書籍「世界史の中の産業革命」(2017年/R・C・アレン著)
なぜイギリスで産業革命が起きたのかという疑問に答えてくれる本です。
蒸気機関、紡績機械などが発明された産業革命は、1750年くらいから1850年くらいの100年間に、イギリスで起こりました。
なお、これはドイツの話になりますが、
産業革命直前の1750年に死んだバッハは馬車で移動していましたが、その100年後の産業革命終盤の1847年に死んだメンデルスゾーンは蒸気機関車で移動していました。
たった100年で、世の中は恐ろしいほど変わってしまったわけです。
そんな産業革命が「イギリスで」起きた原因について、教科書などは「農地の『囲い込み』で土地を失った農民が出たから」「他国に先駆けて議会制度ができたから」などと説明していますが、私としてはこれらの説明は昔からどうも釈然としませんでした。
そしてこの本も、「囲い込み」などの影響は極めて小さかったと述べています。
じゃあどうしてイギリスで起こったのかというと、この本は、その理由として次の2点を挙げているのです。
1 当時のイギリスは、労働者の賃金が高かったから(17世紀からの毛織物業と帝国主義的貿易の成功によるもの)。
2 1に加えて、当時のイギリスは、石炭がとても安かったから(地政学的幸運)。
すなわち、
1 労働者の賃金が高かったので、他国との競争力をつけるためには、機械化(蒸気機関などの導入)を進めて人件費の削減を図らざるを得なかった。
2 そうした状況の中で、国内に大規模な炭田があって石炭を安く入手することができたので、多額の資金をつぎ込んで研究開発して工場を作り、その燃料として大量の石炭を使い続けても、十分ペイした。
・・というわけで、これらの条件を満たした国が、たまたまイギリスだけだったというわけです。
考えてみると、確かに、
賃金が低くてすでに国際競争力が高い国(モノを安く輸出できる国)は、多額の資金をつぎ込んで労働力を削減するための研究開発しようとはしません。
また、仮にこれらの国で蒸気機関を開発して工場を作ったとしても、石炭が高かったら、燃料費が払えず赤字になってしまいます。
なお、他国で蒸気機関が導入されはじめたのは、機械が改良されて設置費用が安くなるとともに、燃費もよくなって使う石炭の量が減り、事業として十分ペイするようになってから(1800年以降)となります。
要するに原因は、「人件費を削減しないと潰れるという経済的事情」と「地政学的幸運」にあったわけで、よく考えたら身も蓋もない話です。
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