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東京日記10 須原屋書店

 「せいろ」の大盛りを食べ終えるのも、これまたあっという間であった。立ち食いスタイルと冷たい蕎麦は実に相性がいい。電車が出発するまでの空いた時間にかきこむわけだから、本来、熱くてはならないはずで、熱々ならうどんがよいが、冷たいなら断然蕎麦である。埼玉新聞を見つけるのよりも呆気なく食べ終えてしまう。
 こうなると欲張りなもので、まだまだ欲求が収まらない。早く終わるというのは欲の落とし所に困るということなのだ。近頃の若い人たちは一点五倍速で映画を観たりするらしいが、若者たちも実は困っているのかもしれない。一度じっくり作品と向き合ってみたら、ぽっかり空いた穴を埋められるかもしれない。青春って密なんです。
 隣にあまり見たことのない書店があったから、何か一冊文庫本でも買ってブックカバーを手に入れることにした。書店ごとに異なるブックカバーを集めるのも私の趣味だ。ブックカバーが欲しいがためにさほど欲しいわけではない文庫本を買う。これが興味を拡げるのにちょうどよい。自分の趣味に任せて買い物すると自分の好きなものしか買わないから世界が広がりにくい。何か縛りを用意したうえで買い物をする。今回の場合はブックカバーを手に入れるという縛りがあり、そのために欲しくもない本を買う。縛りが設けられるということは、本来なら世界が狭まるはずなのに、結果、自分の知らなかった世界への扉が開くことになる。ぐぐっとしゃがみ込んでからその反動を利用してジャンプすることによって跳躍力が伸びるのと同じことなのかもしれない。
 駅構内の書店はラインナップにこだわりが特にあるわけでなく、売れ筋のものが置かれていることが多い。セレクトショップのような店ばかりでなく、こういう店も必要だ。
 杉井光さんの『世界でいちばん透きとおった物語』を買った。最近よく目にする話題の書である。須原屋という書店らしい。ブックカバーがかわいい。

続く
※続かないかもしれない

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