ドキュメンタリーという虚構、ふたたび~「ガイアの夜明け」
先日の記事では、「ガイアの夜明け」炎上事件を取り上げました。今回はもう少し番組内容に踏み込んで、考えてみようと思います。
女性社員への密着取材
この回のテーマは「ニッポンの風をつかめ! ~巨大洋上風力の最前線~」でした。ゼネコンの若手女性社員に密着取材しています。
番組の構成は社員の「成長物語」を軸にして、その合い間に洋上風力発電の解説を挟むという形になっています。VTRには「密着!日本最大の洋上風力」というタイトルが出てるけど、密着しているのは洋上風力発電ではなく、「新米女性社員」なんですよ。そうでなければ、住んでいるアパートの部屋や生い立ち、家族とのやり取りといった、プライベートな部分まで踏み込まないですよね。
洋上風力発電って比較的新しい技術だし、とても興味をひかれます。もっと詳しく取り上げてほしかったな。風力発電の解説だけでは平板で面白くないから、若い女性に密着して人間ドラマに仕立ててるんでしょうか?「若く」てしかも「女性」というのがポイントなんでしょうね。画面で映えるという意味では。
新米社員というなら男性でもかまわないんだけど、そこはあえて女性を採用したんでしょう。ガテン系の現場と若い女性の組み合わせも、コントラストが効いていますね。もちろんこの社員さんは、若くして現場監督を任される優秀な人。だから番組の「主役」に選ばれたのだとは思いますが、それだけではない意図を感じます。
そこが番組制作上の演出なのだろうし、いい番組を作ろうと思えば工夫を凝らすのは当然です。「ガイアの夜明け」を制作したテレビ局の人たちだってたぶんそう。できるだけたくさんの人に興味をもって見てもらうために、「若い女性」を主役に選び、私生活にまで踏み込んで密着取材したのです。
アパートの一室で夕飯作って食べたり、お母さんとビデオ通話したりする姿を見せることも、視聴者に親近感を抱かせる効果がありますね。
遅刻や上司の𠮟責や泣き顔など、恥ずかしい場面もありましたが、これらを取り入れることで「ストーリー」にメリハリが出てきて、その後の展開が生きてきます。
「ガイアの夜明け」のこの回はよく考えて作られている。演出が効果を発揮しています。だからこそ炎上してしまったと言えるのです。
不審な点
炎上した場面を以下にざっくりまとめます。当該社員はAさんとします。
(不審な点1)
会議は早朝だから寝坊するのも無理はないけど………部屋まで呼びに行った先輩社員は、Aさんを起こすのに失敗したのでしょうか?部屋の前で電話をかけてたみたいですけど。万が一室内でAさんが倒れてたりしたら、どうするんだろう?
(不審な点2)
会議はAさん抜きで進められました。出欠確認はしないのかな?一人暮らしの社員が出社しないから様子見に行ったら亡くなってた、という話をときどき聞くけど……。Aさんいちおう現場監督なのに、会議に出なくていいの?
(不審な点3)
海を見ながら泣くって……出来過ぎじゃないですか? 泣くなら自室とかトイレとか、もっと人目につかないところを選ぶんじゃない?
このように、寝坊して遅刻する場面には不自然な点がいくつかあって、番組制作側の作為というか「演出」が加えられているのでは?と推測されます。社員Aさんの「成長物語」を効果的に描くために、失敗する場面が実際以上にネガティブに演出されていても、おかしくはないからです。
だから、過剰にネガティブに描かれたこの一連のシーンが注目を集めたのも、当然の成り行きかもしれません。演出は大成功だったのです。効果がありすぎて、炎上してしまったのですから。
ネットでの炎上
2024年1月5日 に本放送がありました。その直後は、番組公式Twitterに否定的なコメントが一つだけついてたり、例によって5チャンネルで下世話な話が多少交わされている程度でした。ところが、1か月以上経った2月半ばに、Twitterで画像付きの投稿がされたのをきっかけに、突如注目を集めるようになります。
寝坊で会議を欠席したのに食堂に直行し、朝食をとってから上司のもとに行ったことが、ネット民の不興を買い、非難を浴びたようです。まだ26歳だしこんなもんかな、と私は思いますけどね。ただ、「安全面で問題がある!」とか主張されたら、そうですねとしか答えようがない。
会社の信頼に関わるのにどうしてこんなシーンを放送させたんだ、って広報担当者を責める意見もありました。たしかに会社側にはデメリットしかないかもしれない。だけど、取材した中でどの部分が番組VTRに採用されるかなんて、取材を受けた側にはわからないですよ。テレビ局って、報道の自由だの編集権だのいって、事前にチェックさせてくれないですからね。そういったこともトラブルの元なのだと思います。
1か月経って急に炎上するのも不思議といえば不思議なんだけど……何らかの利害が絡んでるんでしょうか? そういえば、番組のせいで会社の株価が下がったと指摘してる人いたけど、関係ないと思う。おそらくただの決算下げですよ。
炎上騒動は東洋経済オンラインの記事になりました。
取材を受けるリスク
広報担当者も社員Aさんも、まさかこんなに炎上するとは思わなかったでしょうね。予想できていたら、さすがに引き受けないでしょう。Aさんのその後は不明ですが、何の痛手も負っていないとは思えない。あんなふうに叩かれてしまったら、精神的にきついんじゃないかな。
あと、Aさんは若い女性だし、身の安全が確保できるか心配です。顔も名前も出しているわけですし。私生活までカメラが入っていたから、悪意ある第三者がその気になれば、住所の特定なんか容易にできますよね。敵意ではなく好意を持たれてしまった場合も、危ないです。
テレビ局は取材して番組を作って放送してしまえば、それで終わりです。放送によってどのような影響がもたらされるか、ということまで責任取ってくれません。会社もどこまで面倒見てくれるかわからない。Aさん一人にフォーカスした作りになっているから、良かれあしかれ目立ってしまう。負担が大きいのではと思います。
番組VTRを事前に見せてもらい、細かくチェックできればこのような事態は防げるかもしれないけど、それができない以上、うかつに取材を受けるのはやめた方がいいですね。会社側はタダで宣伝してもらえると思って引き受けたのかもしれないけど、意図せずイメージダウンになることもあります。
「ガイアの夜明け」では過去にも炎上案件がありますからね。
大手ビール会社の飲み会がパワハラだと非難されたり……
ワンオペでまわしてる飲食チェーンも批判を浴びました。
炎上も反響のうち
結局のところ、ドキュメンタリーは炎上しやすいんですよ。なぜならば、実話のように見せかけてるけど、本当はかなり作り込んだ「フィクション」だから。視聴者は実話と思って見るので、誇張や歪曲や捏造された部分に対して、本気で驚いたり怒ったり悲しんだりする。それこそ制作側の思うつぼなんですけどね。
作り手にとっては、炎上上等なんでしょう
大いに反響があったってことですからね!
終わり
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