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「可視化」の落とし穴 ――ビジョンを形骸化させない工夫

こんにちは、コンテンツストラテジスト/コンテンツデザイナー 小山純です。

コミュニケーションの計画を立案し、施策を実行していく際、「うまくいかない」ことも多々あります。この「うまくいかなさ」には何が潜んでいるのか、どんな工夫がし得るのか、この記事では考えていきます。

パーパスやヴィジョン・ミッション・ヴァリューなど、姿勢や目標を言葉や視覚表現に落とし込む作業は、企業やプロジェクトの中で日常的に行われます。これらは、目指すあり方や目標を表現する重要な要素であり、組織の方向性を明確に示すものです。

しかし、こうした作業の過程にはいくつかの「落とし穴」があると、わたしは感じています。可視化が進む中で、文脈が失われ、結果として表現が曖昧になることがよくあるからです。

言葉や視覚表現が「丸くなる」現象

パーパスやヴィジョン・ミッション・ヴァリューを定義し、整える作業では、多様な意見や立場を吸収しながら一つの形にまとめることが求められます。しかし、その過程で、意図せず「角が取れてしまう」ことがあります。結果として、誰も反対しないし、多くの人が賛成する表現になったとしても、具体的に何をすべきかが曖昧になりがちです。

たとえば、「サステナブルな未来の実現」を掲げたパーパスがあったとしても、腑に落ちる、自分達のもの、という感覚が持てるものでなければなりません。「パーパスを体現するアクションってなんだろう?」「具体的にどうしたらいいんだろう?」「自分の業務とどんな関係が?」。社員の「自分ごと」化が遠い状況です。

さらに、このような曖昧さが「ビジョンが社内に浸透しない」「メディア間で発信のトーンがバラバラになる」「パーパスを定めたものの、定めっぱなしになる」といった現象を引き起こしている要因の一つだと考えています。

文脈を切断しないために、できることは

ビジョンやパーパスを定める際、リサーチや議論、アイディエーションなど、多くのステップを経て検討が行われます。その中には、「なぜこのパーパスが必要なのか?」という問題提起や、他社や市場との違い、世の中の潮流との関係性といった重要な考察が含まれています。しかし、その全てを記録し、残すことは難しいですし、受け手(他者)にとっては、受け取りきれない情報量です。

だからこそ、言葉や視覚表現として整える作業は必要…… なのですが、その際に気をつけたいのは、「文脈を切断しないこと」。具体的な判断基準としては、「その表現を説明できるかどうか」が重要です。パーパスやビジョンに込められた意味や背景を、誰もが理解できるように説明するためのストーリーを残すことが、文脈をつなぐカギとなります。

接続する「ストーリー」をつくる

文脈を切断しないためには、過程で得られたリサーチや仮説、方針策定の背景をストーリーとして残すことが、一つの工夫として効果的です。たとえば、リサーチは仮説を持って進めることが多く、その仮説とリサーチの結果がどのようにパーパスに反映されたかを簡潔にまとめることで、受け手が理解しやすくなります。

また、方針策定の際にも、シンプルで理解しやすい方針を立てることが求められますが、その方針に至った背景や理由を説明することで、納得感のある方針になります。パーパスやビジョンがキャッチーな言葉やデザインに落とし込まれていても、その背後にある意図や判断基準を説明できるようにしておくことが大切です。

例えば、30秒から1分程度で話せる簡潔なストーリーがあれば、それは説明する側にとっても、受け手にとっても理解しやすいでしょうか。こうしたストーリーが、文脈をつなぎ、パーパスやビジョンを形骸化させずに伝えるための重要な要素となるのでは、と考えています。

説明可能な状態を保つこと

重要なのは、どの段階でも「説明可能な状態」を保っておくことです。

リサーチや仮説、方針、パーパスやビジョンに至るまでのプロセスを簡潔なストーリーにまとめ、常にその背景を説明できる状態にしておくことで、文脈が切断されることを防ぎます。これにより、パーパスやビジョンはただのスローガンではなく、具体的な行動に結びつく指針として機能します。

まとめ

ブランディングやマーケティングといった企業のコミュニケーションにおいてはもちろん、日々の業務やプロジェクトの中で、こうした文脈をつなぎ続ける必要があります。リサーチや仮説、議論を経て得られた結論をストーリーとして残し、いつでも説明できる形にしておくことが、ビジョンやパーパスを現実の行動へと結びつけるための大きな助けとなります。

このように、ビジョンやパーパスを言語化・視覚化する際には、文脈をつなぎながら、具体的なアクションと関連づけていくことが重要です。「説明可能なストーリー」を持つことが、ビジョンを組織全体に浸透させ、行動へと結びつける、ひとつのカギとなることを整理してみました。

読んでいただき、ありがとうございました。

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