街歩き
日本酒を求めて
前回の記事「ジェットコースター」の続き。
キキさん(なタ書の店主さん)としょうゆちゃん(なタ書で出会った女子大生)と僕の3人で、日本酒を求める街歩きがついに始まった。
キキさんの後ろを2人が付いて行くかたちで会話をしながら高松の商店街を練り歩く。
少し歩くと1つの建物に着き、階段を上がった。
飲食店には見えない雰囲気の部屋に入って行った。
後から続いて入ると、開かれたスペースが視界に入った。
奥からここで働いている女性が出てきて挨拶をした。
もうすでにキキさんの街歩きは有名らしく、女性はキキさんと僕たちに「街歩きですか?」と尋ねてきた。
「今日は日本酒を求めて街歩きをしているんだけど、日本酒ってあります?」
「え、いや、ここイベントとかやるフリースペースだし、そもそも今休業中だし、あるわけないじゃないですか」
うすうす飲食店には見えない雰囲気のこの部屋が本当に飲食店ではない事は気付いていたが、予想通り飲食店ではなかった。僕もしょうゆちゃんも爆笑である。
少しこの店舗についての説明をしてからキキさんは「じゃあ、ここには日本酒はないみたいなので、次行きましょうか」とけろっとした様子で言ってきた。
お邪魔しました、ありがとうございましたとお礼を言って次に向かった。
登ってきた階段を下りて次に向かおうという時、その建物の1階にあった自転車屋さんの店内をガラス張りの外からじっと眺め出した。
中には事務仕事をしている女性がいて、なかなかこちらには気付かない様子。
しかし、向こうが気付くまで粘り強く外からじっと店内を覗き込んでいる。
ちなみに、この日お店は定休日。
外からの視線に気付いた女性は少し驚いてから僕達をむかい入れてくれた。
ここでも「街歩きですか?」と言われたので、このあたりでお店をしている人たちにキキさんによる街歩きが相当浸透しているのを再確認した。
それはこの後も入るお店ごとに言われることになる。
店員さんやお店の簡単な紹介などしたのち「ここには日本酒ある?」とキキさんが尋ねていた。
もちろん、自転車屋さんに日本酒はなかったが、なぜかみかんを頂いた。
キキさんが店員さんに「自転車の説明してよ」と無茶ぶりをして、僕たちはみかんを頬張りながらその説明を聞いた。
今まであまり触れてこなかった分野だったので、新鮮で興味深く、とても面白かった。
ちなみに、この店員さんはキキさんとしょうゆ造りをしているらしい。
情報が渋滞している。
この話ももっと聞きたかったが、それはまた次回のお楽しみという事で。
一杯目
自転車屋さんを出て、再び次の店へと向かって歩き始めた。
次に着いたところは、ちゃんと飲食店。それもちゃんとお酒を飲むようなバーだ。
ようやくこれで一杯目が飲める。
と思いきや、お店のドアは開かなかった。
まだオープン前の時間だったのだ。
オープン前じゃ仕方がないということで次のお店に向かおうとした時、両手にビニール袋を持った女性がお店の方に向かって歩いてきた。
おぉ、とキキさんが声を出し向こうもこちらに気付いた。女性は挨拶をして僕達に一瞥をくれたあと例によって「街歩きですか」と尋ねた。
「そうそう、今日は日本酒を求めて街歩きしてるんだけど、ちょっと店開けて飲ませてよ」
どうやら今来たオープン前のバーの店主さんらしい。
「え、今から私ご飯食べるんだけど。てか、バーだからそんな日本酒置いてないし」
「いいよ、ご飯食べて。お酒さえ出してくれれば、僕たちは気にしないから。そんなに長居しないからさ」
「いや、私が気にするんだよ!」
まるでコントのような軽快なやりとりがスムーズに行われた。
「まだ一杯も飲めてないんだよ〜。お酒以外は頼まないから開けてよ」
「まだ飲めてないの?何軒行ったの?」
イベントスペース、自転車屋と古本屋の店名を言うと(実は古本屋にも訪店し、例にもれず日本酒の有無を尋ねていた!)バーの店主さんはすかさず
「そりゃないわ。あるわけないでしょ!」とツッコミを入れた。
「あー、もうわかったわかった。お酒だけしか出ないからね」
とついに折れて中に入れてくれることになった。
かくして、無事頂いた一杯目は高松名物骨付き鳥に合わせて造られたにごり酒。
別名「大人カルピス」さっぱりとした甘さに、度数も低く、お酒に弱い人でも飲みやすいご当地のお酒でした。
一杯頂きながら楽しく談笑をし、やがて次行くお店が決まった。
店主さんがテイクアウトで買った晩御飯のお店で、まだオープンから一週間そこらしか経っていない新店だった。
代金を支払い、お礼を普段よりもしっかりと言ってから店を出た。なんせオープン前にお邪魔してしまったのだから当然のことだが。
二杯目とその後
次の店に着くとそこは多国籍料理店。
日本酒なさそう……。と思いきや!
オープン記念で近くの和食店から頂いた日本酒があったのだ。
「あ、これでいいですよ」
「いや、メニューにないんですよね。えっと、いれものとかなんでもいいですか?」
「全然、何でも構いません」
「それなら……出します!」
「あとこれ、よかったらうちのショップカード置いてください。もしこのお店のもあればうちに置きますよ」
といって、バッグからスッと自店のショップカードが出てくるあたりはさすがである。
やり取りの末、特別に値段設定をして紙コップに入れて出してくれた。オープンしたての多国籍料理店でメニューにない日本酒を頂くという奇跡的な体験。なんだこれは、楽しすぎる。
そして、この日訪店したお店は確か全部で7軒。
他には本屋、ゲストハウスやバーを経営している「事務所」、古着屋さんなど。
日本酒が飲めたのはここで紹介した2杯だった。
それでも紹介していただいた場所はどれも素敵な場所であり、ここでの体験はかけがえのない超面白体験となった。
日本酒がどれだけ飲めたかどうかなんてものは二の次である。
最後に行った老舗の古着屋さんからこの夜泊まるゲストハウスに向かうべく、僕としょうゆちゃんはキキさんにお礼を言って別れた。
2人でゲストハウスに向かいながら「めちゃくちゃ笑ったね」などと話しながら、陽が沈みすっかり冷えこんだ街を歩いた。
でも僕の身体はお酒と笑いで暖かかった。
つづく
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