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コラ画像は「フェイク」か?:都知事選でのファクトチェックをチェックする

先日行われた東京都知事選では、マスコミ各社による誤報・虚報が相次ぎました(注1)。その一方で、SNSの個人ユーザーによる投稿を「フェイク」と見なし、警戒を呼びかけています。誤情報・偽情報がSNS上で蔓延しているとの印象操作に、余念がないようです。

今回フェイク情報として問題視されたのは、コラ画像(コラージュ画像)と呼ばれるものです。

前回の拙noteで、パロディや風刺は対処すべき偽・誤情報に含まれるか?という、有識者会議での論点に触れました。ここで改めてパロディのファクトチェックがはらむ問題について考えてみようと思います。



コラ画像を "フェイク" 判定

前出の日テレ「news zero」のウェブ記事には、都知事選候補の演説の画像を加工した「コラ画像」が、フェイク情報の一例として出てきます。


このコラ画像を日本ファクトチェックセンター(以下:JFC)が検証対象とし、「誤り」と判定しました。JFCの検証記事はこちら👇

「検証対象は、白い垂れ幕に文字を加えるコラージュをしたもので、誤りと判定した」と書かれていますが、コラージュ含めパロディというのはオリジナルの模倣ですから、そもそも "フェイク" なんですよ。フェイクをフェイクと言ったところで単なる同語反復で、何の検証にもなりません。

投稿者がフェイクを本物だと偽っているのなら話は別ですが、そういう意図はなさそうです。コラ画像に続いてオリジナル画像を投稿し、「テンプレどうぞ」のコメントを添えているからです(注2)。


ミーム化による増殖

その後、類似のコラ画像を作成する人たちが現れて、大喜利状態になりました。最初のコラ画像は模倣・改変を繰り返しながら、増殖していきます。いわゆる「ミーム化」です。

これはJFCの公式アカウント(TwitterとYoutube)で公開されているショート動画です。冒頭のナレーションに「悲報、小池都知事の画像がミーム化されてしまう」とあり、あからさまにネガティブな価値判断を下しています。中立公正を重んじるファクトチェック団体らしくないですね。

検証記事の「あとがき」でも、ミーム化への警戒を呼びかけています。

元画像や動画などに次々と改変が加えられ、拡散していくのがいわゆる「ミーム」です。昔からあるネット文化で、冗談半分で作られた情報が強い拡散力を持ち、思わぬ影響力を持つこともあります。特に選挙など社会的に重要な局面においては注意が必要です。

「小池百合子氏 都知事選演説で「カイロ大学首席卒業」の垂れ幕? ネットミームに」のあとがきより。強調筆者


検証から検閲へ

「注意が必要です」というのは、情報の受け手に向けた言葉ではなさそうです。「冗談半分で作られた情報が強い拡散力を持ち、思わぬ影響力を持つこともあります。」と書いてあるように、情報の発信者に対するけん制なんですよ。こういう発信をうかつにするなよ、と釘を刺しているのです。

「思わぬ影響力」とは何なのか、影響力を持った結果として何が起こるのか、具体的な内容は明らかにされていません。それでいて「注意が必要です」と言われても、納得感はないですよね。

JFCの検証記事の末尾には、このように漠然とした注意喚起の言葉がよく記されています。これは他のファクトチェック団体には見られない傾向であり、「上から目線」として反発を招く原因にもなっていると思われます。

真に中立・公正を旨とするファクトチェック団体であるならば、検証結果を示すにとどめ、このような形で価値判断を押し付けることはないはず。判定結果をどう受け止めるかは、読み手に委ねてほしいものです。


ちなみに、都知事選から4日後の7月11日、JFCは別の候補を題材にしたコラ画像を ”ファクトチェック” しました(注3)。 

こちらも前出のコラ画像と同様に、「フェイク」であることを投稿者が明かしているのです。画像自体は粗い作りで、加工したものであることが容易にわかります。しかも、選挙が終わってから検証記事を出している。ファクトチェックの内容もタイミングも、的外れな印象をぬぐえません。

以下は検証記事の「あとがき」です。

また、悪意なく冗談で合成写真などを作ったとしても、今回のように拡散していく中で「本物」と誤解されたり、陣営側への批判に繋がったりすることもあります。選挙などの重大な局面では特に注意しましょう。

「石丸伸二氏の選挙演説に集まった群衆の画像?」より。強調筆者

選挙期間中であろうがなかろうが、「批判」を封じるかのような書きぶりは、まさしく言論弾圧であり検閲です。JFCのファクトチェック記事は実のところ、真偽検証でもなければ注意喚起ですらない。SNSユーザーの発信を抑制するための、萎縮効果を狙っているように見えます。「注意が必要です」「注意しましょう」の但し書きを目にするたびに、違和感と抵抗感を覚えます。


ファクトチェックがフェイクを拡散する

コラ画像をファクトチェックし、検証記事やショート動画を公開することを通じて、「フェイク」がかえって拡散する危険性もあります。

なにしろ昨今のネット界隈は、目立ったもん勝ちのアテンションエコノミーに支配されていますからね。ファクトチェックの検証結果を多くの人に伝えるためには、できるかぎり人目を引いて、検証記事を「拡散」してもらう必要がある。そのために大げさなタイトルやサムネで惹きつけ、ナレーションや音楽などを駆使した演出で不安を煽る、といった手法がとられるのも、不思議ではありません。

