1人目の客になれた話
趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。必ず済ませておかないとならない仕事をひとまず済ませたので、今日は前々から行きたい行きたいと思っていた宇治の源氏物語ミュージアムにでも行こうかしらなんて思いながらスケジュールを確認しておりますと、今日は新店オープンの日とチェックしておりました。
何時オープンかわからなかったのでインターネットで調べてみると11時オープン説と11時30分オープン説があり、「諸説ありますが」状態でありましたので、こういう場合は11時30分オープンと思って11時オープンだった場合にショックすぎるため、11時の30分前に到着できるよう、四条烏丸を飛び出しました。
四条御幸町を左折して北上すると、遠目では周富徳然としたコック帽をかぶった人たちが何人か通りを忙しなく行ったり来たりしています。どうやら開店の準備に追われているようにみえました。周富徳然として見えたのは遠目に見えたからであり、近づいていくと、中華ではなく洋食の人たちであることがわかりました。いや、近づくまでもなく、洋食のお店であるとはわかっていたんですけれど。
テイクアウト専門店で、厨房の前にオーダー用の小窓があります。じゃりン子チエのチエちゃんがホルモン焼いてるところみたいな感じです。店内ではレトルト食品やオリーブオイルなども販売している様子。
いちばん偉い感じの方が「11時30分オープンです」と伝えにきました。笑顔ではありますが、「まだ10時半やさかいに、ちょっと時間つぶしてから来なはれ」という圧を感じたため、いったん退散。河原町OPAのブックオフへ向かいましたが、残念OPAは11時オープンでした。古本を物色するのも趣味の私は(「掘る」という言い方はカッコつけててキライなの)今度は寺町四条を下り、コロナ禍で俄然注目を浴びることになった?「三密堂書店」へ向かい、こちらはもう開店していましたので、安めの本が置いてある棚ばかり眺め、2冊購入したところで11時を過ぎたので、そろそろかな、とお店へ戻りました。
到着しますと、貴婦人が店内から出てきました。まだ11時10分ですが、ひょっとして早めにオープンしたんか!?と思いましたが、どうやらご予約に来られた様子。さっきの偉い感じの人が「11時30分オープンですからねー」と話しかけておられ、貴婦人も錦市場へと消えてゆきました。
私にも「11時30分オープンです」と伝えに来られましたが、「待たせてもらってもよいですか」と伝えると「もちろんです」と笑顔で答えていただきました。ここに私が1人目の客になることが確定いたしましたが、直後にコワモテのおじさんが「今日オープンなん?」とお店の方に話しかけてくるなど、どうやらかなりの注目店らしい。
少し遅ければ私はこのおじさんの後塵を拝すことになったかもしれない。「三密堂書店」で時間を潰しすぎなくてよかった。そうしていると、今度は先ほどの貴婦人とは違う貴婦人がやってこられ、「予約してたんですけど」とおっしゃられ、これもオープン前だから一旦退散されたのですが、この場合、予約しているこの貴婦人や、さきほどの貴婦人のほうが予約を済ませている分、私よりも先に客として契約したことになるのでしょうか。
私は所詮、2番目以降の男なのでしょうか。いいえ、いいの。私はいいの。私のなかであなたが1番なら、他の人のことなんて。
いや、そうなると、1人目の客になる活動そのものを自分で否定することになりやしないかい。まぁ、細かいことを考えるのはやめよう。とにかく、私はいま、1人目の客として店の前に並んでいます。
そこへ先ほどのコワモテとは違うタイプのコワモテがまたやって来まして、私の存在のなきかのごとくでありましたが、さきほどから存在感を放つ偉い感じの店員さんが「11時30分オープンです」と、この御仁、ドラクエの町人みたいに同じセリフしか言わんな。と思いきや、「こちらの方が1人目ですので、後ろにお並びください」とおっしゃられた。
「こちらの方が1人目ですので」
「こちらの方が1人目ですので」
「こちらの方が1人目ですので」
こんな気持ちのよすぎるフレーズを隠し持っていたとは。延々同じセリフしか言わなかったのは、このセリフを際立たせるためのフリだったわけです。憎い!憎々しい!!
やがて「11時30分」となり、振り向いてみると私を筆頭に10人ほどの列ができており、少し離れたところにはダーク系のスーツを来た関係者然とした10人ほどの人たちもオープンをお祝いしておりました。これほどに関係者の皆さんやお客様に待ちわびられてオープンしたお店の1人目の客になれたのは、実に久しぶりの気がします。
15食限定の日替わり洋食弁当600円を購入。1000円札を出すと、レジには100円玉が1枚も入っていませんでした。50枚セットで100円玉がまとまってる塊をレジスターの角にて「コンコン」やりながら、塊を粒に変え、そのうちの4枚を手渡すまでのあいだ、レジ担当の方の若干の焦りを感じ、ひどく愛おしくなったのでした。
外へ出ますと、9人目に並ぶ貴婦人(貴婦人としては3人目)が店員さんに「1人目になろう思ってきたんやけど」と話しておられました。
「1人目になろうと思ってきたんやけど」
「1人目になろうと思ってきたんやけど」
「1人目になろうと思ってきたんやけど」
ご婦人、あなたの思い入れに対して、私のそれは何一つ優れているものはないが、あなたよりも30分早く到着してしまいました。申し訳ありません。しかし、たとえ私が到着していなくとも、ご婦人の前には7人の男女が並んでおりました。男女七人夏物語。
街で噂の洋食テイクアウト専門店が本日オープンいたしました。御幸町錦上ルの「スター食堂」の1人目の客は私です。Cha Cha Cha♪
#令和3年4月21日 #1人目の客
#コラム #エッセイ #京都グルメ
#スター食堂
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