女優を目指したが為に (3)
最初に入った大学がニューヨーク市のクイーンズという所に位置するクイーンズカレッジだった。大学のキャンパスのロケーションがそのクイーンズ区の中でも限りなくロングアイランドの郊外地区に近いエリアだったという事で生徒の多くは郊外から通ってるどちらかと言うとコンサバ系のアメリカ人。
市内のクイーンズの中では丁度チャイニーズやコリアンタウンと言うアジア人コミュニティーと、その反対サイドはユダヤ人街と言う場所に面していた。
日本人は殆どいなかった。その理由は地下鉄からは微妙に遠い位置でバスや車がないとちょっと不便な場所だったから、多くの日本人留学生は大概マンハッタンかクイーンズでもかなりマンハッタンよりの学校を選んでいた。
私がクイーンズカレッジを選んだ理由は真逆で、私は車を持っていた。(超が100個つく程のオンボロ)。マンハッタンだと駐車スペースがないから郊外に近い場所を選んだのだ。
そこで一番最初のセメスターで取った Theatre 101 、大講堂で演劇の歴史とかの講義を受けるんだが、全くチンプンカンプンで最初の数ヶ月は困った。
その頃週1くらいでプライベート発音矯正レッスンなどを受けていたんだが、その先生が業界に詳しく、その当時ブロードウェイで上演していたお勧めの芝居を教えてくれたり、勉強の為に読んだ方が良いと思われる脚本を教えてくれた。
アメリカ演劇のクラシックで、ニールサイモン、ユージンオニール、アーサーミラー、テネシーウィリアムスなどもこの先生に教えてもらった。
それ以外にも大学ではアメリカ以外の路線で、チェーコフやイブセンなどを読んだ。
英語でそのレベルの本を読むのは大変だったし、クラスでグループごとにディスカッションとかも苦労した。そんな状態だったので最初のセメスターはアクティングクラスなんてのは恐れ多かったので避けていた。
アクティングクラスを取り始めたのはようやく第二セメスターあたりからだが
大学でのアクティングクラスは余り期待していないく、私は大学の外でクラスを取る事に決めていた。
その理由はニューヨークには ”メソードアクティング” 、かの有名なテクニックのパイオニアである ”リーストラスバーグ シアターインスティチュート”と言う有名校がユニオンスクエアにあったのだ。(今もある、はず)
その学校出身のハリウッド俳優と言えば、マーロンブランド、アルパチーノ、マリリンモンロー、ダスティホフマン、サリーフィールドやアレックボルドウィン、など挙げればきりがない。
あの当時のニューヨークでは本気で俳優になりたいならそこの行かないと、、と言う雰囲気があった。だから私も演技のクラスはそっちで取ってオーディションを受けたり出来る様に早くなりたいと願っていた。
その頃、私が演劇に興味があると言う話をするとある日本人女性を紹介された。
Hさんと言う京都出身の彼女は私よりはかなり年配で昔、日本で新劇の女優さんとして活躍していた人であるが、日系アメリカ人と結婚してニューヨークに嫁に来たのだ。ニューヨークでは子育てをしながらその演劇学校に通っていたそうで、年齢的にもアルパチーノとかが取っていたクラスにいたらしい、、、凄い。。。
メトロポリタン美術館がすぐそこに見えるくらいの5番街の素敵なアパートに暮らしていて何度も家に招いてもらった。
そこでメソードアクティングの本や、アメリカの戯曲集などが日本語訳の本などを沢山貸してもらった。日本語で読めるのは凄く有り難かった。
さて私が入学を希望しているリーストラスバーグ学校についての意見を伺うと彼女曰く、昔はいい先生が沢山いていい時代だったが、ここ数年は学校のクオリティが落ちていると聞いている、、と言う貴重な意見。そして昔教えていた講師達の多くはそこを辞めて独立したアクティングクラスを運営してるのでそっちに行った方が良いのではないかと進められた。リーストラスバーグというブランド力に惹かれるのは分かるが大切なのは本当に素晴らしい先生の元で勉強する事だと言う。
その意見に大賛成した私は彼女に紹介を受けてある一人の先生の学校に通う事になった。
”Elaine Aiken Actor's Conservatory" と称する所で場所はタイムズスクエアの裏側の8番街にあった。スタジオは古びたビルの4階にあり、小さなオフィスと大きめのスタジオが2つあり、そこでイレインという先生とパートナーのリリーが教えていた。
イレインはかなり年配の女性だった。最初に面接に行った時に私はとても緊張していた。 何か聞きたい事があるか? と言われたので自分の英語力が心配でクラスにちゃんとついて行けるか懸念している心中を伝えると、顔をぐーーっと私に近づけてゆっくりとはっきりとこう言った。
”The acting has nothing to do with language. Start this week."
本物の演技というのは英語力とは全く関係がない。早速今週から始めなさい。
という事で意気揚々と憧れのメソードアクティングのクラスに週2で通い始めたのだ。
1992年の夏。
続く