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1人目の客になれなかった話

 趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。
 今日は朝8時、京都ラーメンの王道ともいえるラーメン店の二号店が烏丸エリアにオープンするということで、これが決まった頃から何人もの方に「第一旭、狙うの?」と聞かれておりました。「いやあ、日程的に問題なければもちろん行きますけどね〜」と話しておりましたところ、どうやら行けそうだとわかったのが数日前。しかし人気店ゆえ、どのくらい並べば1人目の客になれるのか、予想がつきません。
 
 ここで私は心に決めました。
 「1時間以上は並ばない」
 今後はこれを自らに課すルールとし、この趣味を長く楽しみ続けたいので「無理をしない」ことを第一とすることにしました。
 こう決めておけば仮にお店の前に到着した際、もう誰かが並んでいたとしても納得がいきます。こっちは1時間以上並ばないって決めてるから仕方ないよね。

 ところで先程、第一旭のことを「京都ラーメンの王道」と書きましたが、私はラーメンについてそんなに詳しいわけではありません。ラーメン好きがこれを読んだら「第一旭を京都ラーメンの王道だなんてぬかしやがってこいつはわかってやがらないな」と思われるかもしれません。もともとは鳥取県かどこかで始まったという話も聞いたことがあります。「鳥取県かどこか」が「島根県」だった場合、私はそっち方面の方からのクレームにも晒されるかもしれません。昔はテキトーなことをテキトーに書いていても誰にも怒られなかったんですが。

 というわけで。
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 祇園にあるラブホテルではない。

 第一旭が京都ラーメンの王道かどうかはさておき、鳥取県かどこか発祥であるらしいというのも置いておいて、今日オープンする第一旭は朝8時オープンなので私のルールでは朝7時以降に並ぶことになりますが、超人気店ゆえ、7時以降なら7時ジャストに並ばなければなりません。

 ところが昨晩、急遽用事が入ってしまい、今朝は8時までくらい自宅にいなければならなくなりました。無念ではありますが、その他諸々の用事を差し置いてまでやるのが趣味ではありません。タモリが「真剣にやれよ仕事じゃないんだから」と言ったことによって趣味は真面目にならなければならず、結果を残さなければならないものになりましたが、そんなことはない。結果を求めすぎず気楽にやるのも趣味なのです。

 と、あきらめかけていたところ、その用事がなくなったのが昨晩遅く。
 ならば私はいかねばなるまい。
 烏丸エリアなので四条烏丸にある職場からは徒歩圏内です。
 
 第一旭にはおそらく自転車を停める場所はありませんから、まず職場の駐輪場に駐輪してから歩いて店舗へと向かう。
 自宅から職場までの間に店舗はあるので、まず職場へ向かうまでの間に下見をし、誰か並んでいないかをチェックしておく。
 
 午前6時16分。
 誰も並んでいない。
 そりゃそうか、まだ1時間44分前です。

 いったん私は職場へ腰を下ろし、昨日の夕刊や今日の朝刊をチェックしつつ、6時50分に職場を出発しました。
 ほんの30分前にここに到着したときよりも人が多くなっています。どうやら街全体がこの30分の間のどこかで起床したらしい。

 これはやばいかもしれないと思い、少し早歩きでお店へ向かう。
 1時間以上は待たないと決めたくせに。

 室町四条を北上、室町通り沿いのホテル1階には朝食を食べている宿泊客の姿があります。京都市内のど真ん中に宿泊し、優雅かどうかは知らないですけどたぶん優雅な朝食に舌鼓を打つこの人たちの日常はどのようなものなのでしょう。この人たちの豊かさとオープンしたお店の1人目の客になるために朝早くから早歩きしている私の豊かさは違うのだ。

 室町蛸薬師の交差点西南角に韓国料理のお店があり、確かこの店はその昔、手作りノートのお店があったはずで、当時、そのお店の取材に行ったことがあります。韓国料理も食べに行きたいと思いつつ、まだ食べには行けていません。第一旭はこの室町蛸薬師の交差点を西へ入った北側にあるので、室町四条から北上してきた私はこの交差点を左折することになります。

 左折。

 先程はまだ暗かった「第一旭」の看板に光が灯っています。この間に第一旭も起きたのです。その看板の前には三人ほど若者らしき人の姿がありました。
 店員か?開店待ちか?店員か?店員か?店員ですよね?ねえ、店員さん!!!

 入口横の光っている看板を撮るにはこの三人をどかさないといけないので、二階に掲げられてある方の看板を撮っていると、三人のうち、いちばん先頭に立っているお兄さんに声を掛けられた。
 「いま、写真撮ってましたよね。僕たち邪魔だったんじゃないですか?僕ら並んでるんですけど、もし邪魔やったならいったんここから離れときますよ」とものすごく丁寧におっしゃっていただきました。

 「そうなんですね。実は私、オープンしたお店の1人目の客になるのを趣味にしておりまして、ここも狙ってたんですけどもう皆さんがいらっしゃいましたので、むしろ、皆さんの写ってる写真を撮ってもいいですか?この人たちに負けましたって書きますんで」と説明すると、三人めが私のTシャツを確認し、「ほんまや1人目の客って書いてある」とつぶやきました。

 実に感じのいい三人であったので、ひょっとしたら「めちゃくちゃおもろいことやってはるんですね!ほんなら僕ら別に1人目にこだわってるわけじゃないんで交代しましょか?」くらい言ってくれるかもしれないと期待したのですが残念ながらそんなことがあるわけがなかった。

 令和6年9月27日、室町蛸薬師西入ルにオープンした「第一旭」の1人目の客にはなれませんでした。

実に好青年でありました。
もう会うこともないと思いますけど
一期一会。
気持ちのいい朝でした。

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