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1人目の客になれたりなれなかったりした山滴る甘党市

 趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。梅雨をすっ飛ばしたみたいな連日の暑さにやられてしまい、一週間前までなら五分で仕上げられたものが五時間かけても仕上がらないというような、超非効率な世界を生きておりますが、効率を追い求めていたらこんな趣味を楽しむことはできません。世の中は非効率でできている。

 俳句では四季ごとに山が笑ったり(春)粧ったり(秋)眠ったり(冬)するんですが、夏の山は「滴る」。草木の葉で覆われて緑が滴るように見える夏の山を形容しているそうですが、これだけ暑いと滴ったなんらかの液体もすぐに蒸発してしまうのではないかと思う。とはいえ、「山滴る」という言葉そのものはこの暑苦しい夏に涼を運んでくれるようで好きです。こう暑いと滴っているのは汗なのかもしれないけど。

 今日は木屋町にある立誠ガーデンヒューリック京都で「山滴る甘党市」というイベントが開催されるというわけで、これの1人目の客になってやろうと狙いを定めました。少しネットで調べてみたところ、2016年以来、実に8年ぶりに開催するということです。8年前のタイミングだったかは忘れましたが、当時、お昼の番組で紹介したのを覚えています。

 今朝はいつもより少し早めに職場へ到着し、やらなければならない優先順位の高い仕事から順に終わらせ、午前10時に職場を出て、10時20分には到着できるようにしました。オープンの40分前に到着すれば、だいたいのケースでは1人目の客になれます。山滴る甘党市は午前11時スタートです。

 烏丸駅で京都河原町駅行きの列車に乗った途端、尿意をもよおし、しかし、トイレに行っていたら開場40分前には微妙に間に合わなさそうだから、なんとかこのまま開場まで我慢して、イベント会場で用を足そうか、しかし、それを我慢し切れるほどのコンディションなのか、ということを考えているうちに京都河原町駅に到着しました。

 ホームから地上へ上がるまでの間にトイレがあったら駆け込みたかったのですが、私が選んだ経路にはありませんでした。
 木屋町四条の地上に降り立つ。木屋町の桜並木は自信に満ちた緑で私を見下ろしてくる。この程度の暑さではへこたれることはないらしい。八坂神社の向こうに見える東山は濃緑です。秋の紅葉がお化粧しているというのなら、いまの濃緑は生まれたままの姿です。この姿を山滴るというのなら、それは途端に色気を帯びているように見える。

 しかし現実に滴りそうになっているのは私の小便のほうであり、東山の濃緑に見惚れている場合ではない。早歩きで木屋町通りを北上し、立誠ガーデンヒューリック京都へと向かいます。私は知っている。立誠ガーデンヒューリック京都をさらに少し北へ行けば公衆トイレがあることを。しかし、そこへ行くには立誠ガーデンヒューリック京都を通り過ぎなければならない。無人の会場入口を通り過ぎて用を足し、戻ってきたところに誰かが並んでいたら後悔するにちがいない。その後悔は我慢しきれずにオープン前の入口付近で垂れ流してしまったときの後悔とどちらのほうが大きいだろうか。

 というようなことを考えながら北上し、いざ、立誠ガーデンヒューリック京都に辿り着いたのが午前10時20分。会場入口には既に五十人はゆうに超えているであろう大行列ができておりました。懸念材料のなくなった私は木屋町蛸薬師あたりにある公衆トイレで全てを滴らせ、帰路につきました。

この行列には驚いた



 と、普段ならなるところなのですが、あれだけの行列を目の当たりにしてしまうとどんなもんかえ?と入ってみたくなるものでして。炎天下、芝生広場にできあがっている行列の最後尾につくやいなや、私は最後尾ではなくなり、あっという間に行列の真ん中あたりに位置することになりました。炎天下、お待ちいただいて申し訳ないということで保冷剤が配られました。汗滴るこめかみあたりに保冷剤をくっつけるとキンキンに冷えた保冷剤とぬるぬるの汗まみれのこめかみが化学反応を起こして青春しておりました。

 想定以上の大行列になったからか、11時を待たずに会場への扉が開きました。その頃にはもうかなり前列に位置することになっていた私は行列の第二陣で入場することができ、受付を済ませて中へ入ると、オープンスペースに30店舗近い和菓子のお店がブースを並べ、看板商品、季節限定の商品などを販売しておりました。ふと、通り過ぎたお店にはお客さんがいなかったので、息子たち用にお菓子を購入すると、感じのいい店員さんが「1人目の客!」と私のTシャツに反応してくださったので、「ひょったして僕、1人目の客ですか?」と尋ねたら微笑みながら「そうです」とおっしゃっていただいたので、あきらめなくてよかったと思った。

令和6年6月16日(日)午前11時前にオープンした山滴る甘党市の1人目の客にはなれませんでしたが、会場内の然花抄院の1人目の客は私です。

店員さん30mくらい後ろにいるんかってくらい
僕がでかい。。



 さらに奥にブースを構える京菓子司金谷正廣では「公家珈琲」なる珈琲をゲット。男前の店主に「僕、1人目の客ですか?」と尋ねたら「残念ながら違うんですよ」ということだったのですが、「その公家珈琲は1人目ですよ」とおっしゃっていただきました。

男前の金谷さん



 本日16時まで立誠ガーデンヒューリック京都にて開催されている山滴る甘党市、会場にあるお菓子全部買い占めたいくらいたまらんイベントです。是非皆さん、お出かけあれ。

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趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。書籍『1人目の客』と今日もスタッフさんに褒めてもらった1人目の客Tシャツはウェブショップ「暇書房」にてお買い求めいただけます。

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