ファクトチェックという欺瞞
※この記事は「ファクトチェックという暴力」の続きです。
炎上、ツイ消し、再炎上
先月、能登半島地震の被災者によるSNS投稿がJFCのファクトチェック対象となり、「不正確」の判定を下されました。するとこの判定がネットで炎上。もちろん被災者ご本人も判定結果に異議を唱えています。
あろうことかJFCは、ファクトチェック記事の告知ツイートを自ら削除してしまったのです。これではますます不信感がつのります。
消されたツイートの「魚拓」を取っておられた方がいて、ファクトチェック内容についても的確な指摘をしています。
実はこの件に関してだけでなく、JFCは以前から資金の透明性や組織としての独立性、検証手法について疑問視されていました(文末の追記を参照のこと)。そういった背景もあって、炎上案件をきっかけにこの分野の専門家からも疑問の声が次々とあがり、JFC批判は日を追うごとに高まっていきました。※経緯は別記事に時系列順にまとめてあります。
このままではおさまりがつかないだろうな、と思って、JFCの出方をうかがっていたのですが……
初のファクトチェックコラム、その不可解さ
炎上から3週間経った5月31日、JFCがウェブサイトで公開した記事は、炎上案件に関する説明などではありませんでした。それとはまったく関係のない、あるCG画像にまつわる「ファクトチェックコラム」だったのです。
JFCは2022年の発足から2年間で300本以上の記事を公開していますが、「コラム」が掲載されたのは今回が初めて。しかも、通常のファクトチェック記事とは趣旨が異なり、「当該の画像をなぜファクトチェックの対象にしなかったのか?」ということが書かれています。いわば「没原稿」に当たるものをわざわざ公開し、ファクトチェックの舞台裏を明かしているのです。
今度の検証対象は、5月22日に投稿された以下のツイートです。ここで紹介されている画像には、24日にコミュニティノートがつきました。それを見れば、実際に撮影された写真ではなくCG作品であることがわかります。制作の経緯も、コミュニティノートのリンク先から見ることができます。
コミュニティノートの他にもコメントが多数ついていて、正しい情報が証拠と共に提示されています。各人が持てる情報を持ち寄り、それぞれ異なる角度から検証しているのです。SNSの集合知が正しく機能している例だと言えるでしょう。はっきり言って、JFCが出る幕じゃないんですよ。
改めて事実関係を以下に整理してみます。
Twitterで画像が拡散してから2日間くらいで、片がついているんです。それをJFCがわざわざ取り上げた理由は何でしょうか。正しい情報を広めるため? だとしたら、この誤情報が拡散することでどれほど社会的に重大な影響がもたられるか、教えてほしいものです。確かにかなり拡散されてますけど、放置したところで深刻な事態が起こるとは思えないんですよね。JFCが検証対象にすることで、かえって事態が悪化するのでは?とすら思えます。
"偽物の画像" だけど "本物の作品"って?
コミュニティノートにあるように、「縄跳びの少女」の制作意図は作者がウェブサイトで説明しています。なのに、JFCはご丁寧にも本人に取材をしたそうです(※取材方法は不明)。以下はJFCの告知ツイートです。
私はコラムより先にこのツイートを目にしたのですが、ファクトチェック団体らしからぬ情緒的な物言いに、驚いてしまいました。「誰がどのような思いで作ったのか」なんて、急にそんなこと言い出してどうしたの?と。
「思い」という曖昧模糊とした言葉を最近のマスコミはよく使いますが、こういった主観的な要素はファクトチェックとは本来、相いれないはず。
結局、この画像は判定されませんでした。その理由をJFCは以下のように説明しています。
「実際の画像ではありません」とか「作品としては本物」だとか、読んでいて混乱してくる文章です。作者本人の手によるものなら何であれ、贋作ではなく「本物」であるはず。先ほどの「思い」と同じく、ここでも「本物」という言葉を曖昧かつ情緒的に使っているのが気になります。
「こういったものは「ファクトチェック」の検証に馴染まない」とありますが、そりゃそうだよね、としか言えません。「作品」なんだから、事実かどうかを判定するのはナンセンスに決まってる。それは私が「ファクトチェックという暴力」で指摘したことと同じです。
被災地でのあのような当事者発信をファクトチェックの文脈に載せることの、なんと無意味であることか。被災者のツイートに多少の誇張や言葉足らずがあったとて、それを「不正確」と断罪する方がずっと有害ではなかろうか?というのが、前回の記事で指摘したことです。「縄跳びの少女」が判定を除外されるのなら、被災者「おいこらさん」の当事者発信も、判定を取り消すのが筋ではないでしょうか。
ちなみに、ファクトチェックコラムのあとがきには、こんなダメ押しが書かれていました。
「作品の価値を否定するために検証したわけではありません」と予防線を張っているのは、炎上防止策でしょうか。念入りなことです。それはともかく、「注意が必要」なのはいったい誰でしょうか?
