鳴川さんのお話
2016年のグッドデザインの大賞に鳴川肇さんの「オーサグラフ世界地図
AuthaGraph World Map」が選ばれました。
その記事はこちら→GOOD DESIGN AWARD
で、以下はその時に鳴川さんとの出会いを書いたものになります。最近もお仕事いただいたり、お仕事頼んだりしているんですが、ほんと天才だよなあと感じております。
【2016年10月29日 少し長い思い出話になります】
WATER CANVAS
5年前、2011年のことです。鈴木太朗/アトリエオモヤと共に「WATER CANVAS」というアートワーク、プロジェクトに参加させていただきました。フランスシャルルドゴール空港内に鈴木氏のそのアートワークを4基設置。フランスの現場施工業者と鎚絵とで直接契約を結び、輸出から設置まですべて行うという大掛かりなプロジェクトでした。
「WATER CANVAS」は高さ2m×幅4mという巨大な水槽に泡による文字や紋様を表記するというもの。アトリエオモヤ製作の制御機械と水をあわせると1.2トンほどの重さになりました。
設置する建築との擦り合わせの際、大問題が起きました。
その1.2トンの荷重をアンカーで担保出来ていないというのです。もちろん設計時にはその全体荷重に見合った構造計算を弊社内でも行っていました。けれども設置する階の床スラブが想定の厚みをとれていないことが判明。人が思いっきりぶつかると(フランスなので地震の想定は必要なかった)1.2トンのWATER CANVASが倒れてしまうかも、という大変な状況になりました。実は羽田空港などは階上の大型構造物(時計塔とかありますよね)はスラブを貫通して下階の天井と挟み込んでいまして、同じ空港だしその方法を提案しましたが、許可は下りませんでした。
本当は最初から図面に記載していたことで、当然の心配事項だったわけで、「書いているじゃないですか」「何で今さら」とも思ったけれども、成立しないというのは何よりまずい。ともかくベースを大きくして、と、経験からの対応策はありましたが、そこで施工側から言われたのは「構造計算書を提出してください」という当り前のことでした。
しかしさて、困った。
本プロジェクトは契約書等オフィシャルな部分では日仏ニュートラルな英語をつかっていましたが、「英語による構造計算書」が必要になるとは。でもまあ考えてみると当然。
やっぱウチが直接というのは無理だったかなあ、スーパーゼネコンや大手代理店のような海外経験豊富なところに任せるべきだったかなあとちょっと後悔しながら、それでも本社の上司たちの反対を振り切っての直接契約、なんとかしないといけない。藁にでもすがる思いで伊東豊雄建築設計事務所の藤江さんに相談してみました。
藤江さんは「うちでは出来ないけれども、友人でイギリスの構造事務所で働いていた人がいるから紹介しますよ」と教えてくださいました。
とても前置きが長くなりましたが、その時ご紹介いただいたのが鳴川さんでした。
ところで実はその3週間ほど前に、デザイナーの橋本さんがあまり書かないツイッタに「オーサグラフ」のことをのせていて、そのリンクを見て倒れるほど驚いて、橋本さんと「なんですかあの世界地図は?天才すぎやしませんか」という話をしていました。そうして全然知らずにご紹介いただきご挨拶差し上げた鳴川さんの名刺には「オーサグラフ」と。「ちょっとまって僕いま天才に仕事頼もうとしている?」「藤江さんなんで屋号も教えてくれなかったんだ!聞いてたら覚悟が違ったのに!」って心の中で思いながら本件「WATER CANVAS」についての打合せをしたのでした。
二週間もかからずに、鳴川さんより解析の回答をいただきました。構造計算書なんて日本語で見てもわかんないのに英語で数十ページに渡るものだったと思います。スラブを大きく広く掘り下げてそこに大きなベース構造を植え付けるというものでした。
ともかくわからないけどそれをそのままフランス側に転送すると、建築側でその工事を行なうということですんなり解決しました。
「世の中にはほんとうに偉い人がいるもんだなあ」と思ったのが、鳴川さんとの出会いでした。
こうして鳴川さんの天才的な解析と発明が脚光を浴びることは本当に嬉しい。
ただひとつ懸念は、もうスーパースターになっちゃって、お仕事頼めなくなっちゃうんじゃないかというところなんですが…
鈴木太朗/アトリエオモヤによるWATER CANVAS