプラスチックが検出されなかった魚であっても、プラスチックそれ自体は排出されたものの有毒物質は蓄積されたまま、ということもあり得るのです。

実際、メダカを使った実験では、マイクロプラスチックより小さいナノプラスチックが、消化器官を通って循環器系へ移動し脳組織内に蓄積することが確認されています。(※2)

まだ人体に対する悪影響は、明確に示されていません。しかし、自然界で分解できず、人体でも消化吸収できないプラスチックが無害であるとは考えにくいでしょう。

週に5g摂取するプラスチックのうち、少しずつ私たちの体内にプラスチックは蓄積されているはずです。このまま生物濃縮が進めば、その悪影響が明らかになったときにはもう手遅れかもしれません。


世界各国のマイクロプラスチック規制は?

現在、海洋プラスチックごみの82%はアジア諸国から流れ出ているとされています。にも関わらず、世界中のプラスチック生産量はいまだ増え続けています。このままだと、2050年には海洋プラスチックごみの量が世界中の魚よりも多くなるという衝撃的な予測も発表されているのです。

これを食い止めるため、世界各国でマイクロプラスチック対策の法案が成立しています。各国、どういった取り組みをしているのでしょうか。


EU(欧州連合)

マイクロビーズ規制にいち早く乗り出したのは、オランダ・オーストリア・スウェーデン・ベルギーの4か国で、2014年に「化粧品のマイクロビーズを含むマイクロプラスチック使用を禁止する」といった共同声明を発表しました。

さらにEU全体としても、2023年10月からマイクロプラスチックを含む製品の販売が原則禁止となりました。人工芝、化粧品、洗剤、柔軟剤などその対象は幅広いものとなっています。

オランダ

オランダはマイクロビーズの本格的な規制に乗り出した最初の国といわれています。 2016年までに、マイクロビーズの流通・製造・販売を禁止しています。

フランス

フランスでは2018年1月、マイクロビーズを含む洗い流しの化粧品類の規制法案が施行されました。これによって、マイクロビーズを含む商品は市場に流通できなくなりました。

イギリス

イギリスもフランスと同様、2018年1月にマイクロビーズを含む洗い流しの化粧品類の規制法案が施行されています。また、衛生用品も規制対象となるため、マイクロビーズを吸収材として使用する紙おむつも販売禁止となりました。

アメリカ

アメリカでは、2015年12月「the Microbead-Free Waters Act of 2015」という法案が成立しています。米国全域においてマイクロビーズを含む洗い流しの化粧品類の製造・流通が禁止されました。

中国

中国は、2017年まで世界トップの海洋プラスチックごみの発生国でしたが、2020年末までに、発泡スチロール製食器や使い捨て綿棒の生産・販売を禁止しました。さらにマイクロビーズを含む日用品の製造も禁止され、2022年末までに販売禁止となりました。


このほか、オーストラリアでは2023年にマイクロビーズ使用禁止、ニュージーランドでは2018年にマイクロビーズを含む洗い流し化粧品類や洗剤の製造・販売を禁止、韓国では2017年に、台湾では2018年に、それぞれマイクロビーズの製造・流通が禁止となっています。

各国、さまざまな規制法案を打ち立てて、積極的にマイクロプラスチック対策を進めていることがわかります。一方、日本では明確なマイクロビーズの規制法案は設けられていません

2019年、環境省が「2020年までに洗い流しのスクラブ製品に含まれるマイクロビーズの削減を徹底する」と発表しましたが、20年に行われた調査によると、洗い流しのリンス・ボディケア用品・口腔ウォッシュなどの商品10,583件のうち、原料にポリエチレンを含むものが194件あったとのことです。

マイクロビーズという形で使用されているものはなかったものの、ポリエチレンもプラスチックには変わりありません。日本では、残念ながらこれらのマイクロプラスチック対策を企業努力にたよっているのが現状です。


まとめ

本日は、マイクロプラスチック問題の第2回ということで、マイクロプラスチックの悪影響と各国の取り組みについてご紹介しました。

日本は、プラスチックの生産量は世界第3位一人当たりのプラスチックごみ発生量は世界第2位となっています。もっとも本格的に規制に取り組まなければならない国のひとつであるはずですが、各国に比べると対策が遅れているといわざるを得ません。

しかし、国からの規制がなくとも企業単位でさまざまな対策が進められています。次回は、こうしたマイクロプラスチック対策に取り組んでいる企業についてご紹介します。また、記事の最後には、私たちが個人として取り組める対策をまとめていきます。

マイクロプラスチック問題はあまりにも規模が大きく、個人の努力では追いつかない面も多々あります。しかし、私たち一人ひとりの小さな努力の積み重ねで貢献できる側面もたしかに存在すると思います。

まずは知ることから始めてみませんか? 次回もぜひご一読いただけると嬉しいです!


【参考】
※1 東京農工大学 農学部 環境資源科学科「マイクロプラスチックって何だ?」高田秀重

※2 農林水産省「マイクロプラスチックおよび化学物質の影響

WWFジャパン「海洋プラスチック問題について」2018年10月26日発行

IEEI 国際環境経済研究所「中国で進むごみ分別改革とプラスチック規制(第三部)」2020年3月18日発行

SUSTAINABLE「私たちは1週間にクレジットカード1枚分もの プラスチックを食べてる ‐ 生物濃縮とは ‐」2022年1月7日発行

ELEMINIST「深刻化するマイクロプラスチック問題 各国の対策と日本企業の取り組み事例24選」2023年12月24日発行

ELEMINIST「海プラスチックごみ問題とは 海洋環境や生態系への影響と解決に向けた取り組み」2024年3月4日発行

Spaceship Earth「マイクロビーズの現状は?人体への影響や世界と日本の対策を紹介」2023年9月27日発行


いいなと思ったら応援しよう!