土山と土壁
いい名前、つちぴー
知らない人の家での留守番をうさぎと共に少しの間過ごすと「すいません、ほったらかしにしちゃって~」と奥さんが帰ってきた。
すぐに先程道案内をしてくれた男性も帰ってきて一緒に昼食をとりながら、自己紹介などをした。
男性はフランス人で日本文化が好きで留学生として広島の大学に通い、在学中に出会った面白い左官屋さんに影響を受けて左官仕事を始めたらしい。
僕が名乗ると「名前に土がつく。いい名前だね、僕は土が好きだから」と言っていた。
お昼を頂き、このおうちから見える所にその日の現場はあったので歩いて向かった。奥さんのママ友も2人お手伝いに来ていて、一緒に左官仕事をお手伝いした。
土を混ぜたり、塗る前に壁に下準備を施したりしていよいよ塗り方を教わった。まさか自分がフランス人に「これが小手返しね」と左官仕事を教えられる運命にあるとは思わなかった。
ママ友とお話しながら壁に土を塗っていく。初めの方はみんな話していたが、次第に真剣になり黙々と塗るようになっていった。土に触れ、集中して壁に均一に塗る作業は頭が軽くなる感覚で楽しかった。
現場の仕事は3時過ぎに一度軽い休憩が入る。
「そういえば、つちぴー(なぜかつちぴーと呼ばれていた)は今日どこに泊まるの?」
「まだ決めてないです」
「そしたらうちに泊まる?」
「そんな、急に悪いじゃないですか」
「大丈夫だよ。その代わり夕方まで手伝って」
「ありがとうございます!もちろん手伝います」
こうしてこの日の泊まる場所が決まり、夕方まで左官仕事をする事になった。
晩餐会
陽が沈みかけた頃に片付け始めて、キリが着き帰ろうという時に家の持ち主が施工の進捗具合を確認しに来た。
その日施工した部分を説明して「つちぴーにも手伝ってもらった」と言うと、その方が僕の方を見て言った。
「もしかして今朝、山の中歩いてました?」
色んな人に見られているな、と思いながらそうですと答えた。
「お弟子さんだったんですね」
「いや、今朝その辺歩いてたから声かけたらやるって。今日うちに泊まるの」
「あ、そうなんですか!ご苦労様です」
歩いて帰れる距離の家に行くまでの間、他にも途中で会った年配の方ともお話したりして、距離の割には時間を長くかけて家まで帰った。
地域のつながりがうかがえる、いい土地だと思った。
家に着くとかわいい顔をした保育園の年中さんくらいの男の子がいた。挨拶をすると照れ臭いのかあまりこちらを見ずにもぞもぞしている。
薪で沸かすお風呂を頂き、お風呂を出ると夕飯の準備をしていた。
何か手伝えることがあればと言うと、特に何もない。子供と遊んでおいてほしい。と言われた。
そういうことは得意だし、大好きですと一緒に遊び始める。
すぐに打ち解けてくれて、先程とは打って変わってめちゃくちゃおしゃべりしながら遊ぶようになり、ご飯を食べる頃には下半身丸出しのぷりケツ状態で僕の膝に乗ってくるほど懐いてくれた!笑
夕飯にはご近所さんや仲の良い人たちを呼んで、まるで晩餐会のような夜になった。
そして、来る人来る人に「山歩いてました?」と訊かれた。この島で山を歩くときは皆に見られていると思った方が良いと学んだ。
そろそろ寝ないといけないという時間帯でもお子さんは覚醒状態。寝る気配がなかったが突然姿が見えなくなり静かになった。
奥さんが何をしているのかと覗きに行った時悲鳴があがった。
「わー、自分で髪の毛切ってるーーーー!!」
あ、これは𠮟られるんじゃないかと思うのも束の間
「すごーい!かっこよく切れてるねー!」という神対応。
あぁ、この子はきっとのびのびといい子に育つだろうなと感激したと同時に、叱られるんじゃないかと思った自分が少し恥ずかしくなった。
しかし、そのあと一応奥さんはショックだったらしく
「生まれてから一度も髪切ってなくて、クルクルの髪の毛が可愛かったのにー」とも言っていたが、決して叱るような事はしなかったのはすごいと思った。
実際、本当に上手に切れていて、綺麗なアシメトリになっていた。笑
今度こそ
早朝、陽が登ったころに目が覚めて、海が見渡せるように南側が大きな窓ガラスになっているこの家からぼうっと朝の海を眺めていた。
しばらくしてみんなが起きてきて、お子さんを保育園に送る前に港まで車で送っていただいた。そして、宮崎県の高千穂にある知り合いのところを紹介してくれ、受け入れてくれるような手配まで整えてくれていた。大感謝。
港近くにこの島に古くから残る街並みや建物などの観光スポットを周り、フェリーの時間を待った。
早起きと朝からの観光スポット巡りで愛媛へ向かうフェリーの中では爆睡だった。
愛媛県では道後温泉の近くにある宿をとり、路面電車に揺られながら向かった。
ゲストハウスにチェックインで相部屋の説明の際、まだ夕刻前であったがすでに先客が向かいのベッドで眠っていた。
チェックインが終わりスタッフの方が部屋から出ていくと、ぬっと起き上がりこんにちはと声をかけられた。
こちらも挨拶を返して話をすると、この方は結構な常連さんだったようで、温泉行くなら早めの時間に行っておいた方が良いことなど有益な情報を教えてもらった。
お陰様で道後温泉をほとんど貸し切り状態で堪能し、鯛めしや地酒を楽しみ宿に帰ると、まだまだ陽が沈んだばかりの時間だったのにも関わらず、意識を失うように眠りについた。
つづく