事実、JFCのショート動画はおどろおどろしい雰囲気のものが多く、まるでそれ自体がフェイクニュースであるかのような作りになっています。

偽・誤情報に気を付けましょうと声高に叫べば叫ぶほど、受け手には偽・誤情報そのものが強く印象付けられて、逆効果になる恐れがあるのです。

そういった弊害が起こりうる可能性を、ファクトチェックの専門家が知らないはずがありません。逆効果を承知の上だとすれば、ファクトチェックの名のもとにアテンションエコノミーに乗じて、何らかの利益を得ようとしているのかも……そんな風に憶測してしまいます。


"拡散のトランペット"を吹く大手メディア

コラ画像はファクトチェック対象にされることで、さらに「拡散」していきました。ただし、この時点ではSNSを使っていない人やファクトチェックを知らない層への影響力は、限定的だったと思われます。

ところがここに、大手マスコミが乗り込んできた。毎日新聞とNHKです。いずれも公式サイトにコラ画像の記事を掲載しています。

毎日新聞は「特集 東京都知事選2024」で、この検証記事を取り上げました。JFCのファクトチェックをそのままなぞる内容です。小池氏と蓮舫氏のコラ画像を扱っています。


NHKの「フェイク対策ニュース一覧」に掲載された記事の前半部分には、小池氏と蓮舫氏の他に石丸氏のコラ画像も出てきます。JFCからの引用という形はとっていませんが、前半部分に限って言えば、独自取材なしにネットからの流用で仕上げた「こたつ記事」の可能性があります。


JFCを知らなくても、毎日新聞やNHKを知らない人はいません。これらの大手メディアに取り上げられることで、コラ画像はさらに拡散されたと考えられます。SNSの世界に限定されていた偽誤情報が、ファクトチェック団体を媒介としてマスメディアに登場し、多くの人が知ることになってしまう。このような構造を「拡散のトランペット」といい、報道機関がフェイクの拡散に加担する危険性が指摘されています。まさに「寝た子を起こす」ようなものです。

毎日新聞もNHKも、コラ画像の件に関しては独自取材をした様子はありません。偽誤情報やファクトチェックの問題について、慎重かつ入念に扱うことをせず、記事の中身は薄い。JFCの検証記事と同じく、これらの大手マスコミの「こたつ記事」も、ページビューを稼ぐ手段だと見なされても文句は言えません。アテンションエコノミーにからめとられ、フェイクの拡散をいたずらに助長するだけに終わってしまいます。


作品か、おふざけか? パロディへの価値判断

JFCは以前にも、コラージュものを記事にしたことがありました。5月31日のファクトチェックコラムで、原爆をモチーフにしたCGを取り上げているのです。これも一種のコラ画像なのですが、今回とはだいぶ扱いが違うんですよね。

結局このCGは、ファクトチェックになじまないという理由で、判定外となりました。

原爆の悲惨さを訴える作品としては「本物」で、価値を持つものです。こういったものは「ファクトチェック」の検証に馴染まないため、判定はしませんでした。

「原爆による少女の影はCGで作った画像」より

原爆の悲惨さを訴える「作品」だという理由で、真偽の判定を免除しているのです。かたや都知事選候補のコラ画像は「作品」ではなく「面白半分」だからといって、やり玉にあげられてしまうとは……。つじつまが合いません。

どちらの事例もコラージュという形式は同じなのに、制作者の意図によって扱いに差をつけている。「意図」などという主観的な要素は抜きにして判定するのが、本来のファクトチェックなのに。

要は、検証対象の選び方が恣意的であるだけでなく、判定の出し方も恣意的なんですよ。ファクトに基づくというよりも、ケースバイケースで判定しているように見える。原爆の悲惨さを訴えるのはOKだけど、政治家を揶揄するのはNGだと言わんばかりです。

真偽の判定だけでなく、善悪の判定も下してしまっている。これは公正・中立なファクトチェックではなく、価値判断です。


おわりに

JFCは毎回のように「注意しましょう」と言うけれど、その言葉そっくりそのままお返ししたい。

マスコミ各社は偽・誤情報の脅威をしきりに説くけれど、偽・誤情報の一大発信源はあなたたちですよね?

「デジタル空間」に混乱をもたらしているのは誰なのか、いま一度よく考えてみた方がよさそうです。


(注1)都知事選を巡る誤報や不適切な報道について、主なものを3件以下に挙げる。

■7月7日 スポニチアネックス「TBS「アッコにおまかせ!」で都知事選めぐる発言を訂正、謝罪 SNS大荒れ「選挙妨害」の声も」
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2024/07/07/kiji/20240707s00041000220000c.html

■7月8日 NHK「都知事選 2位は石丸氏53か所 蓮舫氏9か所 開票所別では」※タイトル差し替え済み
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240708/k10014504971000.html

7日9日 J-CASTニュース「NHK「2位はドコなんですか?」見出しに批判相次ぐ 蓮舫氏揶揄との指摘...タイトルは修正」
https://www.j-cast.com/2024/07/09487956.html

■7日9日 朝日新聞デジタル「立憲、無党派層へ浸透急務 蓮舫氏、石丸氏にも及ばず 都知事選」※写真差し替え済み
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15978476.html 

7日10日 J-CASTニュース「蓮舫氏のシワ強調?朝日新聞デジタルの写真が波紋」
https://www.j-cast.com/2024/07/10488088.html

(注2)コラ画像の原型となったオリジナル画像は、コラ画像の作成者とは別の人物が撮影したものと思われる。

(注3)都知事選に関連して、JFCは小池氏、石丸氏、蓮舫氏を題材にしたコラ画像をファクトチェックしている。蓮舫氏コラ画像の検証記事はこちら

参考記事

■「拡散のトランペット」については、法政大学の藤代裕之教授の記事がおすすめです。


■はむたのnoteで、パロディ・風刺の取り扱いに関する総務省の有識者会議の見解に触れています。



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