JFCはここではなぜか「現実」の語を使っていますが、「事実」とは異なる情報を事実であると誤認され、それが拡散すると誤情報になりうる……そこまではいいんです。ただ、その誤情報が大いに警戒すべきものとして、ファクトチェックの対象になる、というのはまた別の話ですよね?
注意が必要なのは、わたしたち一般のSNSユーザーではなく、JFCの方ではないでしょうか? 不用意に個人の投稿を検証対象にするのは慎んでほしい。それによる悪影響に責任が持てないのならば。
「エモい」コラムで火消し?
このコラムはいつになく「エモい」記事だったせいか、「こういうのもいいんじゃない」というように好意的に見る人もいました。原爆に関わる話でもあり、読む人の感情を揺さぶる効果はあったでしょう。でも、私のように炎上案件からの流れを知っている人間は、そんなふうに素直に受け止められません。
まさかと思いますがこのコラム、炎上案件をめぐって噴出した批判への回答ではないですよね? 炎上案件に直接言及することは避けて、その代わりに似たような事例を持ってきて、エクスキューズにしていませんか?
ファクトチェックをなりわいとする方々が、そんないい加減なことをするはずがないと思いたい。炎上後に何の説明もなくツイートを削除したこと、被災地の現状を伝える当事者発信をないがしろにしたこと、これらについてはきっちり説明していただけるものと期待しています。
そうでなければ、JFCのファクトチェックの信頼性が損なわれ、今後の活動に差し支えますものね。総務省の有識者会議でのJFCによるプレゼン資料には、「ファクトチェッカー&講師育成講座を開始」とあります。認定資格の発行主体になるのなら、信頼性を高めなければなりません。
あと、私のように「デジタル空間」の片隅で呟いてる一介の市民が、ある日突然ファクトチェックなんかされたら……と思うと、気が気じゃないですよ。JFCがいまの方針を続けるなら、個人ユーザーは誰しもJFCの検証対象になりえます。しかも、検証対象の選定基準が曖昧なので、どうにでもなると言えますね(JFC批判をする人の発信内容を、片っ端からフェイク扱いするとか…)。
個人のSNS発信がちょっとバスったからといって、根拠不十分な「ファクトチェック」の対象にされ、「不正確」だの「誤り」だのと決めつけられる……それを恐れて情報発信をためらう人が出てくるかもしれません。JFCのファクトチェックを含め、最近政府が進めている偽・誤情報対策が萎縮効果を狙っているのだとしたら、こんなに恐ろしいことはない。そのような意図がないとしても、結果として萎縮効果をもたらすのなら、断じて看過しがたいです。
だからこそ、日本ファクトチェックセンターをみんなでファクトチェックする必要があります。特定の団体が権威化して、「検閲機関」のようになることを避けるためにも。
最後に一言。「みんなでファクトチェック!」
6/9追記
<JFCの組織としての独立性と資金の透明性について>
5/22にSlowNewsが記事にしています。https://slownews.com/n/n888f63acb72c
6/7にJFCの運営委員会から見解が出ました。https://www.factcheckcenter.jp/info/others/steering-committee-statement-240607/
<JFCの検証手法について>
5/23にSlowNewsが記事にしています。https://slownews.com/n/n18dd57a3b545
6/7にJFCの編集部から見解が出ました。https://www.factcheckcenter.jp/info/others/editorial-statement-240607/
6/7に楊井人文氏が編集部見解へコメント「極めて重要な要素が抜け落ちている」https://note.com/h_yanai/n/n839a04e6262e
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