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サイダーガールと「思い出補正」

 少し前、はじめてnoteを使い、小説「Ten Years Ago 1985」を10回に分けて連載した(無料のマガジンにまとめましたので、ご興味があればお読みください)。400字詰め原稿用紙70枚のこの小説は、今から25年前、1995年に書いたものだ。連載が完結したところで、このことには一度触れた。

 若気の至りで書き殴ったので、読み返すと何ともつたなく、紙の原稿からnoteに打ち直す際、ところどころ手を入れた。オリジナルを執筆していた時点で、私はすでに社会人だったけど、主人公たちのように制服を着ていた頃の感覚を、まだうっすらと覚えていた。母校の生徒会室や教室、廊下、校庭の様子を思い出し、10代後半の自分や周囲の感じ方を記憶の底から引っ張り出す。そんな作業を繰り返しながら、作品を紡いでいった。

 今回、久しぶりに原稿を読み直してみて、形容詞や比喩の使い方が、今の自分とは異なることに気がついた。稚拙で冗長な表現が目立つものの、今よりずっと、高校生に近い感覚で書けているように感じる。あれから25年。今や、自分の中の「高校成分」みたいなものは、ほとんど枯渇してしまった。そりゃそうだ。この間、いろんな原稿を書いてきたけれど、「80年代の高校生の恋愛」なんて、以来、一度もテーマにしなかった。

 それで、困ってしまった。「高校成分」の体内含有量がまだ高かった頃に執筆した原稿を、枯れた今の自分が直すのだ。noteに投稿する以上、見知らぬ誰かに読んでもらえるかもしれない。作品が、あからさまな新旧のパッチワークに感じられたら、申し訳ない。というか、みっともない。

 さて、どうしよう。途方に暮れて、あてもなく、ネットで「高校」とか「青春」とか、そんな単語を検索した。1995年にはネットは普及しておらず、便利な時代になったなあ、としみじみ感じる。

 ほどなく「サイダーガール」というバンドを見つけた。結成は2014年。3年後にはメジャー進出も果たしている。YouTubeにたくさんPVがアップされていたので、片っ端から閲覧した。何曲かは耳に覚えがある。さらに調べると、すでにいくつもの映画やテレビとタイアップの実績があり、若い世代にとても人気のバンドなのだそうだ。すいません、私が知らないだけでした。

 おしゃれなポップロックのメロディーに、軽やかなボーカルがふわっと重なる。オフィシャルサイトには「変幻自在の炭酸系ロックバンド」とキャッチコピーが載っていた。炭酸系。そんなジャンルがあるのか、と思いつつ、なるほど、確かにしゅわしゅわ爽やかな楽曲だ。聴いていて、明るく晴れた気持ちになる。

 炭酸系以上に「へえ!」と感じたのは、PVにもオフィシャルサイトにも、メンバーの顔が載っていないことだった。演奏シーンがちらちら出てくるPVもあるけれど、顔が分からないようなアングルで撮られたり、加工が施されたりしている。代わって全面に露出しているのが、イメージキャラクターの「サイダーガール」だ。年に1回、代替わりするようで、2020年は女優でモデルの莉子(りこ)さんという方が5代目を務めている。現役女子高生で、過去のサイダーガールと同様、主に制服姿でPVに出演している。

 サイダーガールのPVはほぼすべて、歴代のイメージキャラクターが主人公の「青春の一コマ」で構成されている。恋人と自転車を押しながら帰路につく少女、晴れた日にプールで空高くホースを掲げる少女、ときおりコミカルなダンスを披露しながら商店街を歩く少女。どれもこれも、絵に描いたような「青春の一コマ」だ。PVからたっぷりと「高校成分」を補給して、古い小説に手を入れた。サイダーガールを見つけられなければ、手直しはずっと難航していたに違いない。バンドと美少女たちに、改めて感謝している。

 と、ここまで書いて、ふと思った。サイダーガールのPVは、どれもとてもよくできていて、青春時代をとっくに過ぎた私にとっても、センチメンタルでノスタルジックに響いた。でも、待てよ。現役高校生だったその昔、私は一度でも、PVに出てくるような場面に出くわしたことがあっただろうか?

 以前書いたように、美少女の生徒会長は、いた。ほかにも何人か、きれいな同級生や先輩後輩をあげられる。PVでは脇役だけど、シュッとした男子だって、実在した。

 とはいえ、PVで描かれるような、自転車やプールや商店街とセットになった少女(と少年)の美しい情景なんて、どんなに記憶をたぐり寄せてもよみがえらない。もちろん、自分が今で言う「リア充」とはほど遠い青春時代を送っていたのが一因だけど、当時のリアルな美少女たちも、PVそのままの「青春の一コマ」なんて、ほとんど経験していないんじゃないだろうか。

 少なくとも、あんな情景を見たことすらない私が、「PVで『高校成分』を補給しました」と口にするのは、なんだかとってもおこがましい。記憶にかなりきつめに「思い出補正」をかけたとしても、PVと私の実体験には、天と地ほどの違いがある。裏を返せば、そんな私ですら、高校時代に戻ったような感覚にさせてくれるPVとサイダーガールの楽曲は、それだけすごいということだ。

 動画でも音楽でも小説でも、青春時代をモチーフに創作するのであれば、私のような視聴者や読者にさえ、偽りだけど生々しい(感じのする)郷愁や感傷をもたらすほどの強度と完成度がなければ、駄目なのだろう。

 やれやれ。なんだか、自分の才能のなさに、改めて落ち込みそうだ。こういうときこそ、サイダーガールのPVで、元気をもらおう(以下、永遠にループします)。
https://www.youtube.com/watch?v=Lve4n8aMKaQ

#サイダーガール #生徒会 #TenYearsAgo #小説

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